907 / 1644

ハートフル・クリスマス 8

「よいしょ、よいしょっと」 芽生くんが、僕の指一本一本に丁寧にハンドクリームに擦り込んでくれる。  朝の日差しに包まれて、くすぐったくも、幸せな時間だ。 「ふふ、随分丁寧に塗ってくれるんだね 」 「あのね、おばあちゃんがおしえてくれたんだ。こうやってお指をくるくるってすると、きもちいいんだって」 「うん、手の疲れが取れるよ」 「えへへ、よかったぁ。お兄ちゃん、おしごとってタイヘンなんだね。手をいっぱいつかうんでしょう? もういたくない?」 「もう痛くないよ、ありがとう」  芽生くんは本当に優しい子だ。  まだこんなに小さいのに、僕を労ってくれる。  そこに髪の毛をボサボサに逆立てた宗吾さんがやって来た。 「ふぁ~ ねむいなぁ」 「あ、おはようございます」  宗吾さんの顔を見た途端、昨夜のことを思い出し、頬が火照る。  僕からあんなに積極的に求めてしまうなんて。同時に宗吾さんも僕を熱く……どこまでも求めてくれた。  お互いの熱がなかなか冷めなかったのは、クリスマスだったから?  本当にスペシャルな一夜になった。  僕は花の香りに弱い。気持ちを持って行かれたのかもしれない。  薔薇とすずらんがミックスされた花の香りは情熱的で官能的で、身体が昂ぶった。 「お兄ちゃん、どうですか~」 「うん、とてもいいよ」 「おお? 芽生も瑞樹にマッサージのサービスをしてんのか」 「ん……メイもって、パパもしたの?」 「へへ、昨日たっぷりなぁ」  そ、宗吾さん! 鼻の下に注意ですよ! 芽生くんは目敏いんですからっ。 「あー! パパ、またお鼻のしたが、びよーんってなってる」 「はははっ、そうかそうか」 「もう!」  駄目だ、完全に惚気ている。  宗吾さんは少しも悪びれない。 「パパもごきげんだね」 「あぁ、いいことがあったからな」  芽生くんは最近、そんな宗吾さんを見慣れてしまっているようで、この親子はやはり似たもの同士だと苦笑してしまった。 「はい! おしまい」 「芽生くん、ありがとう。本当に気持ち良かった」 「えへ。お兄ちゃん、今日はいっしょにいられるんだよね」 「うん! もちろんだよ。ずっと一緒だよ」  ずっと一緒。  その言葉を、またこんなに力強く言えるなんて。 「ことしは雪がふらなかったねぇ」 「そうだね、暖かいクリスマスだね」  去年はクリスマスの朝、突然雪が降ってきた。  まるで天国の夏樹が降らせてくれているような優しい雪だった。  手を伸ばせば、僕に触れすっと溶けていく雪に、夏樹を思慕した。  そしてその後のスキー旅行で、夏樹は天国で幸せに暮らしていると思えるようになったんだ。 「よーしっ、この天気なら午前中は公園に行けるぞ」 「やったぁ~」 「瑞樹、外遊びに行かないか。昨日実家からサッカーボールや野球セットをもらってきたから」 「いいですよ。もちろんです! 宗吾さんのなんですよね?」 「あぁ、俺のポジションはキャッチャーで、サッカーはゴールキーパーだったんだ」 「わぁ……カッコイイです。なんだか分かります、それ」  安心、安定感のある宗吾さんだから、チームの要となって活躍したのだろうな。僕の知らない宗吾さんを想像するのは楽しいね。   朝食を済ましてから、僕らは近所の公園に行った。  最近なかなか外遊びに付き合えていなかったので、僕も嬉しい。  仕事の疲れはもう取れていた。  宗吾さんに抱かれる度に丈夫になっているのでは?  ほら結構体力を使うのだよ。あれって……  宗吾さんは精力的に僕を何度も何度も一晩に求めるから、それに応えているうちに体力がついたとか。  この一年は、ずっと一緒にいられた。離れることもなく大きな事件もなく……だから抱き合う回数も本当に多かった。  あぁ……駄目だ。こんなこと……でも頭の中で考え出したら止まらない。 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「え? ううん、なんでもないよ」  芽生くんにじーっと見られ、やましい気分で一杯になった。 「瑞樹も俺と同類ってことだ」 「え? じゃあヘンタイさんなの」 「はは、その言葉は他の人には内緒だぞ」 「うん!」  会話が本当にもう……とほほだ。 「あ、あの……次はサッカーをしましょう」 「おう!」 「おー!」  三人で原っぱを駆け回った。 「瑞樹は足が速くてすばしっこいな」 「小さい頃、家の裏の原っぱで駆け回っていたので」 「あぁ夏樹くんとか」 「はい! あの子と一緒に駆け抜けました」  ほら……僕はもうなんの躊躇いもなく、亡き弟のことを話せるようにもなった。 「よーし、ボールを追いかけよう」 「はい!」  息を切らせて走り抜けて想うこと。  僕は僕の人生を、思いっきり生きている。  味わっている!  爽快に駆け抜けている。 「瑞樹、待ってくれ」 「おにいちゃん~」  振り返ると……僕の大切な人が息を切らせて走り寄り、芽生くんが両手を広げて飛びついてきた。 「おいで! 芽生くん!」 「うん!」 「よーし、パパも芝生にダイブだ!」 「わぁ!」  大好きな台詞。  大好き温もり。  三人で芝生に倒れ込んで、笑った。  あの日空を見上げて泣いた僕に今見えるのは、二人のキラキラな笑顔だ。 「今日が俺たち家族のクリスマスだ。一日遊び倒そう! メリークリスマス! 瑞樹」 「はい! 僕たちだけのクリスマスって特別でいいですね」 「お兄ちゃん、だーいすき!」 あとがき **** もう今年もあと2日ですね。 クリスマスのお話、楽しくなって結局長引いてしまいました。 明日の大晦日に、楽しく締めくくろうと思います。 忙しい日々ですが、毎日1話は続けていきたいです。 いつもリアクションで支えて下さってありがとうございます。   

ともだちにシェアしよう!