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聖なる夜に 22
外は随分冷え込んできたが、部屋の中はポカポカだった。
雪が積もったような生クリームを纏ったブッシュドノエルに、キャンドルを灯すと、純白な雪景色が橙色の光に包まれていく。
「綺麗ですね」
「あぁ」
ゆらゆらと優しく揺れる炎に、三人の心が集まる。
「じゃあ、改めてメリークリスマス!」
皆、心を合わせて、息を吹きかけた。
一瞬の沈黙……
あっ、ほら……また天使が通った。
広樹兄さんが信じてくれたように、明日は本当に雪が降るかもしれない。
「とても美味しそうですね!」
「パパー、ボクも、きのこ食べたい」
「お、おう!」
そうだ、そろそろクリスマスプレゼントを渡そう。
「あ、あの。実は僕から宗吾さんと芽生くんに……贈り物があるんです」
「瑞樹から?」
「わぁ、なんだろう」
あの日、銀座のお店で買った靴下を渡した。
「あれ? これって……あの時の……俺たちの分もあったのか」
「もちろんです」
「パパーはやくあけてみて」
「おぅ!」
実は宗吾さんと芽生くんと僕の分は、三足一緒に包んでもらった。
靴下同士も仲良しだ。
「お! 暖かそうな靴下だな」
「はい。旭川の工房のもので、北海道に降る雪をモチーフにしているそうです」
「いい色だな。深いグリーンか。好きな色だよ。ん? こっちは、もしかして君の分?」
「……はい。その……宗吾さんとペアにしたいなって……あ、芽生くんには若草色のだよ」
あぁ、もう自分で買っておいて恥ずかしくなる。照れくさくて俯くと……次の瞬間、僕は二人にサンドイッチのようにハグされていた。
「おにいちゃん~あたたかそう。ありがとう!」
「瑞樹、嬉しいよ。俺の靴下はもちろんだが、瑞樹が自分に贈り物をしたのが嬉しいのさ!」
「……突然、したくなったんです。僕も『幸せ』に混ぜて欲しくて……」
そうか……口に出せば、こんなに簡単なことだったのか。
幸せになりたいと思ったら、待っているだけでは駄目なのだな。
いつも羨ましくても口に出せず、その資格がないと、幸せに背を向けていた昔の僕。
それでいて寂しがり屋だった。一人が怖くて……人恋しくて、大学時代に、温かくおおらかな一馬にすがって……一馬に求められるがままに、抱かれ続けていた……あの頃の僕。
アイツに捨てられて……目が覚めた。
このままで、駄目だ。きっと同じことを繰り返すだけだと。
今の僕は、宗吾さんの力強さが好きだ。
幸せな場所に来いよ。
俺と幸せにならないか。
いつだって、僕を前へ前へ進ませて、押し上げてくれる人。
そして僕の全ての喪失感を、取り戻していくような、この日常が愛おしい。
芽生くんという存在は、僕の生き甲斐だ。
ずっとここにいさせて下さい……いても、いいですか。
何度も心の中で願うこと。僕も幸せになりたくて――
「パパとおにいちゃんにもね、ボクからプレゼントがあるんだよ」
「芽生くんから?」
「うん、これ」
一通の折り紙の手紙だった。
「ありがとう。読んでも?」
「もちろんだよ!」
……
おにいちゃんだいすき。
ずっといっしょだよ!
パパだいすき。
ずっといっしょだよ。
みんな、なかよしだよ!
……
素直でシンプルな言葉が嬉しくて……結局今宵もまた、泣いてしまった。
宗吾さんが肩を抱いてくれる。
芽生くんが手を握ってくれる。
僕はあなたたちと、つながっている。
「うっ……ううっ……」
「おいおい、瑞樹は、また泣く」
「……うっ、うれしいんですよ」
「そうだな。芽生からの言葉、ジーンとするな」
「はい」
「よーし、じゃあ。俺からはこれだ。それぞれにあるぞ!」
宗吾さんからは、芽生くんと僕……それぞれに、大きな包みを渡された。
一体何だろう?
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