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雪の果て 1
宗吾さんと共に果てた僕の腹の上には、二人分の白濁が飛び散り、臍のあたりに溜まっていた。
「あ……っ」
冷静になれば、どこまでも恥ずかしい行為だった。
芽生くんと潤が泊まる部屋で、ここまでするつもりはなかった。今回の旅行では、最初からナシだと決めていた。だから前日に余韻が残るほど抱かれたのに……どうして僕は宗吾さんに引きずられてしまうのか。いや、僕が望んでしまうのだ。
僕って……以前から、こんな節操なかっただったろうか。
「瑞樹、気持ち良かったか」
「う……」
「そんな困った顔をするなよ。ここが……あまりに美味しくて煽られた」
まだ練乳をうっすら纏った胸の尖りを、舌先でぺろりと舐められ、再びぞくぞくと震えてしまう。
「もっ、もう……駄目です! シャワーを浴びて来ます」
「そうだな。名残惜しいが、もう時間だな」
「はっ、はい!」
時計を見ると、もう夜の9時過ぎだった。
そろそろ眠くなった芽生くんが戻ってくるだろうから、急がないと!
慌てて僕はシャワー室へ駆け込んだ。
息を整えながらシャワーを浴び、鏡に映る自分を冷静に見つめた。
もう宗吾さんと……何度こんなことをしたか分からない。もう一馬に抱かれたことが思い出せない程、抱かれた。
深く強く……優しく、時に大胆に……彼は僕を抱く。
いつも微塵も揺るがないのは、僕の気持ち。
宗吾さんと共に芽生くんの成長を見守り、力を合わせて育てていく覚悟も持ってた。
今回のスキー旅行を通して、忘れてしまっていた懐かしい過去を沢山思い出せた。きっとこの先も芽生くんの成長を通して、僕は優しく過去を振り返っていくのだろう。
今の僕は……自分に正直に……自然に生きている。
だから……今なら、今こそだ。
一馬に、会いに行くのではない。
僕なりの『幸せな復讐』をしに行きたい。
あの日、永遠のさよならをした一馬の元へ。
「瑞樹、ほら着替えだ」
「ありがとうございます」
手早くパジャマに着替えて部屋に戻ると、宗吾さんがベッドを整えてくれたようで、僕たちが抱き合った痕跡はすっかり消えていたので、安堵した。
「宗吾さん、あの……」
「なんだ?」
宗吾さんって、やっぱりカッコイイな。男気があって頼もしい人だ。
彼らしい爽やかな笑顔に、つい見惚れてしまった。
僕はこうやって何度も恋をする。
「あの……芽生くんが卒園したら、また旅行に行きませんか」
「どこへ?」
「僕……このスキー旅行で心から吹っ切れました。だからそろそろ『幸せな復讐』をしに行きたいんです」
宗吾さんは、まるで僕が今日言い出すのを知っていたかのように、明るく微笑んでくれた。
「待っていたよ。その言葉を君がいつ言い出すか」
「あ……そうだったのですね。やっと言えました」
「じゃあ春休みの旅行先は、大分の湯布院でいいな」
「あ、はい! よろしくお願いします」
この言葉を、とうとう言える日が来た。
僕たちが出会ってから2年近くの月日が流れていたが、自分でも驚くほど自然な流れだった。
――僕は『幸せな復讐』をする――
そう決めた途端、胸がカッと熱くなった。
そんな僕を……宗吾さんが深く抱きしめてくれた。
「心配するな。俺たちも一緒に行くから、大丈夫だ」
「はい……家族で行きましょう」
「楽しい旅行にしような」
「はい……はい! 是非、そうしたいです」
僕も宗吾さんの背中に手を回して、深く誓った。
この人と生きていく。
芽生くんと3人で生きていくのだ。
ずっと僕が欲しかった……僕だけの家族。
「宗吾さん、ここまで、ありがとうございます。この先もよろしくお願いします」
「瑞樹、こちらこそよろしくな。誘ってくれてありがとう」
あの日のように優しく額をコツンと合わせてもらうと……
僕の瞳からは、安堵の涙がはらりと零れた。
「おい、どうして泣く?」
「ホッとして」
「そうか……」
「宗吾さん、好きです」
「あぁ、俺も君を愛しているよ。深く深く……な」
誓いの口づけを交わすと、春を迎えるのが待ち遠しくなった。
今度は南へ――
大空高く、僕はまた飛び立つ。
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