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恋満ちる 30

 瑞樹と二人で、大浴場に向かった。  道すがら、彼の会社の人に会わないか心配だったが、幸い誰ともすれ違わなかった。  きっと君の部署のメンバーは今頃はもう夢の中だろう。もしくは、まだ部屋飲みをしているかだ。 「しかし、今日まさか君と一緒に風呂に入れるとは思わなかったな」 「それは、僕も同じです」 「実は……さっき風呂場で君を見かけた」 「え! 全然気が付かなかったです。すみません」 「いいよ。それより、ココしっかりタオルで隠していて偉かったな」 「えっ……」  脱衣場で浴衣を脱いでいた瑞樹の頬が、あっという間に真っ赤に染まった。 「おいおい、そんなに照れるなよ。肌に痕はつけていないだろう。1週間前から慎重に気を付けていたからな。なのに、しっかり隠してくれて、ありがとうな。俺のために厳重に隠してくれたのかなと思うと、無性に嬉しくなったよ」 「あ、あのですね……さっき、どこまで、何を見ていたんですか」 「洗っている時間のすべてさ」  つい余計なことを言ってしまった。瑞樹はますます困惑した顔になる。  下半身を洗っている所はタオルに隠れて見えなくて、煽られたとは、流石に口には出さなかったし、芽生に心配されたことも内緒だ。 「それって……かなり恥ずかしいです」 「いや、最高に可愛かったよ。なぁ、あとで部屋で……もっと見せてくれないか」  瑞樹がギョッとした面持ちで、大きく一歩退いてしまった。 「だ、駄目ですって! 今日は絶対に駄目ですよ!! 」 「なんで?」 「だって……お母さんと同室ですよ」 「はは、瑞樹~は面白いな。そんな清純そうな顔をして、案外ムッツリだよな」  瑞樹の反応が良すぎるので……これはもしかしてと思い、揶揄いたくなった。 「む、むっつりって、どういう意味ですか」 「今、何を、どこまで想像したんだ? 俺は芽生の書いたパンツの話をしていただけだぞ?」 「えっ! あぁ、また僕……宗吾さんにひっかかってしまいました」  瑞樹が涙目で頭を抱えて、しゃがみこんでしまった。 「おいおい……俺は何もしていないよ。みずきの変〇脳が、突っ走っただけじゃ」 「わー!! もうそれ以上は言わないで下さいよ」  しかし『み×き印』パンツ一丁の姿は、かなり刺激が。  瑞樹はたまに派手にやらかす。まだ付き合って間もない頃、広樹と俺の喧嘩を仲裁しようと、真っ裸で風呂場から登場したこともあったよな。あれには仰天したよ。あの頃の俺はまだ君を抱いていなかったから、刺激が強すぎて卒倒しそうだった。 「宗吾さんは、余計なことまで思い出さなくていいです!」 「ははっ、しかしその姿はヤバイ。ほら、パンツを脱いで、素早くタオルをしっかり巻け」 「う……ヘンな指示ですよね」  脱衣場には人がいないので、俺たちは肩を揺らして笑いあった。 「あの、宗吾さん……僕は今、社員旅行中なのに……大丈夫でしょうか。以前の僕ならこんな風に羽目を外さなかったのに、何だか不思議な気分です」 「ん?」 「今の僕は……正直、この状況を確実に楽しんでいます。こんなの、いけませんか」 「大丈夫だ」 「では……本当にあの部屋に戻らなくてもいいんですか」  まだ心配そうな瑞樹……そういうところが、謙虚でいじらしくて可愛い所以だ。 「当たり前だ。君はもう社会人の大人だろう。中学や高校の修学旅行でもあるまいし。そもそも、あんな危険な後輩がいる部屋には帰せないよ。だから、俺の部屋に来い!」  揺らぐ心を整えるために、ビシッと言ってやる。 「あ……ハイ、そうします。嬉しいです」  ニコッと心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべ、湯の中で耳朶まで赤く染める瑞樹。  あー、はたして俺の部屋(正確には母さんと芽生のいる部屋)に連れ込んで、コイツがいい子に我慢できるか、心配になってきたぞ。 「ちょっ、お湯の中で、どこを触っているんですか! も、もう、上がりましょう」 「お、おう! そうだな」  俺たちは肩を並べ、微笑み合いながら廊下を歩いている。    世の中に『バカップル』と言う言葉があるが、やっと意味が分かった。  今の俺たちは、まさにそれだ。  まぁ……それだけ熱烈だってことさ。  ふたりで湯船に浸かった時に、湯気のゆらぎと共に、幸せがじわっと込み上げてきた。    特別な何かは……いらない。  ただすぐ傍に、大好きな人がいる。  人は、それだけで心が湯の中のようにポカポカと暖かく……嬉しくなる。    この関係は、俺と瑞樹が春先から同居を始め、時間をかけて築き上げたものなので、簡単には手に入らない。  幸せって、とてもシンプルに出来ている。  そして、毎日の積み重ねだと思う。 「さぁ1122室に到着だ」 「いい部屋番号ですよね」 「だろう? さぁおいで!」 あとがき(不要な方はスルーで) **** 社員旅行編も、もうすぐ終わりが見えてきました。 宗吾さんと瑞樹の連日のバカップルぶりには、呆れられてしまいそうですが…… こんなご時世なので、この二人には、気楽にいちゃいちゃラブラブしてもらいたくなってしまいました。シンプルな幸せに、もう少しだけお付き合いくださいませ~♡

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