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その後の三人『春の芽生え』7
程よい疲労感と達成感を身体の隅々まで感じていたので、そのままスッと眠りに落ちてしまった。こんな日は……きっと良い夢を見られそうだ。
……
『みーくん……みーくん、どこかな?』
あぁ……それは、とても懐かしい呼び方。
弟が生まれるまで、僕はお父さんとお母さんから、そう呼ばれていた。
お母さんをまだ『ママ』と呼んでいた幼い僕が、夢の中にいた。お母さんの姿が見えなくて、不安がって震えているよ。
『ママ、どこ? ぐすん……』
『あらあら、ママはここよ』
『ママぁ……!」
僕は芽生くんがよくするように両手を精一杯広げて、お母さんの胸元めがけて一目散に駆け寄った。
これは両親が亡くなった後、頻繁に見た夢だ。最近はもう見なくなっていたのに、どうしてだろう?
母親の胸に抱かれたと思った瞬間、僕の腕の中でお母さんの姿が霧のように消えてしまい……寂しく切ない結末を迎える夢だった。
いつもならここで涙を流して飛び起きたのに、もしかして今日は続きが見られるの?
小さな僕は、母の胸元にギュッと抱っこされていた。
あぁ、とてもとても懐かしい温もりだ。
『みーくん、ごめんね、ごめんね』
『ママ、どうしたの?』
『みーくん、さみしくない?』
お母さんが心配そうに覗き込んでくれ、そっと額を撫でてくれる。
『……ずっとさみしかったけれども、僕はもう大丈夫だよ』
『本当に?』
『うん、大切な人が出来たんだ』
『それを聞いて安心したわ。いつかまた会おうね』
『ママ……それまで元気でいてね』
『瑞樹もね』
『お母さん……』
……
そこで視界が明るくなって、とても自然に目が覚めた。
ふぅ……よく眠ったな。そして、やっぱりいい夢を見られた。
あれ? それにしても……今、何時? 昼過ぎまで仮眠してさっぱりしてから芽生くんを迎えに行こうと思っていたのに、カーテンから漏れる日差しは、明らかに夕焼け色だった。
「え……も、もう5時‼」
するとカチャリと扉が開く音がした。
「お兄ちゃん、おきた?」
「え……芽生くん? どうして……」
「えへへ、おばあちゃんが送ってくれたんだよ」
「え!」
慌ててリビングに行くと、宗吾さんのお母さんが白い割烹着をつけて台所に立っていた。
「お母さん!」
「あら? 瑞樹、もう起きたのね」
「はい……あの、どうして? すみません。僕が迎えに行く約束をしていたのに」
「いいのよ。徹夜でお仕事お疲れさま。よく眠っていたから起こさなかったのよ」
「アラームに全く気付けず……ぐっすり眠っていました」
芽生くんが僕の手をギュッと握って、食卓に誘ってくれる。
「おにいちゃん、おひるごはんも食べてないでしょう?」
「あ、うん」
「おばあちゃん、やっぱりそうだった!」
「じゃあ、まずはお味噌汁を飲みなさいね」
お母さんがワカメとネギの味噌汁を置いてくれた。
「いきなりいろいろ食べると胃がびっくりしちゃうから、まずは汁物からね」
「嬉しいです……いただきます」
なんだか、まだ夢の中みたい。実母の夢を見られただけでも嬉しいのに、起きたら芽生くんとお母さんがいてくれて、僕のために味噌汁を作ってくれるなん嬉しいよ。
「どう? お口にあうかしら」
「あ……美味しいです。濃厚で懐かしい味噌の味がします」
とても懐かしいのは、母の味と似ているからだと思った。
「ふふっ、これはね函館のお母さんが使っているのと同じお味噌なのよ。北海道のお味噌を先日送ってもらったのよ」
「え?」
「あのね、函館のお母さんが、あなたのお母さんに教えてもらったそうよ」
「え? どういう意味ですか」
函館の母と生前の実母が、そんな交流があったなんて聞いていない。それなのに……そういえば引き取られた当初から、函館の母の味が最初から懐かしい味だったのを思い出した。
「あなたのご両親が亡くなった後ね、遺品の整理やあなたの荷物を取りにお母さんが大沼の家に行った時に、冷蔵庫の中の、普段使っていた調味料をメモしてきたんですって。味噌ってメーカーによって味が全然違うでしょう? 函館に引き取られた時に、あなたはこの味噌で作ったものなら、よく口にしてくれたそうよ」
知らなかった……函館のお母さんの優しい気遣いを、僕は知らなかった。
確かに状況を受け入れられず茫然自失だった僕を慰めてくれたのは、味噌汁の温もりだった。母の味と似ていて、とても好きだった。
「あ……」
「瑞樹、あなたを産んでくれたお母さんはもちろんだけれども、あなたを10歳から育ててくれたお母さんも精一杯あなたを愛していたのよ。もちろん私も……それを忘れないでね」
「はい……う……嬉しいです」
「おにいちゃん、このお味噌汁、とってもおいしいね」
となりで芽生くんもニコニコ笑顔でいてくれるので、気持ちが更に和んだ。
「うん。これはね……僕の故郷の味で、二人のお母さんの味なんだ」
「じゃあ、おいしいも2回言わないとだね! とってもおいしい、おいしいね!」
****
よかったー! やはりおばあちゃんといっしょにきて、ダイセイカイだね!
お兄ちゃん……どうしたのかな?
今日は僕をおやつの時間にお迎えにきてくれるって言っていたのに、3時をすぎても来ないよ。
「おかしいわね。瑞樹くん、来ないわね。お家に電話してみる?」
「あ……そうか。きっとお兄ちゃん、お仕事をすごくがんばったから、つかれてねむっているんじゃないかなぁ」
「そうね、そうかもしれないわね」
「だから……おばあちゃん、大変じゃなかったら……ボクをおうちまで送ってもらるかな?」
「もちろん、いいわよ」
「やったー! ありがとう、おばあちゃん」
おばあちゃんって、すごいんだよ。 お兄ちゃんがお昼を食べていないかもしれないって心配して、いろいろお台所から持ってきてくれたよ。白いかっぽうぎをつけると、魔法使いみたいにおいしいごはんを作ってくれたんだよ。
ボク、お兄ちゃんがよろこぶお顔が、だーいすき。
おばあちゃんも、いっしょだと思うよ!
「本当にありがとうございました」
「ふふ、お米も研いでおいたし、おかずも冷蔵庫にあるから夕食の心配はしないで大丈夫よ」
「あ……助かります。じゃあ……掃除に専念できますね」
ドキッ!
「ふふっ、ごめんなさいね。宗吾に似て芽生もお片付けが苦手で……洗面所は私の手に負えないので、任せたわ」
わぁあぁ……どうしよう! 昨日ちらかしたままだった。
きのうお電話のあと、目がさめたパパとあわててお風呂に入って、バタンキュー! 朝はおねぼうして、またびしょびしょに……
「はい、僕は掃除が好きですので大丈夫ですよ」
「ふふ、人には得手不得手があるから、補いあっていくのが上手くいく秘訣よ」
「はい!」
ふぅ~よかった。
ボクね、お片付けは苦手だけれど、おてつだいはダイスキ!
「お兄ちゃん、おてつだいなら、まかせてね!」
「くすっ、よろしくね、芽生くん」
あとがき(不要な方はスルーです)
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今日はお休みモードで更新が遅くなりました。
今日はBOOTHのお知らせがあります。
【長文ですので、不要な方は飛ばして下さい💦】
『BOOTH頒布のお知らせ』
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■本編『天上のランドスケープ』
→『幸せな存在』瑞樹の弟『夏樹』が主人公の天国での物語です。(天国と地上を行き交うファンタジーBL、Rシーンあり)
『幸せな存在』のスペシャル番外編という位置づけになっております。
■ 書き下ろしSS『スノーエンジェル』
→『幸せな存在』の瑞樹の母視点です!
今まで語ることのなかった、瑞樹がお腹にいる時からのエピソードです。
書きながら、うるうるしてしまいました。悲しいだけでなく、希望のある話です。そして今日の更新の瑞樹の夢と対になっています。
■ページ数:全53頁
■文字数 18,000文字程度(あとがき有り・ペーパー含まず)
■おまけとして以下のSS(ペーパー形式で2種類)
①『天上のランドスケープ』アンソロジーで紙本特典として書き下ろした『天上のランドスケープの続編SS』(500文字)
本編が倍楽しくなる話のつもりで書きました!キュンっとします。
②しあわせやさんvol3『芽生のしあわせな鏡 SS』(1,300文字)
小学生になった芽生視点の、可愛いほっこり話です。
今回は有料で本当に申し訳ありません。ご負担かけてしまいますが、私の創作活動費用にさせていただきます。もしご興味あれば、BOOTHに遊びに入らして下さいね。書き下ろしやペーパーの文章サンプルを置いてあります。
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