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気持ちも新たに 11
朝パチッと目がさめた。
横を見るとパパがグーグーねむっていて、はんたいにはお兄ちゃんがスヤスヤねむっていた。
パパとお兄ちゃんに、はさまれたボクのからだ、ぽかぽかだ!
ボクはお兄ちゃんと手をつないで、それからパパとも手をつないだよ。
ひとりじゃないんだ、ボク……。すごーく大事にされている!
だから、ごきげんだよ!
「あれ? 芽生くん、もう起きたの?」
「うん。なんだかワクワクしてきちゃって」
「何に?」
「えっとね、今日に!」
「そうだね。僕も芽生くんと過ごせる毎日に、ワクワクしているよ」
「えへへ。昨日のお兄ちゃん、すっごくカッコよかったよ。お花をつくるの上手で、すごいなって」
「ありがとう。芽生くんが見ていてくれたから、お兄ちゃんもがんばれたよ」
「ほんとう? ボクが」
「うん、芽生くんの存在が大切だ」
お兄ちゃんがボクをぎゅっと抱きしめてくれたので、ボクは赤ちゃんみたいに丸まって抱っこしてもらった。
昨日は、ママのおばあさんに赤ちゃんみたいにあつかわれてイヤな気持ちだったのに、お兄ちゃんにこうされるのは、ダイスキ。
お兄ちゃんって男の人なのに、ふんわりとあたたかくて、柔らかい。
「お兄ちゃんってふしぎだな。冷たくもなく、熱くもなくて……ちょうどいいよ。こういう温度って、なんていうの?」
「……それは『ぬくもり』じゃないかな。芽生くんのぬくもりが僕も大好きだよ」
「えへへ」
お兄ちゃんとなかよく話していたら、急におふとんが大きく動いた。
「芽生と瑞樹ー、朝からイチャイチャしすぎだぞ~! なぁ、パパもいれてくれ」
「わーパパ! くるしいよ」
パパがボクとお兄ちゃんの上にガバッとのってきたので、お兄ちゃんと笑いながらジタバタあばれた。
「わ、灰色クマさんだー」
「ガォォォー」
「お兄ちゃん、助けて!」
「もうっ――、宗吾さん、それじゃまるで狼ですよ」
****
大晦日の朝。
「瑞樹、そろそろ起きないと」
「う……ん、は……い」
眠くてまどろんでいると、肩を揺さぶられた。うっすら目を開けると、宗吾さんが明るい笑顔で覗き込んでいた。くすっ、ずいぶんご機嫌だな。
「なぁ、そろそろ届くと思うんだ。午前中指定にしたから」
「あ、炬燵ですか」
「そうだ。だからもう起きてくれ」
「わっ、僕、すごい寝坊しちゃっていますね。すみません」
「いや、俺のせいだろう」
「……なかなか寝かせてもらえませんでした」
「悪い。また、がっついていたよな」
「……そんなことは」
今年最後だと……宗吾さんに長い時間をかけて抱かれたの僕だ。僕が受け入れたことだ。だから、がっついていたのなら、僕も同じだ。
自然と顔を寄せ合って『お・は・よ・う』のキスをする。
今年最後の朝のキス。明日からは新しい年になるから。
数日前のオフに、一緒に選んだ炬燵が今日配送されてくる。以前から宗吾さんはリビングに炬燵を買おうと張り切っていたから、良い物が見つかってよかった。急いで仕度しリビングに行くと、芽生くんが満面の笑みで迎えてくれた。
「お兄ちゃん、おはよう! コタツさん、もうすぐ来るんだよ」
「楽しみだね」
「うん、おばあちゃんの家にあって、ボクだいすき。楽しみだな」
やがてチャイムがなり、配送業者が炬燵を素早く設置してくれた。
僕たちの家にやってきた炬燵に、思わず目を細めた。
一緒に選んだ家具って、嬉しいものだな。
10歳で居場所を一気に失った僕は、それ以降住んだ家が間借りのような気がして、自分が心から安らげる居場所に思えなかったのが本音だ。函館のみんなには申し訳ないことだが……。
だから今、こうやって一つ新しい家具が増える度に、感じるんだ。
僕の家が、少しずつ出来ていく。
家とは築いていくものだと、つくづく思う。
恋は時に燃えあがる炎かもしれない。それは一馬とのように一瞬で燃え尽きて……消えて跡形もなくなってしまうこともある。しかし今、僕が宗吾さんと芽生くんと灯す炎は、まるで暖炉の炎のようだ。愛情という薪をお互いに足しあって、あたたかい炎を繋げていく暖炉。
暖炉の周りには、自然と家具が集まり、やがて家となっていく。
僕と宗吾さんは、玲子さんのように新しい命を授かることはないが、芽生くんの成長を見守れる。それに、僕たちだからこそ築けるものがある。
互いが互いを想う、歩み寄る愛情を育て、僕たちの居場所を築いていきたい。
来年もその先も……、一つ一つ目の前にある事と丁寧に向き合っていこう。
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