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ハートフル・クリスマス 3

「芽生、ただいま~」  実家に芽生を迎えに行くと、芽生は折り紙で作った輪飾りを持って走ってきた。 「パパー これ見て~ おばあちゃんと作ったんだよ」 「すごいな」 「明日ここでクリスマス会をするんでしょう?」 「そうだよ」 「じゃあ、明日飾ってね」 「いいぞ」  すぐに白い前掛けをした母さんもやってくる。 「あら? 瑞樹くんと一緒じゃないの」 「あー、瑞樹は急に仕事が入って遅くなるってさ。そんで明日も無理そうだ」 「まぁ……やっぱりお花屋さんは、この時期は忙しいのね」 「そうなんだ。ごめんな」 「何言っているの。一番残念がっているのは瑞樹くんでしょ」 「まぁな」  そんな会話をしていると、芽生が頬を膨らませた。 「えー お兄ちゃん、今日も明日もいないの?」 「仕方がないのよ、お仕事だから」 「でも約束したのになぁ……つまんないよ」 「芽生っ」  普段は聞き分けのよい芽生が、珍しく不満そうだ。  すかさず母が膨れる芽生の膨れた頬をツンと突っついて優しく抱きしめてくれた。 「あらあら芽生は、瑞樹くんが本当に大好きなのね」 「うん! ボク、お兄ちゃんがだーいすき」 「じゃお仕事頑張っているのだから、応援してあげないとね」 「そうだね……おしごとってたいへんなんだね……もう、やめちゃえばいいのになぁ」 「でもお花の仕事は瑞樹くんが大好きな仕事だし、芽生だって瑞樹くんのお花が大好きでしょう」 「うん! かっこいい!」 「じゃあ応援できる?」 「わかった! カッコイイお兄ちゃん、もっともっと見たいからおうえんするよ-」 「いい子ね」  そんな風に思ってくれるのか。  芽生にも、もう瑞樹はなくてはならない存在なのが嬉しいよ。 「宗吾、夕食うちで食べていけば?」 「いや、家で瑞樹を待つよ」 「そうね。ちゃんと待っているのが一番ね、あの子には」 「寂しい思いはさせたくない」 「宗吾、あなた、本当にいい男になったわね、瑞樹くんのお陰ね」  母に久しぶりに褒められた。  瑞樹を想えば、品行方正にもなるよ。  清楚で可憐な瑞樹を汚したくない。  綺麗な水と、透き通った太陽を注いでやりたい相手だから。  芽生と二人で家に戻り、買って来たお惣菜を食べさせた。 「パパ、今日はおべんとうなんだね」 「あぁ、我が家のクリスマスは26日にお引っ越ししたからな」 「わぁ~、じゃあクリスマスがもう1日ふえるの?」 「特別にな」 「とくべつ!」  子供は特別が大好きだから、途端にご機嫌になる。 「じゃあボク、このおへやもいっぱいかざりつけするよ」 「そうだな。じゃあ、さっきおばあちゃんちでつくっていた輪飾り、作ってくれないか」 「りょーかいです、たいちょう!」  芽生が折り紙とハサミを持ってやってくる。 「パパも作ろうよ」 「工作なんて久ぶりだな」 「お兄ちゃん、きっとよろこんでくれるよ」 「そうか」  瑞樹の喜ぶ顔が見たい。  26日は家族のクリスマス。食卓に並びきれない程のご馳走を買ってこよう。いつもお互い家事に追われているから手を抜ける部分は抜いて、ゆっくりしような。  繁忙期で働き詰めの瑞樹を労ってやりたい。 「ふぁぁぁ、ねむいよ。お兄ちゃん、おそいね」 「店は20時で閉店だが、明日の準備があるんだろう」 「ボク、もうだめ……ねむいよ」 「芽生はもう眠れ」 「うん……」  芽生を寝かしつけると、慣れない静寂がやってきた。  静かすぎるな。  ソファにもたれて缶ビールを飲んでいると、妙な寂寥感に襲われた。  いつもなら瑞樹も並んで座る。  芽生を寝かしつけた後は一緒に缶ビールを空け、そのまま啄むようなキスをして睦み合う。  なのに今日は俺一人だ。一人だとソファってこんなに広いのか、部屋ってこんなに静かなのか。時計や空気清浄機の音、窓の外が妙に気になるよ。  瑞樹。    俺はいつも君に夢中だよ。  君の花のような香りの虜になっている。     早く帰って来いよ。  俺、寂しくなっちまった。 **** 「葉山くん、今日はピンチヒッターお疲れさま」 「こちらこそお疲れさまです」 「今日はよく売れたわね。葉山くんの作るブーケ大好評だったわよ」 「ありがとうございます」 「じゃあまた明日早朝から仕込みよろしくね」  有楽町駅前の加々美花壇の実店舗は終日大盛況で、閉店時間までクリスマスの花束やアレンジメントを買い物求める人でごった返していた。  夕方から助っ人に入った僕は休む暇もなく働き続けた。店を閉めたあとは明日の仕込みのために働いたので、夕食を食べる暇もなく水分補給に留まった。  おそらく、一年で一番忙しい時を過ごした。 「ふぅ……流石にキツかったな」  駅から家までの道程が、今宵は妙に遠く感じる。  それでも、マンションが見えてくれば元気になり、部屋の灯りがまだ灯っていることを確認し、ホッとした。 「もう23時か……流石に芽生くんは寝てしまっただろうな」  そのまま歩き続けると、ベランダに人影が見えた。  宗吾さんだ!  僕に向かって手を振ってくれている。  僕を待っていてくれたのだ。  嬉しくて、嬉しくて……僕は一気に駆け出していた。  あなたに一分一秒でも早く会いたくて。  玄関の前に立つと扉が開き、宗吾さんが僕を奪い取るように招き入れてくれた。 「瑞樹、お帰り!」 「宗吾さん!」  靴を脱ぐ前に、抱きしめられる。  強く深く――  宗吾さんが僕の肩口に顔を埋め、すんと深呼吸する。 「あぁ、無事で良かった。駅まで迎えに行きたい気分だったよ」 「……宗吾さん?」 「ひとりで待っていたら、何だか急に寂しくなっちまったんだ」 「あ……」  いつも寂しくなるのは、僕の方。  そんな風に思い込んで恥ずかしい。  宗吾さんが僕の不在を、そんな風に思っていてくれたなんて。   「お待たせしました。ただいま……」 「お帰り、待っていたよ。芽生は寝たから、今宵は二人きりのクリスマスイブだ。まずは腹ごしらえからな」 「あ、どうして? 夕食抜きだって知って」 「君のことだ、休む暇なく働いてきたんだろう?」 「そうですが……」 「ふっ、君から立ち込める花の匂いが一段と濃いから分かるのさ」  夕食を済ましシャワーを浴びてから、芽生くんの様子をそっと見に行った。 「サンタのプレゼントは、やっぱり今日がいいよな?」 「はい、枕元に置きましょう」 「今年は小学生らしいお願いだったな」 「明日、喜ぶでしょうね。僕たちも寝ましょうか」 「君は疲れているから自分の部屋で休め。明日も出勤なんだろう?」 「え……でも」 「ん?」 「僕は……宗吾さんに触れたいです。駄目ですか」  珍しく僕から誘っていた。 「だが……」 「明日も早いので……その、一度だけなら」 「いいのか。嬉しいよ」  疲れているからこそ、甘いものが欲しくなるんだ。  これって……僕からのとっておきのクリスマスプレゼントになるのかな?  さぁ二人だけのクリスマス・イブの始まりだ。  時計の針がカチコチと響く中、僕らは日付を跨ぐミッドナイトキスをした。  広いベッドの中で向き合って――熱く甘く触れ合って。 「瑞樹、メリークリスマス」 「宗吾さん、メリークリスマス!」   

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