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恋満ちる 23
「葉山、そろそろ上がろうか」
「そうだね」
「しかし、厳重だな」
「え? 」
「まぁ~それ位ガードが堅い方がいいぜ。みずきちゃん」
菅野に腰のタオルの端っこを、突然グイっと引っ張られて、目を丸くした。
「な、なにするんだよ」
「やっぱり、かなりきつく結んでいるよな~ビクともしない」
「あっ、うん。まぁ……悲惨な事故を目撃したことがあるから」
こんな時にいつも思い出すのは、月影寺の洋くんが風呂場で転んで、タオルが吹っ飛んだシーンだ。
(洋くん、ごめんよ。君の本当の印象はもっと気高いのに……)
今日の僕の脚には何もついていないが、何となく宗吾さんに愛してもらう場所を、他人に晒すのは躊躇してしまう。
こんな考え……男のくせに変だとは分かっているのだが。
しかし……宗吾さんとお付き合いするようになってから、僕は自分の躰を、とても大切に思えるようになっていた。
「さぁ早く行こうぜ。金森が来ると煩いから」
「はは、本気で今日の夜は、潰れてもらいたい。だから、よろしくな」
「任せとけって! 」
「頼もしいよ」
金森には悪いと思ったが、危険信号が灯るから、許せよ。
「あれ? 噂をすれば、金森が来ちゃったぞ」
部屋で待っていてくれと頼んだのに……もう? し、しかも股間を全く隠しもせず、立派なものをブラブラと惜しげもなく!
お、男としては気になって、つい見てしまうじゃないか。悪い奴ではないのは分かっているが、どうもなぁ……
「金森鉄平!! お前なぁ、前、隠せよ! 恥を知れ! 」
菅野が慌てて注意するが、金森は平然としている。
「それより先輩たち、もう上がってしまうんですか」
「そういうこと! ささ、早く行こうぜ」
「金森はゆっくり、入って来い」
「そんなぁ~」
僕たちはそそくさと、脱衣場に戻った。
うわっ! 中も混んでいたが、こちらもごった返しているな。
小さな子が駆け回り、賑やかだ。
それにしても親子連れの和やかな様子に、つい頬を緩めてしまう。
幼稚園くらいの子供の天使体型って、本当に可愛い!
しかも、ほら、あの子の後ろ姿なんて芽生くんにそっくりだ。
似たような子を見たせいか、僕は芽生くんに会いたくなった。
「おーい葉山、何をキョロキョロしているんだ? 風邪ひくぞ~」
「あ、ごめん。子供が可愛いくて、つい」
「葉山って、子供好きだよな」
「そうかな? 実は……僕にも、かつて弟がいたからかな」
菅野には先日、交通事故で両親と弟を亡くしたと告げていたので、もう自分の心を隠さなくていい。こういう関係って楽だな。
「あー、そっか……でも今は、芽生くんがいるもんな」
「うん。そうだ、菅野、これを見てくれよ」
今まで気づかなかったけれども、僕は一度信頼した人には、どこまでも心を許してしまうタイプのようだ。だから芽生くんのパンツを履くついでに、思わず菅野にチラッと見せてしまった。
「わぉ!『み×き印』か~やるじゃん!」
「芽生くんがね、昨日、マジックで書いてくれたんだ。こんなことしちゃうのって、可愛いよね 」
「葉山は親子に愛されてんなぁ、これって、最高の魔よけだ! 」
「魔よけ? まぁ、そうだね」
こんな風に誰かに『自分の幸せ』を見せたり、話すのも初めてだから、やっぱり照れ臭かった。
「俺さ……葉山が幸せそうにしているのを見るのが好きだ。だから、もっともっと惚気ていいぞ」
「ありがとう。僕の方こそ、菅野といると『幸せな気分』になれるよ」
「おう! 今更、気付いたのか」
「ううん。前から思っていたよ」
「サンキュ!! さてと風呂のあとは、女装だ。思いっきり楽しもうぜ!」
「そうだね。こうなったら開き直るよ」
僕たちは湯上がりに浴衣を着て、大浴場を後にした。
さぁ夜はいよいよ女装の余興つきの宴会だ。
菅野の言った通り、楽しむ気持ちを忘れずにいこう!
僕は今、幸せな友人と過ごしている。だから、この時間を大切にしたい。
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