596 / 1741

気持ちも新たに 16

「おばあちゃん! あけましておめでとうございます」  芽生くんが大きな声で挨拶すると、お母さんは嬉しそうに目を細めた。 「芽生、あけましておめでとう。さぁ、お待ちかねのお年玉よ」 「わーい! やったぁ! やったぁ!」  芽生くんはお年玉を持って、バンザイをしている。 「おいおい、芽生、お礼が先だろう?」 「あ、そうだった。あ……ありがとうございましゅ。あ、まただ」  芽生くんは舌を噛んだようで、小さな手で頬を擦っていた。 「くす、芽生の舌足らずは、パパに似たのね」 「え! 宗吾さんがですか」 「そうなのよ。宗吾は今はこんなに図体が大きくなってしまったけれども、小さい頃は、とっても可愛かったのよ。幼児言葉が小学校になっても……たまに」 「えぇ!」  それは意外過ぎて……あからさまに驚くと、宗吾さんがギョッとしていた。 「か、母さん、やめてくれー! あまり過去を暴露しないでくれよ、頼む! この通りだ!」  手を額の前で合わせて前屈みになっている様子に、うーん、また一つ新たな過去を知ったと、ワクワクした。(あれ? 僕って結構、性格が悪い?) 「しょうがないわね。ほら、お年玉よ」 「え! いいのか。俺が母さんにあげないといけないのに」 「もちろんよ。この前は箱根に連れて行って貰ったしね。それから、私のことを、あんまりおばあちゃん扱いしないで」     ふぅん……母と息子の関係って、こんな風に続くのかな。僕のお母さんが生きていたら、こんなやりとりしていたかな。少しだけ羨ましく見守っていたら、僕もお母さんに呼ばれた。 「瑞樹にもお年玉よ」 「え……僕にも?」 「私はね、甘いかもしれないけれども、息子には、いつまでもお年玉をあげたいの」 「あ……」  嬉しくて胸が一杯で、また言葉が続かない。 「ほら、受け取って」 「はい……ありがとうございます」  芽生くんと同じお年玉袋に筆ペンで書かれた『みずきくんへ』という文字。  子供に戻ったみたいで、くすぐったい。 「あの、僕も、何かお礼をしたいです」 「あ、じゃあ……私、やりたかったことがあるの」 「何でしょう?」 「瑞樹が庭の手入れをしてくれてから草花がイキイキして、冬に咲くお花が見頃なの。和室に何かアレンジメントを作ってくれないかしら」 「あ……喜んで」    お母さんは優しい。僕が一番力を発揮できることを、頼んでくれる。 「おにいちゃん。お外に行くのならボクもいきたいな」 「うん、じゃあコートを着ようね」  芽生くんと庭に出ると、お母さんの言った通りだった。  冬の庭に、色とりどりの花が咲いていた。

ともだちにシェアしよう!