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聖なる夜に 4

「葉山、お疲れ。一緒に駅まで行くか」 「いや、今日はちょっと」 「ははん、彼のお迎えか」 「……そうなんだ」 「OK! 楽しい週末を」 「うん! 菅野もね」 「ううう、言うな。クリスマス前の寂しい休日だぜぇ」 「くすっ、大丈夫だよ。きっと菅野にもいい事があるよ。ちゃんと良い行いは、神様がみてくれている」 「そうか、みずきちゃんに言われると元気が出るな」  今日は土曜日で休日出勤だったが、仕事の後、宗吾さんと芽生くんと合流出来るのが、楽しみだった。 「あれ? まだこんな時間?」  宗吾さんとは銀座のデパートの前で待ち合わせだったが、1時間ほど早く仕事が終わったので、だいぶ時間があった。宗吾さんたちは今頃……まだ映画を観ているだろうし、どうしようかな。どこかで時間を潰そうかな。あ、そうだ……。  梅雨の時期に宗吾さんと指輪を選んだ宝飾雑貨店のことが頭に浮かんだ。  実は今朝の新聞広告の一面に、このお店のクリスマスギフトが掲載されていた。よく見ると意外と手頃な値段で、高品質なものが購入出来そうなのが分かったので、立ち寄ってみたくなった。 「いらっしゃいませ」  ふかふかな赤い絨毯は相変わらず一般人の僕には間違いな気もするが、店員さんは皆、僕を大切に扱ってくれるので、心地良くギフトを選べそうだ。 「あ、この靴下だ」  国産ウールの、ノルディック柄の靴下を見つけた。これが目当てだった。サイズはフリーかな? 柄は出ているだけかな? 「お客様、お手伝いしましょうか」 「あ、はい。あの……これ、今朝の新聞広告で見て、気になって」 「ありがとうございます。こちらは北海道、旭川の工房で製作してもらっています。北海道に降る雪をモチーフにしているそうですよ」  旭川、北海道の雪……  僕の心が躍る言葉が、突然降って来たので、驚いてしまった。  どうやら、縁がありそうだ。 「そうなんですね。いいですね。僕は北海道出身なので、とても惹かれます」 「あの……失礼ですが、故郷に贈り物ですか」 「はい。実家と……あと離れて暮らす弟に。それから近くに住んでいる家族と、一緒に住んでいる家族にも」 「わぁ……大勢なんですね」  今の僕は……そうだと、自信を持って答えられる。 「えぇ、そうです。皆……仲が良いので」 「羨ましいです。あ、よかったら、女性やお子様のサイズも、お揃いでありますよ」 「本当ですか! ぜひ見せて下さい」  良かった。お母さん、みっちゃん、美智さん、芽生くんにも、同じシリーズで購入できるなんて。 「あの……クリスマスに間に合いますか」 「もちろんです。クリスマスのラッピングにしますね。直接ご配送も承りますので」 「ぜひお願いします」  店員さんが出してくれた靴下は、手作りらしく一つも同じ模様はなかった。  雪の結晶が一つ一つ違うように、モチーフでも、雪の結晶の形が少しずつ違うのには、感動してしまった。   「ごゆっくりどうぞ」 「はい、少し考えさせてください」  おおらかな心の広樹兄さんには、海の色の深い青を選んだ。函館のお母さんはチューリップが好きだから、ピンク色ベースのこれがいいかな。若い潤には、若々しいマスタードイエローにしよう。みっちゃんには明るいイエローかな。  そして真面目な憲吾さんには、シックな黒。お母さんには高貴なパープル、そして、美智さんには優しく淡いラベンダー色かな。  あとは……  宗吾さんは深いグリーンで、芽生くんは若草色にしよう! 「すみません。では、これとこれは函館の住所に。こちらは持ち帰ります。あとこの1足は軽井沢の住所に……」  配送伝票を書いているうちに、ふと欲が出てしまった。  ここまでお揃いで買ったのなら、僕の分も欲しいな。  自分で自分にギフトなど買ったことはないけれども。 「あの、深いグリーンのを、もう1足いいですか。恥ずかしながら……僕の分も欲しくなりました」 「ご自身に贈り物もいいですよね」 「あの……変でしょうか」 「とんでもないです。『セルフケア』も大切ですから」       クリスマスには、離れている人にも近くにいる人にも、贈り物がしたくなる。  そんな優しい深い気持ちになるのも、僕が今とても幸せで愛されているからなのだろう。  そんな僕を褒めてやりたい。    自分にご褒美をあげたい気分になった。  

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