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気持ちも新たに 9
改札をくぐると、前方に宗吾さんの広い背中が見えた。
「あっ、同じ電車だったんだ!」
小走りで追いつき背後から話し掛けようと思ったが、躊躇われた。
何か頭の中で考えているようで足取りが重たく、重たい空気を背負っている。
どうしたのかな? いつも溌剌としている宗吾さんの、思い詰めた表情が意外だった。僕の気配に気が付かないほど、考え込んでいるなんて。
あっ、もしかして……。
思い当たるのは、芽生くんのことだ。玲子さんとの対応を、お母さんに任せきりにしてしまったのを悔いているのかもしれない。
いつも僕の方に余裕がなく頼ってばかりだったから、気づかなかったが、彼もこんな表情を時に一人で浮かべていたのだ。
そう考えると溜まらなく愛おしくなり、宗吾さんの背中に手を伸ばし、優しく呼びかけるようにトントンと叩いた。
僕の予想は、的中した。そのまま肩を並べて、事の次第を語りながら歩いていると、宗吾さんが神妙な面持ちで僕に尋ねた。
『玲子の赤ちゃんと対面しに、実家に行くなんて、君にとっては複雑なことだろう。また負担をかけてしまったのでは?』
違う……僕は静かに首を横に振った。
『確かに一瞬、心配でしたが……それ以上に、良い機会に恵まれたことに感謝しましたよ』
そう答えてから、ふと思った。以前の僕だったら、どうだったか。顔では笑っていても、心では泣いていたのでは。きっと、こんな風に前向きに捉えられなかったのでは?
しかし今日の僕は明らかに違った。玲子さんの産んだ赤ちゃんを見られるなんて滅多にない機会だと思えた。僕は……もう以前とは明らかに違う。
『瑞樹は優しい人だ』
そう学生時代からよく言われたが、どこかその言葉に違和感を持っていた。僕の優しさは、自分を犠牲にして生まれてくる優しさだった。そしてその優しさに逃げ、人の陰に隠れるような生き方をしていたのも、僕だ。
「宗吾さん、人は……ただ優しいだけではダメなんですね。しっかりと自分の意志を持ちたいですね。僕は……『強く優しい人』になりたいです」
「そうだな。今の瑞樹の優しさは凜として、まさに『強く優しい人』だよ」
「え……そうなんですか。あの……ありがとうございます」
感じる……少しずつ変わっていくのを。
良い水を得て、僕の身体が目覚めていく。
大沼のシロツメクサ畑を夏樹と走り回った時のように、心から生きていることを実感出来る。爽快な気持ちとなっていく。
宗吾さんと芽生くんと暮らすようになってから、本当に僕の心は落ち着いている。
宗吾さんから愛され、芽生くんに頼りにされる自分の居心地が良いから、精神的にも穏やかでいられるのだ。
僕は僕を大切にする。
いつも後回しにしていた考えはもう払拭し、僕自身を大切に整えていこう。
芯のある優しさを持った人になりたいから。
芽生くんを守り、宗吾さんに頼りにされるには、強い優しさを持った人になりたい。
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「おばあちゃん~パパ、まだかなぁ」
「さっき連絡があったから、もうすぐ帰ってくるみたいよ」
「そっか~」
ボクどうしたんだろう?
今日はパパのおかおを早くみたいな。
あーもう、まちどおしいな。
ボクのパパ……
おにいちゃんとパパ、どっちもダイスキ。
早く伝えたいな……パパにあったら言うんだ。
「パパ、ありがとう!」ってね。
ボクとくらしてくれて、おにいちゃんをつれてきてくれて……ありがとうって。
やがて玄関から賑やかな声がして、扉が開く音がした。
「母さん、芽生、ただいま!」
パパだ!
ボクは廊下にパッと飛び出した。
今度はパパにだっこしてもらいたくて、りょうてを大きく開いたよ。
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