552 / 1741
聖なる夜に 11
「おにいちゃん、ほんとにほんとに、まにあうかなぁ」
「大丈夫だよ。急いでくださいって、ちゃんと書いたし」
「あのね、ボクね、ほんとのこと、いうとね……」
語尾が小さくなっていくのは、何か話しにくいことがある時かな?
日曜日も営業している集配局からの帰り道、手を繋いで交わす会話が、愛おしすぎる。
「どうしたの?」
「ほしいもの……いっぱいあったけど、まよってしまって」
「うんうん、そうだろうね」
僕も大沼にいた頃、ワクワクと弟の夏樹と一緒に手紙を書いたものだよ。あれもこれも欲しいと、あの頃は欲張ってしまったな。
夏樹はまだ小さくて文字を書けなかったが、お絵描きが芽生くんのように上手だった。だから絵で欲しいものを描いていた。
亡くなってしまう前の年のクリスマスの願いは、確か……。
『夏樹、これはサッカーボールだよね? 上手に描けたね。すごいぞ! これをサンタさんにお願いするの?』
『うん! ハルになったらおにいちゃんにおしえてもらうの。いっしょにあそぼうね』
『え? 僕に』
どちらかといえば……僕は昆虫や草花に夢中な男の子だったので、サッカーはやったことがなくて、慌ててセイや木下に体育館で、ルールや蹴り方を教えてもらった。
「でもね、なにかひとつだけっておもったらね、すぐにきまったんだ」
「そうなの?」
何か一つに絞った時に……僕を思ってくれるなんて、泣けてくる。
宗吾さんに身体を温めてもらい、心を温めてもらい、それだけでも十分すぎることなのに、幼い芽生くんからも、信頼の愛情を注いでもらえ……僕は本当に幸せ者だ。
「だって……おとなにはサンタさんがこないんだよね?」
「そうだね」
「だからボクがサンタさんになりたいな~って。えへへ、おにいちゃん! たのしみにしていてね。まだなかみは、ナイショだけれども」
「うっ……」
駄目だ。また涙腺が緩んでしまう。
泣いてしまいそうになるのを必死に堪えた。
優しい涙を、温かい涙を……僕は最近よく浮かべてしまう。
****
長野、軽井沢
「潤、お疲れー。クリスマスだから、今日は特に忙しかったな。あ、お前さぁ、年末年始は故郷に帰んのか」
「いや、今年はこっちにいます」
「へぇ、帰省すればいいのに。ローズガーデンも正月は休みだぜ」
「いいんです」
今年は五月の連休と兄貴の結婚式で二度も帰省して、金がかかったし、兄貴の所は、おめでただと聞いたばかりだ。新婚さんの邪魔はしたくない。何しろ、家は狭いからな。
このローズガーデンには全国津々浦々……庭師見習いが修行に来ている。だから年末年始には、各々の故郷へ帰省するのが常らしい。確かに夏休みなんて連日大賑わいで休みがなかったしな……。
「はー今日は冷えたな」
ひとり、宿舎の殺風景な部屋に戻り、畳に身を投げ出し、大の字になった。
「寒いっ」
足元がスースーするので見ると、靴下に大きな穴が開いていた。
やべっ、洗濯……乾いていない。
「あぁくそっ、冷えるな」
恋人もいないし、親兄弟も遠方で、俺って結構ひとりぼっちだな。こんなに寂しいクリスマスは初めてかも……まだまだローズガーデンでは新参者だし、たまに居場所がないと思う時も、正直あって寂しいもんさ。
瑞樹……瑞樹も……昔、こんな気分だったのか。
俺の家にやって来た時……俺、意地悪だったよな。兄さん母さんを取られると思って、数えきれない悪事を働いた。
大人になって、今、こうやって真面目に生きていて思う事は後悔ばかりだ。優しい瑞樹は俺を許してくれたが、俺はなかなか自分を許せない。
虚しい気分でそのまま天井を睨んでいると、廊下から声がした。
「おーい、お届けもんだ。おーすげーな、これって銀座の有名店の包装紙じゃん」
「へっ?」
なんだ、なんだ? 俺宛の届けもの?
飛び起きて廊下を覗くと、もう人はいなかったが、扉の横に小包がポツンと置かれていた。
「なんだよ、母さんからかな?」
上質な包装紙なのは、俺にも分かった。
母さんじゃない、一体誰からだ?
思い当たらなくて、不審げに差出人をじっと見て、驚いた。
「これって……これって……瑞樹からだ!」
途端に目が覚め、心が跳ねた。
ともだちにシェアしよう!