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聖なる夜に 13
瑞樹との電話を切っても、まだ信じられない思いだった。
本当に家族で軽井沢に遊びに来てくれるのか。わざわざ俺に会いに来てくれるのか。
狐につままれたような気分で、暫く……ぽかんとしてしまった。
よーしっ! そうと決まったら、いい宿を見つけておかないと!
瑞樹は俺に計画を任せると言ってくれた。それに久しぶりにスキーもしたいと言っていた。
うぉぉ……どこがいいか。
俺はまだここに来て日が浅く、近郊の冬のレジャー施設には疎いから、あとで先輩に聞いてみよう。俺なりに、瑞樹と瑞樹が大切にしている家族をもてなしたい。精一杯に!
まだ、興奮が冷めやらないよ。
身体が興奮して暑かったが、早く瑞樹がくれた靴下を履いてみたかった。
いや、だめだ。ダメ! 風呂に入ってからだ。身を清めてからでないと、勿体ない!
「あ、先輩~、この辺りのスキー場のこと、教えてください!」
宿舎の風呂場で先輩を掴まえては、聞きまくった。
東京から大切な兄一家が遊びに来るので、おすすめのゲレンデやホテル、小さな子供が楽しめるスポットを、根掘り葉掘りと。
大切な人の笑顔を見るために、何か出来るっていいな。
大切な人がいるから、出来るんだ!
そんな簡単なことを、昔のオレは何一つ知らなかった。
瑞樹、オレを見捨てないでくれて……チャンスをくれて、本当にありがとう!
****
軽井沢にいる潤と電話をしている瑞樹は、始終、柔らかい表情を浮かべていた。
和やかな微笑みだ。君には、そういう表情が、やはり似合うよ。
瑞樹は、周囲の人を和ませる力を持っている。力強い風ではなく、そよ風のような微笑みが綺麗で、つい見惚れてしまう。
話の流れから……年明けに軽井沢に誘われたことは、察知した。だから通話を終えた瑞樹を優しく胸元に抱き寄せ、確認した。
君は本当に……『軽井沢』という土地に、足を踏み入れられるのか……再び。
「瑞樹、いいのか。大丈夫なのか。本当に……行けそうか」
「あ……はい。なんだか……潤が、すごく喜んでくれて」
「よかったな。じゃあ、今回の冬の旅行は、あいつに任せてみるか」
「えっ、いいんですか」
「あぁ、君の弟だろう。全面的に任せるよ」(俺はスキー情報に疎いしな)
「はい!」
君が行くのなら、俺は全力でサポートするよ。
「……行ってみたいんです。潤の職場も見たいし……僕の新しい家族と一緒に、僕の大好きな雪景色を」
****
函館、クリスマス・イブの夜。
「ふぅ~はぁー疲れた。母さん今日は忙しかったな」
「まぁね。クリスマスは、花屋にとってはそういうものよ。とにかく、よく売れてよかったわ」
「あぁ、ここ数ヶ月で、一番の売り上げかもな」
「みっちゃんが来てくれたおかげで、店内が華やかになったせいかしら。若いお客さんも多かったわね」
夜20時過ぎて、ようやく店じまいだ。用意したクリスマスの花束やアレンジメントが全て売り切れて嬉しかった。
「あっ、お母さんとヒロくん、お疲れ様です。カレーを作ったのでどうぞ」
「みっちゃん、悪いな。今日は、つわり大丈夫か」
みっちゃんはまだ安定期ではないので、座ってできるアレンジメントや、ラッピングを少し手伝ってもらい、あとは部屋でゆっくりしてもらっていた。
カレーなんて……匂いきつかったのではと、心配になってしまった。
「うーん、ごめんね。実はまたムカムカしてきて、今日はもう横になってもいいかな?」
「当たり前だよ! ごめんな」
「私こそ、せっかくのクリスマスなのに、ごめんね」
俺、気が回らなかったなと反省してしまう。瑞樹だったらもっときめ細やかに気づくだろうに。
「とんでもないよ。さぁ、もう上に上がってゆっくりして」
「うん、気にしないで。お母さんとゆっくり食べてね」
「サンキュ!」
「そういえば、お昼間宅配便が来ていたの。そこに置いてあるから。つわりひどくて、中身……開けてなくて」
「わかった。大丈夫だよ」
みっちゃんのつわり……かなり、きつそうだな。俺が変われるものなら、変わってやりたいよ。
とりあえず腹ぺこだったので、まずは母さんとカレーをがっついた。
「……広樹、今日は静かで、なんだか寂しいわね」
「ん? 急にどうした?」
「だって……去年のクリスマス・イブは賑やかだったから」
「そうか。そうだな。去年は瑞樹がいたんだよな。潤もいたし。そうそう、滝沢さんが単身で遊びに来て飲み会をしたな。ここで!」
「元気かしらね。瑞樹も潤も……」
「そうだな」
なんとなくしんみりとして、そのまま無言でカレーを食べた。
食後、こたつで蜜柑を食べながら、みっちゃんが言っていた宅配便をおもむろに手に取って、びっくりした。
なんだか高そうな包装紙で、誰からの内祝いだったかな?……と、ぼんやり眺めていたのに、目が覚めた。
「み・み・み……!」
「広樹、何叫んでるの? もうっ、おかしな子ね」
「瑞樹からだ、これ!」
予期せぬ、贈り物だ。
と同時に、家の電話が鳴った。
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