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整えていこう 4

 パパの車の中でね、ボク……とてもかなしかったんだ。  窓の外を見ていたら、雨までざーざーふってきて、しょんぼりだよ。  ボクはまだちいさいけれど、ちいさいけれども……わかるよ!  おばあちゃんは、ママのおかあさんなのに、どうしてボクのダイスキなパパをいじめるの? ママとパパとくらしていたときのこと、ボクだってすこしは覚えているよ。 パパ……ひとりになって……ボクを抱っこして、がんばるって言ってくれて、ボクも男の子だからがんばるってヤクソクしたんだ。  ねぇ……ボクたち……あんなに怒られるほど、ひどいことしたの?  わからないよ、ボクにはまだわからない。  わかるのはパパが元気ないってことだけだよ!  こんな時、パパをニコニコにしてくれるのは、やっぱりお兄ちゃんだ。  お兄ちゃんに、はやく会いたいなぁ。 お兄ちゃんはあんなにこわい言葉はつかわないよ。いつだってボクとパパをほわほわにしてくれるもん。 「お兄ちゃん……」 口に出すとすごくあいたくなって、泣いちゃいそうだよ。  あ……窓のむこうはすごい雨になってきた。お兄ちゃん、ケーキ買いに行く時、カサもったかな。ぬれていないといいなぁ。 「芽生、もう着くぞ」 「うん……あっ、あそこ、お兄ちゃんだ!」  マンションのちかくの道を、お兄ちゃんが歩いていた。大きなトウメイのカサを持って。 「パパぁ……ボクたちもうお兄ちゃんがいないとダメだね。ずっとずっといっしょにいたいなぁ」 「芽生、ありがとうな。パパもそう思おうよ」  その後、おにいちゃんのさしている大きなカサに、みんなでぎゅっと集まってはいったよ。カサには葉っぱの絵がかいてあったので、なんだかお兄ちゃんが木みたいで、ボクたちあまやどりしているみたいだった。 「お兄ちゃん、雨がきれい~」 「うん、傘にあたってリズミカルにはねているね」 「本当だ!」  お兄ちゃんの笑顔がやさしくて、話し方もゆっくりで、それからお花のにおいがして……あぁよかった。 「お兄ちゃん、ボクね、つかれちゃった」 「うん、帰ったらケーキをたべようね。芽生くんの大好きなケーキだよ。あとお花も飾ろうね」 「うん! うん!」  ****  先ほどまでの土砂降りの雨は、瑞樹がさす傘に入った途端、別物になった。  透明な傘にあたって跳ねる雫は、ときめきだ。俺の心は、君に会う度に恋をするようで、心臓がバクバクだ。  俺さ、玲子の母親からのキツい言葉が身体に突き刺さったままななんだ。瑞樹……あとで抜いて欲しい、助けて欲しい。  そんな俺の秘めたる気持ちが伝わったのか、瑞樹が優しい言葉をかけてくれる。 「宗吾さんの心……とても疲れていますね」 「……まぁな」 「たまには僕にも甘えてくださいね」  ニコッと微笑む笑顔に、蕩けそうだ。   「ふぅ……参ったな。夜までまだ長いのに待てそうにない」 「くすっ、そうですね。でも待つ側もいいですね」 「そうか」 「今日は僕がふたりに『お帰りなさい』って言えました」 「そうだな、瑞樹は、俺と芽生の家《ホーム》だよ。瑞樹のさす傘での雨宿りは、心の雨宿りだ」 「宗吾さん……帰ったらのんびりしましょうね。夜は……僕に甘えていいですよ」 「あぁ、君と芽生と過ごすのどかな時間が、何よりだ」 「僕も同じ気持ちです」  ****  玲子さんのご実家から帰宅した宗吾さんと芽生くんは、明らかに元気がなかった。一体何があったのか。   「紅茶が入りましたよ。芽生くんはミルクティーだよ」 「わーい、お兄ちゃん、ケーキは?」 「これだよ、みんな同じのにしちゃった」 「わーい。いつものショートケーキだ! ボク、これがダイスキ!」  ガーベラのアレンジメントを置いたダイニングテーブルで、仲良くケーキを食べた。 「パパ、やっぱりおうちはいいね」 「あぁ、パパもかみしめているところだ」 「よかったです」  ふふ、なんだかくすぐったいな。今日は僕が中心になっているような変な感じ。宗吾さんはいつになく甘えてくるし、芽生くんもだ。さっきから二人が僕に、沢山の嬉しい言葉を届けてくれるのが、くすぐったいよ。 「そうだ、芽生くん。函館から入学お祝いが届いたんだ」 「えーなんだろう? あけてみていい?」 「もちろんだよ」  そういえば、玲子さんのご実家でも何か頂戴したのかな。その話題にはならないけれども……。夜になったら宗吾さんに聞いてみよう。何かあったような気がするし、宗吾さんの心には、小さな棘がささっている。  芽生くんがデパートの包みをあけると、中からカラフルな文房具セットが出てきた。わわ! それって……芽生くんが欲しいって言っていたのだ。学校の規則で諦めさせちゃったのに、良かったのかな? 「わぁぁぁ……!」  芽生くんが瞳をキラキラに輝かせて叫んだ。 「ブルーレンジャーのだ! かっこいいー」 「あの……宗吾さん、どうしましょう? キャラクターものは学校には持って行けないのに」 「ははっ、瑞樹は堅苦しいな。だったら家で使えばいいだろう。宿題専用とかさ」 「あ、そうですよね。そうか……」  本当に僕は宗吾さんの言う通り、頭が柔軟に出来ていないようだ。 「お兄ちゃん、これ、すっごく欲しかったの。うれしい! うれしいよ!」  芽生くんが椅子から飛び降りて、ジャンプジャンプ。   「め、芽生くん落ち着いて。下に響くからね」 「ごめんなさい。ねねね、これこれ、これ、使っていい?」 「うん、お家でならいくらでも」 「やったー! お兄ちゃん、函館のおばあちゃんに電話して。ボク、ありがとう言いたい!」 「ありがとう。そんなに喜んでくれて」  芽生くんが電話でお礼を言っている間、宗吾さんが「俺たちにもあるぞ」と言いながら、他の包みを開けていた。 「おぅ? くくくっ、やったな」 「えっ、なんです?」 「新しいパンツさ! しかも俺たち3人分」 「え? も、もう――お母さんったら、どうしていつもパンツばかり?」 「それはだなぁ」  宗吾さんが、耳元で甘い声で囁いてくる。   「夜、汚してもいいようにだろ? 履き替え用さ! へへっ」 「そそそ、そんなはずは、ありませーん!」    も、もう―― 「お兄ちゃん、新しいパンツもらったの?」 「う、うん」 「じゃあ、またお名前書かないとね」 「へっ? あ、そういえば文房具一式の名前付けの仕事が」 「あっ、やばい、早くしないと終わらなくなりそうだ」 「夜……ちゃんと眠りたかったら、宗吾さん、頑張って下さいね」 「おう! 任せろって」 「ボクもがんばる!」      ひとりじゃないって……やっぱり、いいな。  家族で過ごすと、しんみりしたり笑い合ったり、浮かべる表情が増えるね。  そんな中、皆で笑うのどかな時間が、僕は一番好きだ。  

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