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気持ちも新たに 16
「おばあちゃん! あけましておめでとうございます」
芽生くんが大きな声で挨拶すると、お母さんは嬉しそうに目を細めた。
「芽生、あけましておめでとう。さぁ、お待ちかねのお年玉よ」
「わーい! やったぁ! やったぁ!」
芽生くんはお年玉を持って、バンザイをしている。
「おいおい、芽生、お礼が先だろう?」
「あ、そうだった。あ……ありがとうございましゅ。あ、まただ」
芽生くんは舌を噛んだようで、小さな手で頬を擦っていた。
「くす、芽生の舌足らずは、パパに似たのね」
「え! 宗吾さんがですか」
「そうなのよ。宗吾は今はこんなに図体が大きくなってしまったけれども、小さい頃は、とっても可愛かったのよ。幼児言葉が小学校になっても……たまに」
「えぇ!」
それは意外過ぎて……あからさまに驚くと、宗吾さんがギョッとしていた。
「か、母さん、やめてくれー! あまり過去を暴露しないでくれよ、頼む! この通りだ!」
手を額の前で合わせて前屈みになっている様子に、うーん、また一つ新たな過去を知ったと、ワクワクした。(あれ? 僕って結構、性格が悪い?)
「しょうがないわね。ほら、お年玉よ」
「え! いいのか。俺が母さんにあげないといけないのに」
「もちろんよ。この前は箱根に連れて行って貰ったしね。それから、私のことを、あんまりおばあちゃん扱いしないで」
ふぅん……母と息子の関係って、こんな風に続くのかな。僕のお母さんが生きていたら、こんなやりとりしていたかな。少しだけ羨ましく見守っていたら、僕もお母さんに呼ばれた。
「瑞樹にもお年玉よ」
「え……僕にも?」
「私はね、甘いかもしれないけれども、息子には、いつまでもお年玉をあげたいの」
「あ……」
嬉しくて胸が一杯で、また言葉が続かない。
「ほら、受け取って」
「はい……ありがとうございます」
芽生くんと同じお年玉袋に筆ペンで書かれた『みずきくんへ』という文字。
子供に戻ったみたいで、くすぐったい。
「あの、僕も、何かお礼をしたいです」
「あ、じゃあ……私、やりたかったことがあるの」
「何でしょう?」
「瑞樹が庭の手入れをしてくれてから草花がイキイキして、冬に咲くお花が見頃なの。和室に何かアレンジメントを作ってくれないかしら」
「あ……喜んで」
お母さんは優しい。僕が一番力を発揮できることを、頼んでくれる。
「おにいちゃん。お外に行くのならボクもいきたいな」
「うん、じゃあコートを着ようね」
芽生くんと庭に出ると、お母さんの言った通りだった。
冬の庭に、色とりどりの花が咲いていた。
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