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聖なる夜に 38
白いうさぎの部屋着を着た瑞樹が可愛すぎて、溜まらなかった。
「あの、そんなにジッと見つめないで下さい、は、恥ずかしいです」
「今日は独り占めできるな。君を……」
「あっ、あの……宗悟さんもクマの部屋着になってください」
「いいよ。だが、今日は君が脱がしてくれ」
「くすっ、甘えん坊ですね」
クリスマスの夜、瑞樹を独り占めできると思ったら、なんだか急に甘えたくなってしまった。
いい歳した男がすることでないが、最近の瑞樹を見ていると、甘えたくなった。
「……いいですよ。甘えてもらえて、嬉しいです。いつも僕が甘えてばかりなので」
「んなことない! 俺は瑞樹に甘えてもらえるのが大好きだ!」
つい力説してしまう。すると瑞樹も柔らかく口角を緩めた。
「宗吾さん……生きて行くって……甘えたり、甘えられたり、人に頼ってもいいのですね。僕は……本当に何も知らなかった」
「仕方がないよ。君はあまりに急に全てを失ってしまったから。だが、その分、今の君はとても柔軟でいい感じだよ、肩の力が抜けたな」
「そうでしょうか」
「そうだよ」
額をコツンと合わせた。あの日、野原でしたように――
今日の俺たちは、白いうさぎと、グレーのクマの着ぐるみ状態だ。
「ふふ。これって……本当にヌイグルミみたいですね。あ、そういえば……」
「どうした?」
「僕の幼稚園時代を、ふと思い出しました」
「ん? お遊戯会か。どんな思い出がある?」
「僕は『どうぞのいす』という劇に出たのが、懐かしいです。友達を思いやる優しい動物たちが沢山出てきたんですよ」
「あぁそれなら、知っているよ。芽生の幼稚園でも毎年、年長さんが音楽劇でするからな。確か、いろんな動物がでてくるよな」
「はい、花たちに……双子のうさぎ、ロバに、クマのお父さんとお母さん。きつねのお母さんと子供、大勢のリスたちも」
「盛りだくさんだよな。すると今日の俺はクマのお父さんか。で、瑞樹は何の役だったんだ?」
「……えっ、それ、聞きます??」
瑞樹は照れ臭そう……頬を染めた。
おいおい、何故そこで照れる?
「怒らないですか」
「ん?」
「……僕は、うさぎでした」
「そうか、うさぎは可愛かったな。主役みたいに目立ってさ。そう言えば女の子うさぎとペアで、いい雰囲気だよな。やっぱり相手役の子、可愛かったか」
わざと、ジドッとした目つきをすると、瑞樹が慌てて首を振った。
「ぼ、僕はクマさんとペアがいいです!」
「サンキュ! しっかり聞いたぞ」
「もうっ」
カーテンを閉めようと窓辺に近づくと、冷気が込み上げてきた。
雪はまだ……しんしんと降り続いている。
雪が積もり外が白いので、窓辺がほわんと明るく見える。
夜の雪か――
「なぁ、ちょっと雪を見ないか」
「いいですね」
「おいで」
ふたりで肩を並べて、窓を開け、外を覗いてみた。
「雪……粉雪みたいになってきましたね」
瑞樹がすっと空に手を伸ばす。
その指先に、雪が止まった。
「ん……今日は白い服だから、結晶が見えませんね」
「どれ?」
俺も手を伸ばしてみると、グレーの部屋着に雪がくっついてきた。
去年のクリスマスは……函館の家の2階で、同じ事をしたな。
「瑞樹との2度目のクリスマスだ」
「はい」
去年と同じように……彼のほっそりとした腰に手をグイッと回してホールドし、一緒に空を見上げた。今年も、俺のぬくもりで包んで、共に過ごすホワイト・クリスマスだ。
瑞樹となら洒落たレストランも高層階の展望台もいらない。ただ彼のぬくもりを近くに感じられるだけで、そこが最上の場所になる。
その気持ちは1年経って、深まるばかり。
「今日は楽しかったです。家族で集まって、賑やかで……贈り物をしあって、ケーキを食べて……」
ずっと孤独に生きてきた君は、小さなことに喜びを見つけてくれる。
「あぁ、俺も楽しかったよ。なぁ……瑞樹、幸せだな。今の俺たち」
「はい……とても……雪も祝福してくれているようですね」
瑞樹をギュッと抱きしめると、瑞樹は俺の胸に突然顔を埋めて、声を殺して泣いた。
「……っ」
「また泣いているのか」
「胸が……いっぱいで……」
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