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恋満ちる 14

「おはよーございます!」 「菅野くんは、朝から元気だなぁ」 「そうですか。いやぁ~ぐっすり眠ったからかな」  朝からニコニコ笑顔の菅野に、僕の頬も緩む。  なんだか新鮮だな。  僕の親友(まだ……こう呼ぶのは恥ずかしいが)と一緒に迎える朝があるなんて。 「瑞樹は菅野くんを、見過ぎだ」 「へっ? 」(そこを注意されるとは) 「ははっ、滝沢さん朝からヤキモチですか」 「いや、そういう訳じゃ……コホン」 「しかし耳栓は使いませんでしたよ。期待してたのに残念! 」 「お、おい! 」 「瑞樹の親友は、やはり俺とも気が合うな」  宗吾さんにブンブンと握手されている菅野の行く末が、心配だ。 「菅野、少しまずいかもよ」 「何が? 」 「宗吾さん化しているよ。気を付けないと」 「え? それはイヤだー」 「うんうん」  菅野がギョッとして、心底いやだぁーという顔をするので、笑ってしまった。 「あはは!」 「くすっ、くくっ……」  食卓が笑の渦に包まれた。  本当に和やかな朝だな。僕の気持ちもとても凪いでいて……昨日まで心の奥にあった不安が解消されていた。 「そうだ、滝沢さん。今度の週末は社員旅行なの、知っていますよね」 「あぁ……それが俺の現在進行形の心配の種だ」 「大丈夫ですよ。俺、しっかり見守ります! 」 「よし、頼むぞ」  僕の前でガシッと手を握り合う二人に、やはり笑ってしまった。 「菅野と宗吾さんの息、合いすぎです」 「ははっ」 「あっ、俺も朝飯づくり手伝いますよ。料理は得意です」 「いいね。頼むよ」  心強いと思った。  この二人がタッグを組むのは、本当に頼りになる。 **** 「……お兄ちゃん~おはよう」 「あ、芽生くん。ひとりで起きられたんだね。今日も偉いね 」 「シンユウさんも、まだいる? 」 「いるよ。お兄ちゃんと同じ職場だから、一緒に出掛けるよ」 「そっかぁ、いいなぁ……ねぇおにいちゃん、今日はおきがえ、てつだって」 「うん? いいよ」      今日は菅野が朝食の手伝いをしてくれるので、芽生くんのお世話に徹しよう。  それにしても……いつもなら一人でお着替えできるのに、いつになく甘えモードなのは、菅野がいるお陰で人手が余っているのが分かっているからかな。  いや、違うな。それもあるが、もっと大切なサインが潜んでいるのでは。  芽生くんの「やって! 」や「して!」は、甘えのサインだ。  芽生くんがこんな風に甘えてくるのは、何か不安があって、愛情を確認したい時だ。 「僕のことを好きなのかな? 」 「僕を見てくれてるかな? 」 「僕は必要とされてるのかな? 」    そんな不安や寂しさを打ち消したくて、甘えてくる。  昨日の僕も、そうだったから分かる。宗吾さんにどこまでも甘えてしまった。  人は甘えさせてもらえることで安心し、また周りを愛せるようになる。  大切にされることによって、自分の幸せを知り、自分を好きになり、自信を持つことができる。 「芽生くん、何か心配なことがあるのかな」  子供部屋でパジャマを脱がしながら、聞いてみた。 「う……ん、おにいちゃんにシンユウさんがいるのは、うれしいんだよ」 「うん? 」 「でもねぇ……」 「言ってごらん」 「んーおにいちゃんをとられちゃったみたいで、さみしくなったの。あ、すこしだよ。すこしだけ」 「芽生くん……そうだったのか」 「ボクって、いじわるかなぁ」 「ううん、そんなことない。うれしい! 芽生くんは僕の家族だよ。一番近い場所にいるんだよ」  そんな風に僕を思ってくれるなんて……  うれしくて、思わず抱きしめてしまった。 「芽生くん、大好きだよ」 「ボクも、おにいちゃんがだーいすき!! 」

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