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新春特別編 降り積もるのは愛 1
あけましておめでとうございます!
昨年は『幸せな存在』を読んで下さりありがとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。
せっかくお正月なので、新春らしい内容を書きたくなりました。
どこまでも日常の平和な話です。ほっこりお楽しみください。
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「おばあちゃん~ あけましておめでとうございまーす」
「母さん、明けましておめでとうございます」
「お、お母さん、明けましておめでとうございます」
元旦の午前中、俺たちは三人揃って実家にやってきた。
クリスマスは3人で来れなかったので、瑞樹の元気な顔を早く見たかった。
俺は瑞樹と一緒に暮らすようになってから、季節毎の行事が心から楽しくなった。昔はろくに寄りつかなかった実家に、朝一番に揃って挨拶に行くなんて驚きだぜ。
今は、こんな自分がとても好きだ。瑞樹を好きになってから、何でもない日常が愛おしくなったよ。
「あけましておめでとう! あぁ~瑞樹くん元気だった? お顔ちゃんと見せて。あなたに会いたかったわ」
「あ……僕もです。クリスマスはすみません」
瑞樹は面映ゆい表情で優美に微笑んでいた。
「まぁ謝ることじゃないでしょう? お仕事だったんだし、それに、そのお陰でお正月のんびり過ごせるのよね」
「あ、はい」
本当にその通りだ。瑞樹、謝ることではないぞ。それにクリスマスに出たお陰で年末年始はゆっくり休みをもらえたのだから良かったよ。
「さぁさぁ、立ち話もなんだわ。早くお上がりなさい」
「はい」
「おばーちゃん、 あーちゃんは?」
「起きてるわよ」
「やったぁ!」
すると奥から兄さんが出てきた。
「やぁ、いらっしゃい」
「お?」
これは驚いたな。和装姿だったので一瞬親父かと思ったぜ! 兄さんは学者肌だった親父似だから、着物姿だと錯覚してしまうな。
「兄さん、明けましておめでとうございます」
「あぁ、あけましておめでとう」
「わぁぁ、おじさんのキモノかっこいいー!」
「ん? そうか」
芽生が目を輝かせて、兄さんの着物を見つめていた。
思えば最後に芽生が着物を着たのは七五三の時か。あの時のことを思い出すと少し切ない気持ちになるな。階段から芽生が転がり、瑞樹が助けようと一緒に……思い返せばあれは出会った年の秋だったな。あの頃から俺たちはもう運命共同体になっていたんだな。
大変な時を共に乗り越え、喜びを分かち合うのが『運命共同体』だろ?
今年もチームで仲良くやっていこうぜ!
「おじさんの着物にさわってもいい?」
「ん? いいぞ。もしかして芽生も着物を着たいのか」
「うん! カッコイイもん!」
「そうか、そうか、瑞樹くんは私の着物姿、どう思う?」
おいおいマジか! 瑞樹にもわざわざ感想を求めるなんて、俺が知っている兄さんじゃないぞ。
「憲吾さんの着物姿、とても似合っていて……その、カッコイイです」
「そうかそうか」
デレッ――
そんな効果音が聞こえたような?
兄さんが今まで見たこともない程、目尻を下げた。
何だか瑞樹と芽生に甘いよなぁ……俺には厳しかったのに。
「ちょうどいい、奥の部屋に来てくれないか」
上機嫌な兄さんに、玄関から居間ではなく、客間に連れて行かれた。
そこは衣装部屋続きの客間で、父さんや母さんが和服に着替える時に使っていたので、大きな姿見が今も置いてある。
「ここを俺たちの寝室にリフォームしようと年末に大掃除していたら、いい物を見つけたんだ」
兄さんが押し入れの桐箪笥を指さした。
「母さん、せっかくだから今日着せてやってくださいよ」
「そうね! お正月だし三人で揃って着たらカッコイイわ」
「?」
母が出してきたのは、なんと羽織袴だった。
「これって?」
「憲吾が話した通りよ。同居にあたり部屋を整理したら、父さんが集めていた着物が沢山出てきたのよ」
「へぇ、知らなかったな。羽織袴まで持っていたのかよ?」
「お父さんね、老後は日本の文化が好きだったのよ。宗吾は家に寄りつかなかったらから……知らないだろうけど」
「そうだったのか」
「大人だけでなく子供のもあるのよ。成長した芽生にも着せたかったのかもしれないわね」
子供用は明らかにそうだろう。そして大人用の羽織袴は丁度二つあった。
「瑞樹も着ようぜ」
「え……ですが。それは大切なお父さんの形見ですよね。僕なんかが着るのは……」
こういう時、瑞樹はいつも遠慮してしまう。それがいじらしくもじれったくなる。さてと今日は一段と頑なに遠慮する君の気持ちを、どう解していくべきか。
悩んでいると、母さんが察して助言してくれた。
「瑞樹くんにもぜひ着て欲しいわ」
「お母さん……」
「私が見たいの。三人でお正月に羽織袴姿なんて眼福よ!」
眼福って……母さん、そういえば最近韓流ドラマに推しが出来たって騒いでいたか。まぁ、いつまでも気が若いのはいいことだな。
そんなわけで俺は黒い羽織に白い袴、瑞樹は白い羽織に濃紺の袴を着せてもらった。芽生は子供らしく星の柄の青い羽織だった。
「わぁぁ! ボクたち、カッコイイね!」
「宗吾さん、カッコイイです」
「瑞樹、君もよく似合っているよ」
「そ、そうでしょうか」
三人で惚気て合っていると、母さんと兄さんに笑われた。
「もう~ 惚気あって可愛いわね」
「そうだ、せっかくだからそのまま初詣に行って来たらどうだ?」
「兄さん、それいいな。瑞樹、芽生、行こう!」
「夕食までには戻って来いよ」
「了解!」
思いがけず、俺たちは正月に和装姿で外出することになった。
男三人の羽織袴姿は圧巻なようで、道すがら……すれ違う人がチラチラと羨望の眼差しを向けてきた。
そんな視線に……瑞樹は緊張しているようで、頬をうっすらピンクに染めていた。それがますます瑞樹の透明感のある肌を引き立てて、匂い立つような美しい横顔だった。
「宗吾さん……あの、照れ臭いですね」
「瑞樹、とてもキレイだよ」
「……そんな」
「顔を上げてみろ」
「……はい」
瑞樹が顔を上げてくれるのが嬉しい。
「お兄ちゃん、ちょっと歩きにくいよ」
「あ……手を繋ごうか」
「うん!」
芽生の手が瑞樹に触れる。
「パパともつなぎたいな」
「おし!」
もう片方の手が俺に触れる。
芽生を通して感じるのは、ほっこりする家族の温もりだった。
芽生の存在は、やっぱり俺たちの絆を深める存在だ。
「瑞樹、いい年になりそうだな」
「はい、そうですね」
さぁ今年は足並みを揃えて……
明るくスタートだ!
新年、あけましておめでとう!
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