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湘南ハーモニー 31

月影寺本堂で、俺と風太は、葉山と宗吾さん、寺の住職と副住職、そして洋さんと丈さんに囲まれていた。  すごいことになったぞ。  寺の細かいしきたりは知らないので、風太の望み通りに挨拶に来たのははいいが、流石に緊張するな。 「あー ええっと、僕は月影寺の住職、張矢翠です。そして弟の流と、その下の弟の丈とそのパートナーの洋、そして洋の友人の滝沢ファミリーです。ところで君はどなた?」  来た! 自己紹介だ! おっと、そうだ……姉貴がまずは手土産からって言っていたよな。 「あの俺は江ノ島のかんの家の菅野良介です。そこにいる葉山くんの親友です。あの、これどうぞ」 「へぇ、瑞樹くんの親友か。お! かんの家の灯台最中じゃないか」 「小森くんよかったね、君の大好きな最中だよ」 「はい! 僕の大好物です! 甘いものって幸せになりますよね」 「そうだよね、でもどうして二人で?」  来た! 俺の口から風太とお付き合いを始めたことを告げた方がいいのか。 「風太、俺から言うか」 「いえ、ここは僕が言います」  緊張が走る!  葉山と目が合うと、話が見えないようで怪訝な表情だった。  それもそうだよな、さっき別れた俺に、いきなり彼氏が出来たんだからさ! 「住職と副住職に報告があります!」 「うん、怒らないから言ってごらん」  ドキドキ! 「流さん、今すぐお役所に連絡してください」 「おう! やはりそうか」  お役所? はい? えーっと、なんでここで急にお役所??? 「小森くん、君は何をしでかしたんだ? まさか『かんの家』さんに何か損害でも?」 「じ、実は……僕たち……」  付き合っています!!!  お役所云々の話は意味不明だが、要は『付き合っている』と報告するとばかり、その時は思っていた。  まさか、その場にいる人の半数が赤面することを言うとは! 「僕たち、チューしました! だから流さん、すぐにお役所に手続きをして下さい」 「へ?」 「おぉ! ついにしたか! しかも相手は男か」 「ちょっと流、小森くんに何を教えたんだ。ちょっと来て」  思考回路が止まった。  付き合い始めた宣言かと思いきや、キスしました報告! 役所!  なんだよーそれぇぇぇ! は、恥ずかしいし、意味不明すぎる!!  「か、菅野?」  葉山は、紅葉のように真っ赤な顔になっていた。  俺と目が合うと気まずそうに俯いてしまった。  おいおい、耳まで真っ赤だぜ。  そういう俺も恥ずかしー!!! **** 数ヶ月前。 「小森〜 ちょっと話そうか」 「流さん、はい、なんですか」 「お前さ、 今日誕生日だろ! だから成人の記念に、特別なこと教えてやるよ」 「なんですか」 「もうチューはしたか」    ええ! 流さん、何をいきなり! 「キスするような相手、いませんよー」 「そうか、だがお前ももう年頃だ。だから教えておくよ。チューしたら役所に届けないといけないんだ。俺が報告に行ってやるから、すぐに教えろよ」  そ、そうなんですか! それは初耳だ、知らなかった。 「それって、本当ですか」 「あぁ、今は子供の数が減っているから、今時の世代の恋愛事情を把握することになったんだ。知らなかっただろう?」 「知りませんでした!」 「そうかそうか、何でも俺が教えてやるからな。ほら、饅頭食え」 「わーい! その時が来たらすぐに報告しますね」 「いい人と出会えるといいな。チューしたら、とにかく迅速にな」 「はーい!」  流さんって、いい人だな。  壁ドン、彼シャツ、もういろんなこと教えてもらった。  今日はチューの話なんてびっくりしたけど、もしかして、もうすぐそんなことあるのかな?  チューしたら流さんを通じて、お役所に報告ですね、バッチリ、インプットしましたよ!  だから、菅野くんと一緒に報告に来たのに、あれれ?  菅野くんは唖然とした顔だし、その他の客人は真っ赤だし、僕、何か間違いましたか。 「流さん〜、どこですかぁー 早く報告をしちゃってください、早く灯台最中食べたいです」 **** 「こらっ、流、あんな意地悪をして!」 「だって、小森ってなんでも信じて可愛いじゃないか。しかし相手が男性だったとはな」 「……うん、驚いたよ、しかも彼は瑞樹くんの親友だなんて」  翠が可愛がっている小坊主、小森風太が恋に落ちた!  相手は好青年。  類は友を呼ぶのか、悪い気はしない。  彼もこれで立派な月影寺の住人になったな。 「流、とにかく、役所の話を訂正しておいで。じゃないと……僕はもう流とキスしないよ!」 「分かった、分かった!」

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