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白銀の世界に羽ばたこう 33

 やられた。宗吾さんは確信犯だ!   ……と、思いたかったが、どう考えても今のは仲良しなカップルに引きずられた僕の早とちりだ。  恥ずかしくて、恥ずかしくて……卒倒しそう。 「あぁ……もうっ、どうしよう……僕」 「おーい、そう凹むなよ。俺にとっては最高に嬉しいことだけど? 君と二人でリフトの乗るなんて初めてで、それだけでも最高のシチュエーションなのに、そこに瑞樹からのサプライズ・キスだろう? 最高に幸せだよ」  宗吾さんが、さり気なく手を繋いでくれた。  僕の唇は、まださっきのキスの余韻に震えていた。    宗吾さんの唇は甘いチョコよりも、もっと美味しかった。  僕から仕掛けたキスは、いつもと少し違う味がした。自分の中の積極的な面に驚いてしまったせいか、外はもうだいぶ冷えてきているのに、身体は熱くなっていた。  お父さんやお母さんからの愛情は、もうもらえないけれども、今の僕を全力で愛してくれる人がいて、僕も全力で愛している人がいる。  それが幸せ過ぎて……泣きそう。 「瑞樹、俺、スキーが好きになったよ」 「無理していませんか」 「最初は尻込みしていたが……恥を捨て思いっきり転びまくったら、なんだか長年の苦手意識が吹っ飛んだよ」 「宗吾さんのそういう所が、とても好きです。僕は感情を隠す方を選んで生きて、遠回りしてしまいましたが、もっと自分から飛び込めば良かった、本音を晒して……と、今更後悔しています」 「瑞樹、君の生き方は間違えていない。俺はそうやって生きてきた瑞樹が好きなんだ。遠回りしたのは無駄ではないぞ。少しでもタイミングがずれていたら、あの日、俺たちは公園で出逢えなかっただろう?」  宗吾さんの言葉を噛みしめる。    僕の生き方が正解だったとは思えないが、宗吾さんと芽生くんと出逢えたのをゴールに考えれば、これで良かったとも。 「何度も言いますが……あの日、あの時、僕を見つけてくれて、ありがとうございます」 「芽生がキューピットだよ。芽生はもう……俺たちの子供だよな」 「そんな」 「スキーに来て良かったな。芽生の瑞樹に対する気持ちが、また深まったような気がするよ」 「そうでしょうか」 「俺たちさ、『二人のパパ』でいいんじゃないか」 「あ……」 「お互い性格も違うし、得手不得手があるだろう。凸凹の方がカップルは上手くいくと聞いたぞ。凸凹も組み合わせれば、平らな歩きやすい道となるしな。ははっ」    それは……僕の前に続く道だ。 「あ、もう着くぞ。ここから先はリフトから無事に降りることに集中させてくれ」 「くすっ、手助けしましょうか」 「まずは、頑張る! 転んだら起こしてくれ」  ****  リフトでのキスはサプライズだった。  瑞樹の可愛い早とちりだったが、俺にとっては1日の疲れが吹っ飛ぶ褒美だった。  手を繋いで乗るリフトは現実離れしていて、久しぶりに二人でしみじみと、ここまでの道のりや、これからのこと、今の気持ちを語り合った。  瑞樹は生涯の伴侶だ。そう思える人と出逢えた奇跡を、銀世界で噛みしめた。 「宗吾さん、リフトの乗り降りはもう完璧ですね。じゃあ……ご褒美に、今度は本当にチョコレートですよ」 「お、サンキュ!」  瑞樹からもらうチョコは格別だ。愛情と思いやりが込められている。 「さぁ、滑りましょう」 「おう!」  少し長い林道コースを、覚え立てのボーゲンで滑り出す。  瑞樹も俺のペースに合わせて滑ってくれる。  二人で歩む道が目に見えるようで、夕日に照らしたコースは、ただただ……美しかった。くねくねと曲がる道は、まるで人生のよう。  途中で俺は何回か尻餅をついたり、横に転んでしまった。  その都度、瑞樹が俺に手を差し出してくれた。 「宗吾さん、大丈夫ですか」 「おう、なんとか……サンキュ!」   瑞樹はその度に擽ったそうに笑う。 「変な感じですね」 「いや、新鮮だ」  ずっと心配で……心配で溜らなかった瑞樹だった。だから立場が逆になる体験は、新鮮だ。 「宗吾さんとスキーが出来るなんて、夢のようです」 「芽生も気に入ったし、また来年も来よう!」 「嬉しいです。潤にも会えますね」 「そうだな。君の大事な弟だもんな」 「来て良かったです。僕……実は潤と山頂で……天国に向かって叫んできました」  瑞樹は夕空を見上げて、懐かしそうに目を細めた。 「ご両親や夏樹くんに……会いたい……会いたかったと?」 「あの……どうして分かるんですか」 「うん、きっとそうだろうと……ちゃんと俺の元に戻ってくれてありがとうな」 「当たり前です。僕の居場所は、ここですから」  瑞樹が俺の胸元を見つめる。  夕日を吸い込んだような甘い瞳で……  冷たい風を斬る瑞樹の頬は、紅潮していた。 「さぁ一緒に戻りましょう! 潤と芽生くんの待つ場所へ」  ずっと燻っていた想いを昇華した瑞樹は、澄み切った笑顔を浮かべてくれた。  

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