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ハートフル・クリスマス 9

午前中いっぱい公園で遊びまくった。 「パパ~ つかれたよぉ」 「そろそろ帰るか」 「あの……僕がランチは作ります。ずっと宗吾さんに家事を任せてしまったし……」  そんな会話をしながら帰路につくと、宗吾さんがいつもと違う道を歩きだした。 「あ、あの?」  すると現れたのは、チェーン店のファミレスだった。 「もう皆ペコペコだろう? 今日は家事は放棄だ! ここに寄っていこうぜ」 「あ……はい」 「わーい、ボク、入ってみたかった」  公園で芝生に寝っ転がったりしたので、薄汚れた僕たちだったけれども、ファミレスなら気兼ねなく入れる。  宗吾さんのこういう決断が、本当に心地良い。周りを気にし過ぎてしまう僕の背中を、いつもそっと押してくれる。 「何でもいいぞ」 「え……でも」 「ボクはお子様ランチがいいなぁ。お兄ちゃんこのおもちゃおもしろそう!」 「あ、本当だね。僕はどうしようかな」  優柔不断な僕は、滅多に入らないファミレスのメニューの種類の多さに圧倒されていた。 「迷ってしまいますね」 「瑞樹は何か暖かいものはどうだ? グラタンとかドリアとか」 「あ、グラタン……大好きです」 「だな! よーし、俺もグラタンにしよう~ でも足りなさそうだからサンドイッチも頼もう」  見渡せば、日曜日の昼のファミレスには家族連れが大勢いた。 「あれ?」 「ん?」 「コータくんだぁ!」  驚いたことに近くの席に、コータくんとお母さんが座っていた。  向こうもすぐに気付いてくれ、挨拶してくれる。  芽生くんが近くに行きたそうな様子だったので、僕が手を引いて連れて行ってあげた。 「お久しぶりです」 「コータくん会いたかったよー」 「メイ!」  小学校が別々になってしまったが、コータくんはメイくんの親友だ。 んぎゅっと抱擁しあって、可愛いな。 「瑞樹くん、お元気そうね」 「あ、おかげさまで……」 「バス停であなたに会えなくなって寂しいわ」 「僕もです」  幼稚園のバス停ママさんたちは、僕と宗吾さんの深い関係を知っている。だから僕の方もリラックスして話せる。 「瑞樹くん、ますます幸せそうね」 「え……」 「ふふ、滝沢さんも若返っちゃって、本当に変わったわね」  宗吾さんは席でニコニコと手を振っている。 「冬休みもあなたたちはお仕事でしょう? 今度うちに芽生くん遊びに来ないかしら? 夜御飯まで預かってもいいかしら?」 「え……いいんですか。宗吾さんに聞いてみます」  嬉しい誘いだった。 芽生くんも学校の放課後スクールやおばあちゃんの家ばかりでは退屈してしまう。仲良しのお友達と遊ぶ時間も大切だ。 「パパ、いい? ボク、クリスマスにもらった野球ゲームをもっていくよ」 「あぁいいぞ。お世話になろう」 「メイ、いっしょにやろうぜ」 「うん! やったぁ」  芽生くんとコータくんは仲良しだ。  仲良しの友達がいるっていいよね。  僕にもいるんだよ。  大沼のセイ、鎌倉の洋くん、そして同僚の菅野。  とても大切な人達だよ。  芽生くんの大切。  それは僕の大切でもあるよ。  見守らせて欲しいんだ。  芽生くんの世界を……ずっとずっと。 ****  公園で誰よりも早く野原を駆け抜けた瑞樹を見て、感動した。  瑞樹……君は今、どこまでも明るく輝いているよ。  俺と芽生が君の翼になっているのなら嬉しい。  三人で来年も高く飛んでみよう。  今まで見えなかった世界がまた見えてくるだろう。 「熱っ」 「瑞樹は案外、猫舌なんだな」 「すみません……こんなに熱々だと思わなくて」  赤い舌でふーふーと息を吹きかける姿に、ドキッとした。  昨夜の君は情熱的だったな 俺を積極的に迎え入れてくれる身体が良すぎて、目眩がしたよ。  瑞樹も俺の視線を感じたようで上目遣いでちらちらと、こっちを見る。  よせよせ、真っ昼間から……  デレッとしたまま、スプーンを口に入れると、想像より熱かった。 「アチチ!」 「宗吾さんっ、しっかりして下さい……もうっ」  食事の後は、一度着替えに家に戻った。 「次はどこに行くんですか」 「デパートだ」 「あ、じゃあ家電ショップに行っても?」  どうしてかと思ったら、瑞樹が俺にシェーバーを買ってくれた。 「いいのか」 「はい、今の……少し刃の調子が悪そうだったので」 「あ……もしかして、髭が痛かったか」 「くすっ、そんなこと……」  瑞樹が思わせぶりに笑うのでドキッとした。  瑞樹……表情が柔らかくなったな。 「そういう訳じゃないんですが……僕もボーナスで宗吾さんに何か買ってあげたくなりました。芽生くんにも」 「わぁ、いいの?」 「うん。だから、おもちゃ売り場に行こうか」 「やったぁ、あのね、ぼく、コータくんが持っていた赤レンジャーのね!」  和やかに歩いていると、芽生が突然消えた。 「おい、勝手にうろうろしちゃ駄目だぞ」 「ごめんなさい。これなに? おもしろいね ロボットみたい」 「あぁ、これは自動掃除機の『サンバ』だな」 「えー これがそうじきなの?」 「そうだよ。ロボットみたいに勝手に部屋を掃除してくれるんだ」 「わぁぁ」  待てよ、これ買ってみるか。  俺のベッドの下もコイツに掃除させればいいんじゃないか。 「よし! パパはボーナスでこれを買うよ」 「え? こんなに高いの? 僕、掃除機くらいかけますよ」 「瑞樹、俺たち少し家事の負担を減らしていこうぜ。俺たちの時間を来年はもっと増やしたい」 「……宗吾さん」 「わーい! ボクのおうちにロボットがやってくるよ」  その晩は、デパ地下で買い込んだご馳走の前に、ロボット掃除機の試運転をした。 「よーし! しゅっぱつしんこうー」 「宗吾さん、ドキドキしますね。本当に自動で?」 「あぁセンサーがついているから、一番汚いところから掃除するらしいぜ」 「あ、じゃあ……もしかして」  芽生が嬉しそうに寝室のドアをあけると、『サンバ』は全速力で寝室に入っていった。 「やっぱり!」  慌てて三人で寝室を覗き込むと、スッと俺のベッドの下に消えて行った。 「なかなか出てこないですね」 「あ……あぁ」 「あ、もどってきたよ」 「?」  『サンバ』が連れてくるのはどうせ灰色の埃の塊だろうと思ったが……なんと! まるでクリスマスのガーランドのようなゴミの山だった! 「そ、宗吾さんっ?」  しかも、それはただのゴミではなくて、俺のパンツや瑞樹のパンツ(何故ここにー?)に、白いエプロンに……やべぇ! 「ちょ、ちょっといいですか!」 「もう、パパってば」 「はは、見つかっちゃったか」  悪びれず笑うと、瑞樹も怒った顔から破顔してくれた。 「もう、こうなったら徹底的に掃除してもらいましょう!……くしゅん!」  家族のクリスマスは、賑やかなのがいい。  笑顔を弾けさせて、俺たちだけの聖夜を祝おうぜ!  そして来年もまた沢山笑おう。 「瑞樹、メリークリスマス。何度でも言うよ」 「宗吾さん、メリークリスマス! 明るい1日をありがとうございます!」  ハートフル・クリスマス 了 年末のご挨拶 **** 大晦日ですね。 最後は笑いでおしまい! なんとかクリスマスの物語も終えることが出来ました。 今年も『幸せな存在』を毎日読んで下さりありがとうございます。 春に完結させ1週間お休みをいただいたのですが、私が我慢出来なくて 『小学生編』と銘打って連載再開しました。それ以降も更新の度にリアクションで応援して下さり、ありがとうございます。 皆様からのお気持ちを糧に、日々更新しています。 芽生の運動会も途中ですし、学芸会で活躍する芽生や、進級する芽生……いろんな芽生に会いたいです。妄想尽きるまでお付き合いいただけたら嬉しいです。    

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