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気持ちも新たに 7
おばあちゃんに手を引かれて、門までの長い道を歩いた。
ボクは……泣くもんかって、がんばっているよ。
目をパチパチさせて、涙が出てこないようにしている。
だって、もうすぐ……もうすぐ会えるもん!
お兄ちゃんが待っていてくれるもん!
抱っこしてもらえるもん!
ぎゅうってして、もらうもん!
あれ? どうしちゃったのかな。これじゃ……ボクも小さな赤ちゃんみたい。やっぱりなきそうだよ。でもひとりで泣きたくないよ。
「……芽生、大丈夫?」
「う、うん……」
「ほら、もう少しよ、頑張って」
「うん」
おばあちゃんは、ちゃんと分かってくれている。ボクがどんなにお兄ちゃんがスキか、知っている。
「芽生、ほら、あそこ、車の前に瑞樹がいるわ」
「あ、うん!」
おにいちゃんはすぐにボクに気づいてくれて、優しく笑って手を大きく広げてくれた。
「芽生くん、おいで!」
「おにいちゃん、おにいーちゃんっ」
その声を合図に……ボクも手を広げて、走ったよ。
おにいちゃん、そういえば……今日はいつもと少し違ってお花やさんのかっこうだった。黒いエプロンに白いシャツを着て、かっこいいな。
そのまま車の前にしゃがんで、ボクの高さになってくれて、ふわりと抱きしめてくれた。その後、ぎゅうっとね。
あ、お花のかおりがする。さっきのおむつケーキにつかったバラのかおりかな。いい匂いだなぁ……。
「芽生くん、今日はがんばったね」
「う……うん、ボク……こわかったけど、ちゃんと言えたよ」
「そうか……偉かったね」
「このお家の子にはなりません! パパとすごしたいですって」
「そうなのか……うん、よかった! 僕も嬉しいよ」
あれれ? 今度はおにいちゃんの方が泣きそうだよ。目元がキラリと光っている。
「おにいちゃん? どうして、泣いてるの?」
「ご、ごめんね。僕が泣くところではないのに。僕が芽生くんと離れたくなくて……心配してしまったんだ。本当にごめんね……泣いたりして」
おにいちゃんの目からぽろぽろこぼれ落ちてくる涙は、とても温かい涙だった。
ボクのために泣いてくれるの?
そうか、いっしょにいたいって思ってくれるんだね。
うれしいなぁ……。
それがわかって、ボクもうれしくて大きな声で泣いちゃった。
「う……ぐすっ……うう、わーん……っ」
「芽生くん、まだまだ一緒にいよう! お願い……僕といて欲しい」
「うん……お兄ちゃん、もちろんだよぉ……そうするよぅ」
ボクたちが車の前でワンワン泣いている様子を、おばあちゃんはせかすこともなく、まぶしそうに見てくれていた。
「芽生、あなたは幸せね。あなたと泣くほど一緒にいたいと願ってくれる人と出会って……宗吾だけじゃないわ。私も芽生も、瑞樹くんの存在に癒やされているわ。私達こそ、ずっと一緒にいて欲しい。あなたには、ここに……」
ふと見上げた窓辺に、ママとゆいちゃんが見えた。
ママは、少しだけさみしそうだった。でもすぐにニッコリ笑って『めい、ふぁいと』って、お口を動かしてくれた。
あっ! それって……。
ようちえんにかよいだした時、ママとはなれるのがさみしくて門で泣いていたボクを、そうやってはげましてくれたよね。
ママ……ありがと。
ボクね、ママのこともちゃんとスキだよ。
あのね……お兄ちゃんを、おうえんしてくれるママが、とてもスキ。
やさしいママが、ダイスキ!
あとがき(不要な方はスルーで)
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今日は芽生視点のみでした♡
よく娘が門で泣いていたのを思い出しながら、書きました。
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中学生になった芽生視点の物語を書き下ろしたのですが、好評でほっとしました♡
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