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恋満ちる 15

「おーい葉山、飯、出来たぞ! 」 「おい、ちょっと待て」  朝食の支度が調ったので、子供部屋に入ろうとしたら、滝沢さんに止められてしまった。 「へっ? 」 「もう少し、二人だけにしてやってくれないか」 「どういう意味です? 」  ドアの隙間からは、葉山が芽生くんをふわりと抱きしめている様子が見えた。 「あ……なるほど」 「……やはりな」  滝沢さんは二人の様子を確認し、腕組みをしてウンウンと頷いた。 「こういうことって、よくあるんですか」 「んーそうだな。今日みたいに人手が多い時とか、不安がある時は、芽生は甘えん坊になる」 「なるほど、小さな子供の心って繊細ですね。それにしても葉山は嬉しそうだなぁ。背中が物語っていますね」 「あぁ瑞樹も、芽生に甘えてもらうのが好きみたいでな」 「そういえば……入社当時の葉山って、どこか一線引いている所があって、飲み会でも消極的だったな。甘えるのも、甘えさせるのも望んでいないように見えました。だから女性陣は大勢狙っていたのに、葉山は全然靡かなくて……」 「んんっ、なんだって? 」  ヤバイヤバイ! 彼氏に余計な嫉妬を抱かす発言しちまった! 「あ、いや……今は大丈夫ですよ。葉山自身が幸せオーラ出しまくっているので、皆、葉山には超ステディな彼女が出来たんだと、勝手に納得していますので」 「ほぅ? そうか、ならいいが」    その相手が滝沢さんだなんて、誰も知らない。これは絶対に俺だけの秘密にする。特に金森には、絶対に知られない方がいいな。アイツは超‼︎ 危険人物だ。 「菅野くん、会社では頼むよ。俺には君しかいない」 「ははっ、頑張ります!」  滝沢さんが俺の肩を掴んで、派手に揺さぶってくる。わ、激しい揺れだ! 本当は少し二日酔いだから…うぇっ…… 「あのぉ、なんか吐きそう~」 「え? おい、大丈夫か」  今度は背中を必死に擦ってくれる。  すると痛い視線を感じたので横を見ると、芽生くんと目が合った。そして葉山とも……二人がジドっと見ている。なんだなんだ? 「おにいちゃんのシンユウさんは、パパとずいぶんなかよしだねぇ」 「……うん、そうだね」  ええっ? 葉山の声のトーンが低い。まさか俺に妬いちゃったとか。 それはナイナイ、絶対ナイからなー! 「瑞樹、ありがとうな。重たいだろう? 」 「……大丈夫です」 「ん? 瑞樹どうかしたのか」 「あ。いえ、何でもないです」  葉山は決まり悪そうに、芽生くんを椅子に座らせた後、何故か、もう一度子供部屋に消えて行った。 「おい、どこへ行く? 」 「あ……えっと、芽生くんのお布団、直してきますね。先に食べていてください」 「瑞樹……」  パタンとドアの閉まる音に、ハッとした。俺がすべきことをしないと! 「あのあの、滝沢さんも手伝ってきたらどうですか。俺は芽生くんと先に朝ご飯を食べていますので」 「そうか……そうだな。ありがとうな! 流石、気が利くな」  いつも控え目で優等生のみずきちゃんよ。  もっと自分の感情を出せ、出せ。  甘えていいんだぞ、彼氏には!  葉山の意外な一面を見てしまった。 ****  馬鹿、馬鹿……瑞樹。何やってんだ。  僕のいない所で菅野と宗吾さんが意気投合して楽しそうにしていたからって、何で胸がズキンとしたのかな。  僕の親友と大切な人が仲良くしてくれるのは、喜ばしいことなのに。  こんな態度を取るなんて、変に思われる。あ、そうか……僕もさっきの芽生くんと同じ気持ちなんだ。でも僕はもう大人だから、こんなやきもちは……子供みたいな自分に苦笑してしまった。 「瑞樹、手伝うよ」 「あ、宗吾さん、すみません。僕……」 「大丈夫。君のは可愛いヤキモチだよ」 「あ……っ、バレて……」 「おいで。瑞樹も『抱っこ』の時間だ」 「ぼ……僕は小さな子供じゃないです。そんな言い方……っ」 「歳なんて関係ないよ。心が大事だ。そうして欲しい時に、そうしてもらうのがいいって、瑞樹も芽生にしてやったから、よーく知っているだろう」 「う……宗吾さんは、いつも僕に……甘すぎます」 「いいから、来いよ」  宗吾さんが腕を大きく広げ、僕を呼んでくれる。だから僕は、彼の胸に飛び込んでしまった。 「甘えていいんだぞ。俺は瑞樹に甘えてもらうのが生き甲斐の人間だ」 「宗吾さん……ここは、いいですね。甘えてもらうのも、甘えるのも両方出来る場所なんですね」 「そうだよ。ついでに俺とは、こんなことも出来るぞ」  顎を掴まれ、チュッとキスをされた。 「んっ……あっ」 「どうだ? もっと甘いだろう」 「だめ……ですって」 「もう少し」 「ん……」  彼を押し退けようと思ったが、つい自分からも舌を絡めてしまった。 「ん……っ」  少しだけざわついた気持ちは、すっと凪いでいく。  甘い吐息を絡め合うと止まらなくなる。扉の向こうには菅野がいる。だから駄目なのに。 「あぁっ!……っ」  だが背徳感でゾクゾクしてしまう……もう、僕は宗吾さんの影響を受け過ぎだ。    すると大きな声で「ごちそうさま!」と、菅野と芽生くんが言い合っているのが聞こえ、笑ってしまった。 「おっと、俺たちかなり出遅れたな。そろそろ飯に行くか」 「はい。遅刻してしまいますね! 」  親友を泊めた朝は、いつもの倍……甘い甘い朝だった! あとがき(不要な方は飛ばしてください) **** いつも『幸せな存在』ワールドに浸りにきて下さって、ありがとうございます!励みになっております。 瑞樹と菅野は、ますますよい親友になりましたね。 甘えられる人がいるのも心強いし、甘えてくれる人がいるのも嬉しいです。 素直な気持ちにならないと、出来ないことだなと書いていて思いました。 さて明日からはいよいよ、社員旅行編です。 旅行前夜から始まります~秋の箱根は紅葉が綺麗でしょうね♡

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