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恋満ちる 33
「葉山先輩、どうして起こしてくれなかったんですかー」
朝食のビッフェ会場で菅野と和やかに談話していると、金森がボサボサ頭のまま、すっ飛んできた。
「……よく眠っていたからだよ。ところで昨日の記憶って、ある?」
「いえ、全然ないっす! オレ、いつの間に部屋に? あー先輩と部屋で酒飲んで語りたかったのに、残念です。しかし、よく眠った」
「……イビキがひどかったぞ」
あまりの能天気ぶりに、僕にしては珍しく嫌味の一つでも言いたくなってしまった。
「へへっ、やっぱ、そうでした? 実は前の彼女にも怒られて、あー今度の彼女にも言われちゃうかな?」
「はぁ?」
彼女がいるのに、僕の女装姿に女だったらとか……言うなよ。軽薄な奴だな。
そう口に出したくもなったが、ぐっと我慢した。
とにかく金森鉄平とは、残念ながら分かり合えない部分がある。こういう人間とは、やはり適度な距離を保つのが一番だ。
僕は、また一つ学んだ。人間には相性というものが存在すると。
「ほらほら、金森はあっち行け! 葉山と俺は、楽しく食事中だ」
「オレも同席は駄目っすか」
「駄目にきまってる!!」
菅野が金森を追い払ってくれ、僕を心配そうに見つめてきた。
「葉山、あいつ昨日大丈夫だったか」
「……大丈夫ではなかったけれども、大丈夫だったよ。菅野のお陰だよ。宗吾さんに部屋番号を教えてくれてありがとう。助かった」
「そうか。やっぱり役に立ったのか。だってさ、好きな人と同じ宿にいるのに、会わない方が不自然だろう」
そうか……もう無理しなくていいんだな。
僕は我慢したり無理するのが習慣になっていると、また反省してしまう。
「菅野はよく気が利くし、優しいし、どうしていい人と巡り会わないのか不思議だよ」
「ううう、みずきちゃんだけだよー! そんなこと言ってくれるのは」
本音だよ。すごく支えられている。
昨日だって、扉を開けたらすぐに宗吾さんがいてくれて……怯える僕を間髪入れずにフォローしてもらえたのは、やはり菅野のお陰だ。
「葉山……俺さ、実はお前達の恋愛に感動しているんだぜ」
「何に?」
朝からこんな会話をして大丈夫かとも思ったが、幸い周りには社内の人はいない。
「そのさ、男女の恋愛だってままならないことが多いのに、葉山たちって、本当に毎日が楽しそうで……なんていうのかな、ピュアだよ! お互いの存在自体を喜びあえる関係って、なかなか、ないだろう。しかも一緒に時を過ごせば過ごすほど、深まっていくっていうの? すごいなって、いつも思っている」
「ありがとう。嬉しい言葉だよ」
今朝……宗吾さんのお母さんからも、似た言葉を送ってもらったばかりだ。
秋が深まっていくように、宗吾さんと僕の恋もまた一段と深みを増したのだろうか。周りから見ても、そんな風に見えているなんて、嬉しい。
去年より今年、過去より現在、今日より明日、いつも前を見て歩んでいきたい。
本音を言うと……心の奥底で、間もなくやってくる11月が怖かった。
でも宗吾さんの深い愛に包まれていれば、大丈夫だ。
きっとあっという間に、11月は過ぎていくだろう。
もう二度とあんなことは起きないのだから。
秋が満ちるように、僕たちの恋も満ちて行く──
『恋満ちる』 了
あとがき(不要な方はスルーです)
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社員旅行を通して、菅野くん視点の交えて
宗吾さんと瑞樹の深まる恋を1か月かけて掘り下げてみました。
季節は12月ですね。(クリスマスのお話……ずれ込みそうです)
瑞樹にとっての悪夢の11月は簡潔に飛ばして、楽しい12月に入りたいです。いつも読んで下さってありがとうございます。
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