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恋 ころりん 10

 決戦の日。  俺は風太の休みに合わせて、有給休暇を取った。 「菅野くーん」 「こもりん!」 「えへへ、来ちゃいました」 「迷わなかったか」 「大丈夫ですよ~ 僕は子供じゃありません」    年明けには実家に戻るので、その前に俺の一人暮らしのマンションに風太を招待した。本当はやましい下心があることは、無邪気な風太には言えない。 「あ、あそこで休憩しませんか」 「いいね」  河川敷で俺たちは体育座りし、キラキラ輝く水面を暫くぼんやりと眺めた。  風太と俺の間は、沈黙すら心地良い。   「もう来週はクリスマスだな」 「お寺のクリスマスは暇ですが、菅野くんのお仕事は大忙しですよね」 「あぁ、売り場の助っ人に入る予定だ。君とクリスマスに会えなくて残念だ」 「菅野くんが作るお花を買える人は、幸運ですね」 「そんな風に言ってくれるなんて、ありがとう」    部署では同期の葉山がルックスも花のセンスも抜き出ているので、俺を手放しで褒めてくれる人は滅多にいない。だから新鮮だ。嬉しくてふわふわした気持ちになってくるよ。  風太は人懐っこい笑顔で、いつも俺を褒めて喜ばせてくれる。  俺は彼と接すると……大袈裟だが、あれから生きてきて良かったと思う。  知花ちゃんとの重い恋を、引き受けたのは俺だ。  最初から彼女に残された命が限られたものだと知って付き合った。年頃の男女の恋愛に歯止めがきかなかった。本能的に求め合う気持ちが溢れ……キスの次も、もっと先も全部、知花ちゃんと体験した。  心だけでなく身体でも結びついた別れは、頭で考えていたよりも喪失感が強く、彼女亡き後、俺を駄目にした。  寒い夜や、暗い夜、雨や曇天の日には、気分が塞いで大変だった。  俺はいつの間にか……旅立った知花ちゃんに引き摺られていた。 もうこの世にいない知花ちゃんのことばかり考えて、正直に話すと後追いしそうになったこともある。とにかくとても姉さんや母さんには言えない事が沢山あった。  荒んだ俺が変われたのは、入社した会社で出逢った葉山瑞樹のお陰だ。  葉山は何も語らないが、彼の持つ喪失感は危うく脆く儚かった。それに男なのにとても綺麗で可憐な容姿は危なっかしく、幾度となく俺は、彼に助け船を出したんだ。  葉山に構っているうちに、自然と……知花ちゃんを追うことや、知花ちゃんを思い出すことが減っていった。だから葉山には感謝している。それに葉山が江ノ島に遊びに来てくれなかったら、風太と出逢うこともなかっただろう。 「あの~ そろそろ寒くなりましたね」 「あぁ、悪い。本当に……俺んちでいいのか」 「はい! ぜひとも!」  妙に鼻息の荒い二人が部屋に入ると、共にそわそわと落ち着かなくなる。お互い何かを期待しているようだった。 「こ、ここが菅野くんのお部屋なんですね! わぁ……ベッドなんですね!」  風太が俺のベッドにうつ伏せになって、枕に顔を埋めクンクン匂いを嗅いでいる。  お、おい、誘っているのか。  俺もベッドに座って、風太の顔を覗き込む。    「風太、キスしていいか」 「あ……は、はい」  最初は軽く、次はもう少し濃厚に。 「ん……んんっ」  風太が鼻にかかったような可愛い声をあげてくれるので、キスを追いかける。 「あ……わぁ」  思い切って……風太の胸にそっと触れると、ジタバタと暴れ出した。 「あはは! どうして、そんな所をくすぐるんですか」 「え? 感じない?」 「何のことですか。わはは~!」  風太が手足をばたつかせ暴れた拍子に枕がすっ飛んで、枕の下に隠しておいた練乳二本が見つかってしまった。 「これ? 何です?」  答えに窮した。    「えっと……練乳だ」 「わぁ、くんくんくん、なんだか甘い匂いがしますよ。ちょっと舐めてみても?」 「あ? あぁ」  舐めるのは俺の予定だったが、ええい! 俺は嘘をつけない性格なので、本当のことを告げるしかない! 「なぁ……風太、俺たち、そろそろチューの次のステップに進まないか」 「え?」 「それには、これを使うといいらしい!」  よし! 言ったぞ。さぁ次は彼の服を脱がすぞ~ 「あのあの、菅野くん、実はですね……僕も同じことを思っていたんです」  え? じゃあ一緒に前に進もうとしてくれていたのか……それは感激だ! 「じゃあ、いいか」 「あの、待って下さい。僕の方は準備が少し……」  なるほど。心の準備か。  風太にとっては未知の世界だもんな。 「いいよ。風太の心が落ち着くまで待つよ」 「いえ……その、身体の準備が必要なんです」  へ? か、身体の準備って! その……いきなりそこまで?  実はあの後、酔っ払った宗吾さんにまた寝室に連れ込まれ、どこにどうやって挿入するのかまで真っ赤になりながら教えてもらった。もちろん今日いきなりそこまでは無理だろうが、この展開はそのまさかを期待していいのか。  ところが風太が鞄からごそごそ取り出したのは、食品保存容器だった。 「何、それ?」 「えへへ。ジャーン! あんこですよー 副住職が作ってくれたんです」 「なんで、ここで、あんこ?」 「だって、チューの次のステップですよね?」  まさか、あんこを乳首に塗るのか。  俺、あんこは好きだから、まぁ練乳でなくてもいいか。  用途は一緒だもんな。 「ちょっと恥ずかしいので後ろを向いていてください」 「お、おう!」  何やらごそごそと音がする。   シャツを脱いで、ズボンを脱いで……ついでに下着も? いや下着は俺が脱がしたいぞ。   ヤバイ……興奮してきた。 「準備完了です~ じゃあ合体しましょう」  ががっがが、合体って――   「い、いきなり?」     振り向くと、風太が、こんもりお皿に盛ったあんこの上に、練乳をかけようとしていた。俺を見てニコッと微笑んでくれるのは可愛いが、意味不明過ぎる! 「じゃあ合体~!」    練乳とあんこが交ざり合っていく。 それをこもりんがスプーンで掬い、パクッと口に含む。 「あぁ~ 美味しいです。和と洋のマリアージュが最高ですよ」 「そ……そんなぁ……」  期待した分、がっくしと肩を落として項垂れてしまった。   「どうしました?」 「キスの次って、それなのか」 「へ? 違うんですか。流さんがこれを使うって言っていたから」 「それを食べ合うのか」 「えへへ、僕も実は最初はそう思っていたんですよ。でも……コレをここに塗ると気持ち良くなるんじゃないかなって……あ、着替えは持っていますので安心して下さい」 「???」  いきなり風太が着ていたボタンダウンのシャツを脱いで、Tシャツ姿になる。そしてあんこをシャツの胸元に塗ろうとしたので、慌ててストップさせた。 「惜しい! あと一歩だ。それはここに塗るんだよ」 「え……えぇ?」  こうなったらもう……あとは勢いだ!  俺は風太を押し倒し、Tシャツを乳首が見えるまで捲り上げた。 「あ……あの……菅野くん?」 「風太良く聞け! ここに触れても……ここに塗っても?」 「え……えっと……は、はい」  さくらんぼ色のつぶらな乳首に、あんこと練乳を混ぜた柔らかいクリームを ちょんと塗って、ちゅっと吸い取ってやると風太が震えた。 「あ……や……へ……ん」 「可愛いよ」 「あ……ああっ……んっ。かんのくん。僕 変になってしまう」 「変になっていいよ」  最初は軽く舐めて、次はもっと量を増やしてベロッと。あんこと練乳の匂いが部屋に漂い、甘い気分になっていく。  風太は頬を染め、目元を染め上げ、艶めかしい表情で狼狽えていた。見たこともない色っぽい表情に煽られる。 「あ……あんこ、全部……食べられちゃう。僕も食べたいです……」 「ふっ、君は本当にあんこ好きだな。じゃあほら、風太も食べて」  指で掬って彼の口に運ぶと、ペロペロと必死に舐めてくる様子も可愛い。 「なんか……変です。僕……どうしよう」 「大丈夫だよ。これがチューの次のステップだ。怖がらないで」 「あんこ……あんこ……もっと下さい」 「ん……いいよ。その代わり食べさせて。俺に、もっともっと」    動転してあんこを欲しがる風太が可愛くて、俺も必死に胸に吸い付いてしまった。  白い肢体をジタバタとシーツの上で泳がす彼は、可愛い色気を振りまいてくれていた。  キスの先……一体、どうなるかと不安だったが、最高だよ。 「かんのくん……もっと触れてください……きもちいいです」    好きなら触れ合いたい。  シンプルな想いを……恋する気持ちを、君と分かち合えて嬉しいよ。    俺たち愛し合おう、自然に湧き上がる気持ちのままに。 「菅野くん、恋って、ある日突然『ころりん』って、転がってくるんですね」 「そうだよ。それが運命の出会いだ」                       『恋 ころりん』  あとがき(不要な方は飛ばして下さいね) **** どうなることかと思いましたが、無事にチューの次にステップに進めましたね。我ながらよくこもりんに色気を出せたと感心しております♡でも、このまま一気に最後までは、こもりんには、まだ早い気がして、ここで寸止めです(苦笑) さぁこの続きはどうしましょう? 一旦本編に戻るか、恋ころりん続編として、もう少し続けるか迷っています。

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