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特別編 ハートフル・クリスマス 1
突然ですが、今日から26日頃までクリスマス特別編にさせて下さい。
特別な何かが起きるわけではなく、ほのぼのとした日常を追っていきます。
ほっこりとした寛ぎの物語になります。
というわけで、昨日までの運動会前から、季節をワープします!
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『ハートフル・クリスマス』
運動会の次は秋の遠足。そして……季節はいつの間にか12月に入っていた。芽生くんの指の骨折もすっかり良くなり、元気一杯だ。
「瑞樹、今年のクリスマスイブは金曜日で、25日は土曜日だぜ」
「そうですね。25日は小学校の終業式ですか」
「そういうこと! だから25日にクリスマスパーティーをしないかと母が言っているが、君の都合どうだ?」
「シフトがまだはっきりしないのですが、去年みたいに内勤だったら休みです」
「そうか、休み取れるといいな。ほら彩芽ちゃんの初めてのクリスマスだし、実家で集まろうって盛り上がっているんだ」
「いいですね! 僕も是非参加させて下さい」
街を歩けばクリスマスソングが聞こえ、暗くなればイルミネーションが瞬く。
仕事で扱う花材もすっかりクリスマスカラーだ。
赤い薔薇、クリスマスローズ、雪のようなかすみ草。
大人も子供も華やいだ心地になる季節の到来だ。
その晩、僕は久しぶりに故郷に電話をした。
寒くなってくると、北の大地を思い出すから、急に話したくなったんだ。
「もしもし、葉山生花店です」
「兄さん、僕」
「おお~ 瑞樹か!!」
鼓膜が破れる程の大声に、僕からの電話を兄さんが待っていたと悟った。
「忙しくて連絡してなくて、ごめん」
「いいって、こうやって思いだしてくれるだけでも嬉しいぞ。俺は元気だよ」
兄さんの声は低く太く、どこまでも優しい。
まるで北の大地と対話しているような安心感がある。
「良かった! 優美ちゃんは大きくなった?」
「あぁ、スクスク成長中だよ。首が据わったから扱いやすくなったよ」
「可愛いだろうね」
「写真をあとで送るよ」
「うん……あ、兄さんも写っているのがいい」
兄さんの顔を見たくなった。
僕って、本当はすごくブラコンだな。
「可愛いことを。そういえば、瑞樹に花のことで相談したかったんだ」
「何?」
「クリスマスに沢山仕入れたんだけど、こっちはあいにくの大雪で客足が鈍いんだ」
「そうなんだ。天候に左右されるから仕方がないとはいえ、廃棄はもったいないよね」
「でさ、瑞樹が作ってくれたスワッグが相変わらず人気だから、俺も作りたいんだ。デザインを一緒に考えてくれないか。俺がやるとどうも垢抜けないしワンパターンだから」
ドライにするなら無駄がない。僕で実家の役に立てることがあるのなら、是非。
「もちろん、いいよ。デザインを起こしてみるよ」
「ありがとうな、助かるよ」
「そうだ、兄さんたちに近々クリスマスプレゼントを贈るよ」
「今年は何だろう? 去年の靴下は重宝したよ」
「使ってくれて嬉しいよ。あの……今年は全然違うものなんだ」
「何でも嬉しいよ、可愛い弟からもらえるなら」
和やかに電話をしている僕を、宗吾さんと芽生くんが嬉しそうに見守ってくれ、電話を切ると、芽生くんが画用紙と色鉛筆を持ってきてくれた。
「お兄ちゃん、お花の絵を描くんでしょう?」
「そうだよ。ありがとう」
「瑞樹は実家にも頼りにされてんな」
「そうでしょうか」
「あぁ、とてもいい感じだったよ」
宗吾さんが僕の髪をくしゃっと撫でてくれる。
今日も甘やかしてくれる。
こんな一時の触れ合いが嬉しくて嬉しくて――。
「ところで何を贈ったんだ?」
「あ……夢の国のギフトパスポートです」
「へぇ、いいな」
「兄さん……行ったことないので、兄さんも行けたらいいなって思って」
「それってオープンチケットなのか」
「一年間猶予があるそうです」
「なら安心だな」
「はい! 僕……この前行かせていただいてすごく楽しかったので、兄さんたちにも味わって欲しくて」
離れている僕が出来ることは限られている。だからこそ夢を贈りたくなった。
「きっとすごく喜ぶよ。お母さんには?」
「最近、お母さんも余裕が出来て学生時代の友達とランチに行ったりしていると聞いたので、札幌のホテルのアフタヌーンティーチケットにしました」
「いいじゃないか、喜ばれるな。それで瑞樹は? 瑞樹は何が欲しい?」
宗吾さんの言葉を聞きつけた芽生くんも、黒い瞳をキラキラ輝かせている。
「お兄ちゃんは? お兄ちゃんは何がほしいの?」
「僕は……二人と一緒に過ごしたいです」
「うーん、相変わらず謙虚だな、何か物も贈りたいが」
「あ……じゃあ、美味しいご飯が食べたいです」
「はは、瑞樹らしいな。いいぜ、任せておけよ。24日の夜は俺がデパ地下でクリスマスらしい料理を買ってくるよ」
「嬉しいです」
本心なんだ。和やかな時間、家族で祝うクリスマスを、僕は心から望んでいる。
「お兄ちゃん、でーきた!」
「何?」
「あのね、ボクたちのクリスマス会のかざり」
折り紙を輪にして、輪飾りを作ってくれていた。
「いいね、僕もお手伝いするよ」
「お兄ちゃんは、お花の絵をかくんでしょ」
「あ、そうだった」
「そうだ、これ、ポストにだしておいてね」
「あ、サンタさんへのお手紙だね」
「うん!」
去年は雪を見たいと書いていたね。
そうしたら本当にクリスマスに雪が降ったよね。
あの雪はきっと天国の夏樹からの贈り物だったに違いない。
今年のリクエストは何だろう?
楽しみだな。
クリスマスを控え、僕は何気ない日常のやりとりから温かい気持ちをもらっていた。
誰もが贈り物をしたくなる季節が、僕は好きになった。
きっとそれは……今、この日々に感謝しているから――
「瑞樹、俺のリクエストは分かっているよな」
宗吾さんに甘く囁かれる。
「は、はい……」
熱い視線を浴びて、何を求められているか分かるので、急に恥ずかしくなった。
「特別な夜を、楽しみにしているよ」
僕たちに特別なギフトはいらない。
こんなにも甘く幸せな日々を、毎日を贈ってもらっているから。
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