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恋満ちる 17
「おにいちゃん! ほんとうに、ほんとうに、ここにかいていいの?」
芽生くんが旅行鞄から、僕のパンツを取り出して、マジックを握りしめた。
「うん、いいよ」
「うわぁぁ……!」
芽生くんの目は、高揚してキラキラしている。
分かるよ。子供って、やはり本物が好きなんだよね。
「先生もいっていたよ。じぶんのおにもつには、おなまえを書かないとね! よーしっ、ボクにまかせて! 」
胸をトンっと叩く仕草も可愛くて、思わず笑みが零れてしまうよ。最近の僕は、立派な親馬鹿だと思う。芽生くんと過ごせば過ごすほど、親子の愛情に似たものを感じてしまう。
芽生くんは、緊張で少し震える手で、マジックを握りしめた。
「えっとぉ……さいしょは『みずき』の『み』だね……わぁ、あれれ? なんだか、おおきくなっちゃった!」
わっパンツの正面に大きく名前が……まぁ、よしとしようか。
「大丈夫だよ。そのまま続けて」
「うん! えっと『ず』はこう!」
わわっ! 今度は左右逆だ。どうしようかな、これは『鏡文字』だな。
鏡文字とは「さ」を「ち」と書いたり、字を覚えたばかりの小さな子供にありがちな、鏡に映すと文字が正しく読める文字のことだ。
「あれれ? なんか、ちがうような」
「う、うん……えっとね、『ず』が、逆さまになっているよ」
「あっそうかーじゃあこれはバツね」
わわわ、バッテンがついちゃった。僕のパンツがすごいことになっていく。
「つぎは『き』だね、えっとぉ」
ふぅ……今度は大丈夫だ。しかし、芽生くんはどこか不満そうだ。
「どうしたの?」
「うん……まちがえちゃったの……くやしくて」
「そうか、じゃあ裏にも書いてみる? 」
「えっ、いいの? 」
「うん、どうぞ」
もうこうなったら……裏も表も同じだよ。
「『み……ず……き』! やったー今度はうまくかけたよ」
今度も文字は大きかったがスラスラと書けたので、芽生くんも大喜びだ。
いいね。この笑顔……何でも許せてしまうよ。
「ひらがな、上手に書けたね。偉いね」
「おにいちゃんも、うれしい? 」
「うん! とっても嬉しいよ。旅行でも芽生くんのこと思い出せるしね」
「えへへ」
****
その晩、社員旅行に行くのを寂しがる宗吾さんに、ベッドに誘われた。
もちろん僕も同じ気持ちだから、彼の胸の下に収まり、目を細めて見上げている。
「明日は一人寝か~寂しいな」
「芽生くんがいますよ。でも……確かにたった一晩なのに、なんだか寂しいですね」
「あぁ瑞樹もそう思ってくれるのか。なぁ瑞樹……あのパンツ本当に持って行くのか」
「芽生くんが名前を書いてくれたのですか」
「そう! 」
「もちろん持っていきますよ。別にパンツを見せるような相手もいませんしね」
「そうか! そうだな。うん、確かにそうだ! それに瑞樹は俺達のモノだって書いてあるようでいいな」
「くすっ、僕はモノではありませんが、そんな風に言ってもらえるのはうれしいですよ。しかし、今日の芽生くんは笑ったり泣いたりして、忙しかったですね。でも子供が喜怒哀楽はっきり見せてくれるのって、ホッとしますね。函館の母が心配した気持ちが今になって分かります。僕は函館の家では、優等生過ぎましたね」
「……仕方がないさ。それは」
「んっ……」
宗吾さんがパジャマのボタンを外しながら、僕の首筋に顔を埋め、ちゅちゅっと、沢山キスをしてくる。
「あっ……駄目ですよ。痕はつけないで……」
「どうして? 俺もマーキングしたい。君に」
「だ、駄目ですって、だって、明日は温泉ですよ」
「うう、それを言うな。そこ、めちゃくちゃ心配なんだから!! 」
宗吾さんの目は、真剣だった。
「なぁ風呂場ではタオルで、ここを隠すんだぞ」
「ん……あっ、もうっ、触り方がエロい……」
「エロいことしてるんだから、当たり前だろう」
「それは……確かにそうですが。んんっ……」
宗吾さんが僕の下半身を弄りながら、必死に訴えて来る。
「腰のタオルはきつく縛ること」
「くすっ、大丈夫ですよ。そういえば……去年を思い出しますね。洋くんみたいなことには、絶対になりませんから」
去年の夏……洋くんの風呂場での惨事を思い出して、苦笑してしまった。
「あっ、だからって、つけないで下さいよ」
「誰にも見せないんだから、いいんじゃないか」
「よ……よくないです!! 」
宗吾さんが僕の太腿の内側、際どい部分を唇で撫でた。
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