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聖なる夜に 27
驚いたことに、兄さんがサンタクロースの仮装をしていた。
おいおい、そんなキャラだったか。いつも堅苦しい学者肌の兄さんが、ありえないだろう!ほらほら、みんなポカンとしてしまったじゃないか。
ここは弟として俺が率先して何か言うべきだが……参ったな。いい言葉が浮かばない。
「あらあら、そんな所で。とにかく中に入りなさい。玄関は寒いわよ」
「あ……あぁ」
リビングで改めて兄さんを見ても、やはり信じられない。
何で、堅物裁判官の兄さんが……サンタ!?
すると……じっと兄さんを見つめて、しばらく考えていた芽生が、合点がいった様子で口を開いた。
「あーそうか! どうしてオジサンがサンタさんのおようふくをきているのか、やっとわかったよ! オジサンの赤ちゃんはまだオバサンのおなかの中だから、サンタさんに見つけてもらえないんだね。だから、ことしはおじさんが、トクベツに赤ちゃんのサンタさんになってあげたんだね」
「ん? そうか……あぁ、そうだな。私のサンタ姿はどうだ?」
いいぞ、流石、俺の息子だ。いいことを言うな。よし、そのまま頼む。何でもいいから、機転の利いたことをよろしく。
「うん! オジサン、すごくカッコイイよ!」
続いて瑞樹も、優しい言葉で加勢してくれた。
「憲吾さんがそんな姿で出迎えて下さるなんて、嬉しいです。クリスマス気分が一気に盛り上がりますね」
おぉ、やっぱり俺の瑞樹だ!
「そうか、そうか。気恥ずかしかったが頑張った甲斐があったよ。では私からプレゼントをあげよう」
「わーい!」
今まで芽生にクリスマスプレゼントなんて貰った記憶はないぞ。それに実家で25日にクリスマス会をしようと言い出したのも兄さんだったし……一体、どういう風の吹き回しだ?
来年には父親になるからなのか。兄さんがそんな行動に出るのは……美智さんとの仲も良好で何よりだ。
兄さんはご丁寧に白い大きな袋からプレゼントを取り出した。そこまでサンタクロースを貫くのか! 信じられない思いでパチパチと瞬きをしてしまった。
そんな様子を、母さんはとても穏やかな目で見つめていた。兄弟仲良く、家族仲良くやってくれるのが、何より嬉しいのだろう。
「あーコホン、実は、瑞樹くんにもある」
「え! 僕にもですか」
「もちろんだよ。君は『いい子』だからね」
「あ……照れます。あの……お、お兄さん……ありがとうございます」
「あぁ、そう呼んでくれるのか。うれしいな」
そうだ、それでいい。瑞樹はもう俺の家族の一員だ。
瑞樹は頬を染めて、芽生に続いて兄さんからのプレゼントをもらった。さて、中身はなんだ?
「オジサン、これ、もうあけてもいいの?」
「もちろんだよ」
芽生が中身を取り出すと、うさぎの耳がついたモコモコの白い部屋着が出てきた。
「わぁ~ぬいぐるみみたいで、かわいい! こういうの、ほしかった! ありがとうごじゃいますっ」
芽生は、うさぎみたいにぴょんぴょんと跳び跳ねて、大喜びだ。
「よかったわぁ……小さい子って何がいいのか、まだよくわからなくて。憲吾さん、やっぱりこれで正解だったわね」
「そうだな」
美智さんが選んでくれた可愛い贈り物のようだ。きっと二人で選びに行ったのだろう。仲睦まじい微笑ましい光景を思い浮かべた。
兄さんと姉さんにも、どうやらとても優しい時間がやってきているようだ。
「よかったね、芽生くん」
「おにいちゃんのは、なにかな?」
「瑞樹も、開けてみろよ」
「あ、はい!」
瑞樹も、子供のように目をワクワクと輝かせていた。
君は昨日からあどけない表情を、何度も浮かべているな。うーむ、そういう顔ももちろん可愛らしいが、そろそろ俺の我慢が……。願わくば今宵はチャンスが欲しいと願うのは、欲張りだろうか。
「わ! 僕のも同じです。芽生くんとお揃いのうさぎの部屋着です」
「なんだと?」(おぉ! これはいい! 兄さんサンキュー!)
瑞樹が広げて見せてくれたのは、芽生のもらった部屋着をそのまま大きくしたデザインのものだった。真っ白でモコモコのうさ耳が猛烈に可愛いぞ。
瑞樹とうさぎ……似合う! 似合い過ぎるだろう!
「じ、実はね……それ、女性物なのよ。細身の瑞樹くんになら、入りそうだと思って。ズボンの丈が流石に短いかも……」
「はは……」
「どうしても芽生くんとおそろいにしたくて、ごめんね」
「いえ、嬉しいです」
瑞樹は最初は少し戸惑った様子だったが、芽生とお揃いなのが嬉しいようで、花のように清楚に微笑んでくれた。
しかし……いいなぁ。ふたりでモコモコするのか。そこで、バチッと兄さんと目が合った。
「兄さん! もしかして俺にもあるのか」
「あぁ、宗吾にもちゃんとあるぞ。お前だけ仲間外れだと、後々恨まれそうだからな」
というわけで、俺も大きな包みをもらった。
驚いた。兄さんから物をもらうなんて、一体何年ぶりだ?
「まさか俺も……うさぎか」
「……そんなはずないだろう。お前のは――」
これは、気になる!
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