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白銀の世界に羽ばたこう 19

「お兄ちゃん、はやく! はやくー!」  スノーシューズに履き替えた芽生くんが、キッズ公園に向かって勢いよく走り出す。  くすっ、小さな子って忙しいね。  ワクワクキラキラで溢れているし、待ちきれないのだね。 僕もつられて……どんどん笑顔になるよ。 「待って、そんなに急ぐと転ぶよ!」  そう言った途端、案の定、ずるりと足を取られて転んでしまった。 「わぁ!」 「大丈夫かい?」 「うん! 雪がふかふかでころんでもいたくない。つめたいけど、わくわくだよ~」  芽生くんはすぐに起き上がって、雪で遊び出した。 「お兄ちゃん、ボクね~ずっと、おっきな雪だるまを作ってみたかったんだ」 「うん! 作ってみよう」  スキーをしたい気持ちはもちろんあるが、まずは芽生くんと雪の世界で遊んでみたかった。 「そうだな。少しここでまず遊ぼう。俺も雪に慣れないと」  足元が少々覚束ない宗吾さんも乗り気だ。そうだ。まずは雪に慣れた方が良い。 「おーし! 芽生、それならここじゃなくて、あっちの雪がいいぞ。上手につくるコツを教えてやるよ」 「え! しりたい!」 「スキーやスノボでは、このパウダースノーがいいが、雪だるまを作るにはもう少し水分を含んだ雪がいいんだ」 「どうして?」 「サラサラの雪だと雪同士がまとまり辛くて、雪だるま作りにはあまり向いていないんだよ。水分が少ないと崩れやすいんだ」  潤がさらさらな雪を手ですくい、見本を見せてくれる。   そうだ……水分がやはり重要なのだ。雪だるま作りにおいても…… 「でも、こっちに残っている雪はべた雪だからオススメだ。まず小さいボールを手で作って、雪の上をゴロゴロ転がしてみろ。ほら、ボールがどんどん大きくなっていくだろう。このときにさ、ちょこちょこ向きを変えながら転がすとまん丸になるんだ。そうだな~イメージでいうと太らせていくかんじかな」  潤の説明はとても易しかった。昔……こんなことがあったような。あぁそうか、僕が潤に作り方を教えてあげたのだ。僕たち、最初から全然駄目だったわけではない。天気が良い時があれば、悪い時もあるように、まだ5歳だった潤も、その日によって全然違った。  朝からご機嫌な潤と……こんな風に雪だるまを作ったことだって、ちゃんとあった。嫌な記憶で塗りつぶす前の、淡い思い出がふわりと舞い戻ってくる。 潤が、器用にまん丸な雪だるまを作っていく。芽生くんは目をキラキラさせて、うずうずしている。そろそろのタイミングで、ちゃんと潤が芽生くんに任せてくれたのが、また嬉しかった。 「じゃあ芽生の番だ。これにのせる頭を作ってくれ。任せたぞ」 「りょーかい! よーし! ボク、ひとりでやってみる!」 「あぁ!」  芽生くんが頬を紅潮させ、真剣な目つきで雪のボールを作り、それを転がせて太らせようと必死になっていく。  手を出したい所をグッと我慢して見守った。最初はいびつになったり……途中で割れたりと……その度に悔しそうな顔をして、どんどん集中していく。  目の前のキッズ公園には動く歩道があり簡単にソリ遊びが繰り返し出来るし、円形のソリに乗ってスリルを味わう遊具などもあり楽しそうなので、正直、まずソリに食いつくのかと思ったの違った。子供って……何に興味を示すか、その時次第なのだな。  周りを見渡すと、他の子供達はソリやスノボーやらでキャッキャとしているのに、芽生くんはずっと雪だるま作りに夢中だ。自分の世界に入っている。  こういう子供の集中力は成長にあたり大切なので、僕たちは温かい目で見守っていた。  そのまま1時間近く雪だるまを作っていた。ひたすら雪をペタペタ貼り付けて、転がして巨大化して……最後には潤が作ったのよりも一回り大きな、まあるい雪だるまが完成した。 「できたー!」 「うまいなー、よし! こっちを土台にしよう」 「いいの?」 「もちろんさ!」  芽生くんの雪だるまの上に、潤が作ったものを載せて、見事なバランスの雪だるまが完成した。芽生くんの背丈ほどありそうビッグサイズだ。 「あ、ちょっと待ってください」 「兄さん、カメラか」 「あ……でもスキー場で使うのは駄目かな?」 「いや大丈夫だ。ちゃんと調べておいた。兄さんが愛用している機種は、防塵・防滴仕様で、耐寒性能だから、ここでも使えるよ。車から取って来るよ」 「ありがとう!」  潤がそこまで気を回してくれているとは。  そうか……大沼のお母さんもよく雪景色も撮っていたから、大丈夫なのだ。 「瑞樹、写真を撮ったら、ソリは潤に任せて、俺にスキーを教えてくれないか。そろそろ俺もウズウズしてきたよ。芽生を見たら身体を動かしたくなってきたよ」  僕の隣でスキーウェア姿の宗吾さんが、朗らかに笑っていた。  うん! 似合っていてカッコイイ! 「はい! 宗吾さんは運動神経もいいし、きっとすぐにマスターしますよ」 「任せとけって! 午後には君とあそこから滑り降りるよ」  宗吾さんは指さす方向を見上げると、リフトのかなり上……あそこの傾斜はかなり厳しいと思う。しかし夢を見ることは悪くない。 「はい、余力があったら……行ってみましょう!」 「ははは、君は知っているだろう? 俺がタフだってこと」  意味ありげに耳元で囁かれて恥ずかしくなり、赤く染まる耳朶をキャップで隠した。   「兄さん、ほら」  潤から手渡された一眼レフを構える。  雪だるまの横で誇らしげに笑う芽生くんを捉えた時、視界が突然滲んだ。  これは……お母さんがいつか見た光景だ。  僕と夏樹もこうやって雪だるまを作って遊んで、完成すると、お母さんに見て欲しくて……褒めて欲しくて……  カメラを構えるお母さんをふたりで、じっと見つめたよね。  時は巡り巡る。  思い出を乗せて、クルクルと……  新しいページを捲るのは、もう……僕なのだ。

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