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アフタースキーを楽しもう 1
「お兄ちゃん、パパ、おかえりなさい!」
「くくっ、宗吾さん、かなり転んだみたいですね」
長いコースを転びながらの道中だったので、よろよろになり到着したら、潤に苦笑された。一方、芽生が尻についた雪を、ポンポンとはたいてくれる。
「パパ~ いっぱいころんじゃったね。いたいのいたいの、とんでいけー!」
うう、可愛いな。我が子の可愛らしさはピカイチだ。
「ありがとうな。ふぅ……もう俺は流石にバテバテで、動けないよ」
「じゃあ、上がりましょうか」
「そうだな。せっかくだから、最後に皆で記念撮影しないか」
「いいですね! そう思って一眼レフを持ってきましたよ。あっ、しまった! 三脚を車に忘れたので取って来ます!」
潤が慌てて取りに行こうとしたので、引き留めた。
今すぐ撮りたかった。夕日がゲレンデを照らし、白い世界が橙色に染まり出して、とても幻想的だったから。
「そうだ! 誰かに撮ってもらおうぜ」
見渡すと小学生くらいの息子さんを一眼レフで撮っている母親が目に入った。あの人なら、俺たちを暖かい眼差しで撮ってくれそうだ。そんな直感だった。
「すみませんが。写真を撮ってもらえませんか」
「あ、一眼ですか」
「えぇ、扱えます?」
「もちろんです!」
感じの良い母親は、すぐに申し出を受けてくれた。
「撮ってもらえるそうだよ。ほら、並んで」
「あの……もう少し寄って下さいますか。そうだわ! 皆さんで肩を組んだらどうでしょう?」
「いいですね。瑞樹、芽生を抱っこしてくれないか」
「はい!」
瑞樹が芽生を抱っこして、俺と潤で瑞樹を挟んで仲良く肩を組んだ。
「はい、撮ります!」
カシャッ――
シャッター音が心地よい。
「念のため、もう1枚!」
「すみません」
「お兄ちゃん、わらって~」
「うん!」
カシャッ――
夕日を浴びた俺たちは、和やかで楽しい空気に包まれていただろう。
「ありがとうございます。あの……僕もお二人を撮影しましょうか」
「わぁ、いいんですか。じゃあ、ぜひ」
お礼に……瑞樹がお母さんと子供を撮影すると申し出た。流石、気が利くな。母親と息子さんが仲良く寄り添ってピースをした瞬間を、瑞樹は微笑みながら撮影していた。
カシャッ――
優しい音がした。ファインダーを覗く君は、とても優しい表情を浮かべていた。母親への思慕、憧れ……淡く色づく想いが、夕日に紛れて見え隠れしてい
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
この女性から俺たちはどんな関係に見えるのか、ふと気になった。
「あの、とても素敵なご家族ですね。よい旅を続けて下さいね」
まるで俺の心を読んだような嬉しい言葉に、じんとした。
俺と芽生も、兄弟の一員だ。
瑞樹と潤も、家族の一員だ。
みんな大きく捉えれば……もう『家族』だ。
それって、いいな。
もう心がしっかり繋がっているのだから、『家族』と呼んでもいいだろう。
****
スキーを終えたオレたちは、車の中でざっと着替えて、北野さんの家に向かった。スキー場から車で15分ほど移動した場所は、北野さんの空間プロデュースの事務所兼、自宅のカナディアンログハウスだ。
「やあ、潤、お兄さん、いらっしゃい」
「今日はお世話になります。改めて自己紹介を。僕は潤の兄、葉山瑞樹です。そして滝沢宗吾さんと芽生くんです。弟がいつも可愛がってもらって、年末年始も泊めていただいたそうで、ありがとうございます」
礼儀正しく挨拶する兄さん。
オレは兄さんの弟なんだなと……会話を聞いて、しみじみと思った。
「いやいや、こちらこそ潤には手伝ってもらい助かっていますよ。えっと、かみさんと息子の東馬《とうま》と雄馬《ゆうま》です。芽生くんの遊び相手になりそうだな」
「わぁ……そうですね。とうまくん、ゆうまくん、よろしくね」
「君たちは1日スキーをして腹が減っただろう。早速、夕食の準備をするので、まずは皆で風呂に入って、身体を温めてくるといい」
北野さんのログハウスはペンションも兼ねているので、大人6人で入れる大きな共同風呂がある。
確かに1日遊びまくって、宗吾さんは転びまくってヨロヨロだし、ひとっ風呂浴びるか。
「兄さん、今日泊まらせてもらうレンタルコテージはあそこだよ。北野さん家の敷地内に建っているんだ。風呂はここしかないから、皆で先に入ろう……その……そうしても、いいか」
「うん、問題ないよ」
兄さんは戸惑うこともなく、洋服を潔く脱ぎだした。その動作があまりに自然だったので、意識したオレの方が恥ずかしくなった。
兄さんと風呂に入るのは、あれ以来だ。オレがかつて函館でしでかした破廉恥で嫌な思い出がまざまざと蘇るが、兄さんが乗り越えるのなら、オレもついて行く!
兄さんは腰にタオルを巻いて、そのまま芽生の前にしゃがみ込んだ。顔を少し傾けて覗き込み、優しく話し掛けていた。
「芽生くん、大丈夫かな? 流石に疲れたよね。お風呂に入ったらさっぱりするよ」
「う……ん。お兄ちゃん、ぬがして」
「ふふ、甘えん坊だ」
甘えた声と純粋な瞳に、瑞樹が目を細めて応える。
あぁ、この子はいいな。オレがしたかったことを、どんどんしてくれる。
すると背後から鋭い視線を感じて振り返ると、宗吾さんが立っていた。彼ももう裸だ。
「潤も、早く脱げよ」
「え?」(どーして、宗吾さんに見つめられながら、オレが脱ぐ羽目に?)
熱い視線に、挙動不審になるよ!
「な、なんすか。じっと見て……」
「ふーん、その程度か」
「へ?」
「俺の方が筋肉あるな」
「むっ、若さではオレの勝ちです」
「いや……ほら見てみろ。俺の腹筋」
「いやいや、オレの割れた腹筋を見て下さいよ」
「瑞樹、どうだ?」
「兄さん、どう? どっちがすごいか」
オレは脱衣場で真っ裸な宗吾さんと並んで、瑞樹に筋肉を見せつけていた。
瑞樹はほっそりとしなやかなで、うっすら筋肉がつく程度の上品な体つきだから、あまりに違う身体を前に、顔を赤くしていた。
「も、もう――宗吾さんも潤も大人げないです」
「瑞樹、教えてくれよ。どっちが逞しいか」
「ん……そうですね。宗吾さんは『前向きでポジティブ』な逞しさです。どんな時でも前を向き、プラス思考で対応出来るのがいいですよ」
「ん? そうか、君に言われると嬉しいな」
なんだよ。宗吾さんばかり褒めて……少しだけ悔しい気持ちが芽生えると、瑞樹はちゃんと分かってくれていた。
「潤は『闘争心の強い逞しさ』だよ。潤のそういう所が好きだよ。仕事でも勉強でも一生懸命に努力しているね。昨日、庭師の仕事ぶりを見て感じたよ」
瑞樹が、それぞれの精神的な逞しさを説いてくれた。
「そ、そうか。ありがとう。兄さん」
兄さんらしい優しい考えだ。つい肉体的な逞しさばかりに目がいってしまうが、違うのだな。
心の逞しさ。
その素晴らしさを、兄さんは教えてくれた。
そうか、これからはこんな風に……力尽くではなく、心を尽くすのだ。
それが、この優しい兄とオレが歩む道だ。
進むべき方向が分かり、モヤモヤしていた視界がどんどんクリアになっていく。
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