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アフタースキーを楽しもう 6
「瑞樹、ウイスキーなんて飲めるのか」
「いえ……実は飲んだことないです」
「じゃあ、飲みやすくアレンジしてやるよ」
「あ……ぜひ、お願いします」
宗吾さんが、耐熱グラスの1/3ほどウイスキーを注いで、あとはたっぷりのお湯で割ってくれた。
「君は、甘いのが好きだよな」
「はい」
「じゃあ瑞樹スペシャルだな」
BBQテラスのバーコーナーに置いてあった、レモンスライスとシナモンスティックをさして、蜂蜜もたっぷり加えてくれた。
「ほら、愛情たっぷりだぞ。飲め」
ウイスキーのキツい香りが緩和され、甘い香りがふわっと漂って来て、とても美味しそうだ!
「ありがとうございます。宗吾さんは何でも詳しいですね。BBQも手際がよくて感心しましたよ」
「キャンプで鍛えたからな。君に良いところもせられてよかったよ。やっと」
「くすっ、スキーウェアも似合っていましたよ」
「中身が伴ってなくて、ごめんな」
「とんでもないです。宗吾さんに教えるの、楽しかったです」
再び宗吾さんが、隣りに座る。
狭いベンチにモコモコに着込んだ大人同士だ。肩や太股がぴったり密着して、変に意識してしまう。今日は駄目なのに……困る。これはもう……いっそ……酔って寝てしまった方がいいのかも。
グラスのウイスキーの湯気を嗅ぎながら、ふぅふぅと息を吹きかけて冷ました。 これを一気にゴクゴクと飲んだら酔えるかな? そんなことを考えていると、隣のベンチから大きな声が聞こえた。
「馬鹿! 空、ストレートで飲むな!」
「でも……酔わないと……到底無理そうだ」
「何を言って? 俺はそんなに信用ないか。ちゃんと優しくするって言っているだろう」
「う……陸は慣れているかもしれないが、僕は……受けいれるの初めてなんだ。酔わないと無理に決まっている」
「おい? 酒の力を借りて、勢いで抱かれるって言うのか」
「陸……だって、酒の力を借りないと抱けないだろう! そうだ、陸も酔ってくれよ」
わわわ……どうしよう。話の内容が丸聞こえだ。子供達はもうマシュマロを食べ終えると部屋に入ってしまったので、ここには僕たちだけだが気まずいよ。
宗吾さんと、思わず顔を見合わせてしまった。
「宗吾さん、あの……喧嘩になりそうですよね」
「あぁ……そうか。彼らは、今夜がもしかして……」
お互いにそこまで話して照れ臭くなってしまった。僕たちの初めての日を思い出していた。初夜は知り合って1年……一馬と別れてからちょうど1年経った日だった。
そう言えば、一馬……
お前は、あれからどうしている?
結局、一度も会っていないよな。
僕はこの1年で、更に前に進めたよ。
もう振り返ることが出来る程にね。
さっきの陸さんとの会話を思い出した。
『相手と素直に向き合い、今は自分の人生に迷いなく、幸せに生きている姿を見せてあげるのもいいかもしれませんよ。やはり……いつかは互いにちゃんと向き合わないと、解決出来ないので』
あ……僕、そろそろ行けそうだ。一馬の所に……。
「宗吾さん、あの……僕は、そろそろ……」
そう言いかけた時、パチンっと乾いた音がした。
「痛っ、何するんだ? 陸」
陸さんが空さんの頬を叩いてしまった。
「俺は、お前を抱きたいんだ! 酔っ払って正体をなくしたお前じゃなくて、男の空を! どうして……それを、どうせ女じゃないと卑下するんだ!」
「……陸になんて……僕の気持ちは分からない! もういい! もう帰る!」
ええっ! これは大変だ。
「瑞樹、余計なことはするまいと思ったが、仲裁に入ろう!」
「はい!」
「君は空さんに」
「宗吾さんは陸さんに」
****
「空さん、少し落ち着きましたか」
「……すみません。大変恥ずかしい所を見せて」
「頬は痛くないですか」
「えぇ……あいつ……かなり手加減していましたから」
取りあえず二人で話そうと、僕の宿泊するログハウスに空さんを招いた。芽生くんは北野さんの家で遊んでいるし、潤も一緒なので大丈夫だろう。一方宗吾さんは陸さんの泊まるログハウスに入っていった。
「どうぞ、暖かいハーブティーです」
「あ……ありがとう。良い香りですね」
「あの……パートナーと言い争いになり、気まずい。でも仲直りしたい。もしかして……今、そんな気分では?」
空さんは眼鏡の奥の瞳をじわっと潤ませた。やはりかなり後悔している表情だ。
「瑞樹くん……僕、どうしたら? 陸を詰《なじ》ってしまった。でも素直に謝れなくて……更に自分を卑下して……それで叩かれたんです」
「大丈夫ですよ……なかなか言い出すきっかけが掴めず、仲直り出来ないのが人間ですから。きっと陸さんも……今頃そう思っていますよ」
「いい大人が……すみません」
「いいえ、それだけ相手のことを思っている証拠ですよ。あの……僕は仕事で花を扱っています。だから『花の力』を借りた解決方法を、空さんに提案してもいいですか」
僕に出来ることをしたい。空さんの役に立ちたいと、心から願っていた。
そして旅先で彼らと出会った縁を感じる展開になっていくのを、じわりと感じていた。
この出会いは、きっと……次に進むための橋渡しになる。
そんな予感で……包まれていた。
一馬と別れてから……間もなく2年が経とうしている。
急にそのことを意識してしまった。
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