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降り積もるのは愛 15 

 瑞樹はミルクティー色のダウンコートにすっぽりと身を包み、 静かに電車の揺れに身を任せていた。 「瑞樹、その色、似合っているな」 「あ……そうでしょうか」  俺が話し掛けると、小首を傾げる仕草に笑みを添えてくれた。  上品で優しい君の笑顔が好きだ。 「あぁ、君の明るい髪色によく似合っているよ」 「……この髪色は地毛なんですが、よく染めているの?と言われました。兄さんも潤も真っ黒なので残念に思うこともあったのですが……今は好きです。あの頃……そんな小さな蟠りがあったなんて……今となっては懐かしいだけですね」  穏やかな笑みを浮かべる君の心は、もう晴れ模様。 「お兄ちゃんのダウン、ふわふわだね」 「そうかな? ありがとう」 「芽生、パパのコートは冷たいぞ」 「それは、パパがふざけてころぶからだよ」 「くすっ、あの……宗吾さんも新しいコートを買いませんか」  瑞樹が何気ない一言に、心がトクンと、ときめいた。  最近どんどん広樹、瑞樹、潤の三兄弟の絆が深まっていく。  もしかしたら、俺もそこに混ざりたかったのかもな。 「欲しい!」  つい漏れたのは、本音だった。  すると瑞樹が即答してくれた。 「探しましょう。本当に北海道にスキーに行くのなら、防寒をしっかりしないと」 「お、おう! そうだな」 「芽生くんのも買いましょう。そろそろサイズアウトみたいですよ」 「わぁ~ いいの? 天使の羽がつまったコート、ボクもほしいよ」  駅からアウトレット行きのシャトルバスに乗車し、無事に「六井アウトレットパーク・横浜マリンサイド』という商業施設に到着した。 「うわぁ~ うみだ」 「海の間近にあるんですね」 「うはー 海風が冷たいな。まずは腹ごしらえな」 「どこに行くんですか」 「寿司でいいか」 「はい!」 「パパ~ まわるおすし?」 「そうだよ」  俺が二人を案内したのは『函館しかくあいこ水産』という回転寿司屋だった。 「あ! お兄ちゃん、この漢字見たことあるよ」 「うん、函館って書いてあるね」 「瑞樹、そろそろ故郷の味が恋しいだろう?」    ここは函館ならではの地魚の握りと、魚屋直営だから出来る鮮度が自慢らしい。しっかりリサーチ済みさ! 「え?」 「ここで函館の味を心ゆくまで堪能しろよ」 「宗吾さんは、もう―敵いませんね」  瑞樹が頬を染めて、こぼれるような笑顔を見せてくれる。その笑顔が見たいから、俺は君が喜ぶことを、いつでも探したくなるんだよ。  四人掛けのブースに座ると、すぐに瑞樹が粉茶にお湯を注いで煎茶を作ってくれる。きめ細やかな瑞樹が好きだ。 「芽生くんはお水にする?」 「んー お茶がいいなぁ」 「じゃあ、氷をもらってくるね」 「ありがとう!」  芽生のために、心を砕いてくれる瑞樹が好きだ。 「宗吾さん? あの……どうかしました?」 「いや……さぁ好きなものを頼んでくれ、イカが新鮮で美味しそうだぞ」 「あ、あの……」 「ん?」  さっきから瑞樹が好き好き光線を送りすぎたか。  瑞樹は目元まで染めている。 「どうした?」 「宗吾さんは……いつも格好良すぎます」 「アチッ」  瑞樹がこんな場所でストレートに俺を褒めてくれるので、飲んでいたお茶で舌を火傷しそうになったよ。 「大丈夫ですか」 「あぁ、俺、何かしたか」 「午前中、母と電話をして函館の魚介が食べたいなと心の中で思ったら、お昼にはここに連れてきてもらえて……僕、何も言っていないのに」 「以心伝心だろ? 俺たちはもう――」  その会話をニコニコと聞いていた芽生が、割り入ってくる。 「ブブー、ちがうよ」 「ん? じゃあ何だ?」 「それはアチチだよ~」 「め、芽生くん」 「ははっ」  芽生が頭の上で、手でハートを描いていた。 「ははっ、芽生は可愛いなぁ」 「ボクはパパとお兄ちゃんがなかよしなのが、とってもうれしいよ。ごはんもおいしくたべられるんだ」 「よし、次は何にする?」 「えっと~ いくら!」  無邪気な芽生の笑顔を見つめていると、瑞樹と目が合った。  俺がこんなに優しい気持ちになれるのは、優しい瑞樹といるからだよ。  何でもない日常が、今年も輝きを増しているようだ。  幸先がいい、とはこのことを言うのだろう。  食事の後は、お目当てのフランスのアウトドアショップに向かった。 「わぁ、お洒落なお店ですね」 「あぁ、良い感じだな」 「パパ、なんてよむの?」 「あぁ『 Soleil(ソレイユ)』だ」 「どういう意味ですか」 「太陽さ!」  ログハウス風の店内には冬のアウトドアウェアが沢山ディスプレイされていた。 「あ、あれー お兄ちゃんのとおなじ!」  芽生がいち早く見つけて、駆け寄った。   「本当だね。あっ、こっちの白いのはキッズサイズだよ」 「わぁぁ」 「芽生、ちょっと着て見ろ」 「うん!」  芽生が着ると、少し大きめだったが、暖かそうでよく似合っていた。 「いいんじゃないか」 「芽生くん、かっこいいよ」 「えへん!」  そこに店員さんがやってきて、瑞樹のコートにすぐに気付いてくれた。 「お客様、当店のコートを愛用して下さっているのですね」 「あ……これは実家の母と弟が買ってくれたばかりなんです」  瑞樹は聞かれてもいないことを嬉しそうに答え、それから自分から積極的に質問をしていた。 「あの……もう少し大きいサイズもありますか」 「ありますよ。ちょうどお連れのお客さまに良さそうなサイズが」 「宗吾さん、良かったですね」  瑞樹が俺を見つめてくる。  お、おい? そんなに君は積極的だったか。  ドギマギしてしまうよ。   「焦げ茶色になりますが 、こちらです」 「ちょうどいいです。宗吾さん、着てみてもらえませんか」 「お、おう?」    サイズはぴったりだった。    焦げ茶のダウンか、クマみたいでカッコイイな。 「宗吾さん、このダウンはボクからのプレゼントにさせてください」 「え? こんな高いの駄目だ」 「大丈夫です。毎月の家賃もほとんど受け取ってもらえないし……何より、僕も宗吾さんと芽生くんに、贈りものをしたくなったんです」    贈り物をもらった瑞樹は、その喜びを俺たちにも分けてくれる。 「そうか……君からの贈りものか」 「うれしい! お兄ちゃん、ありがとう! ボクは白で、パパのはお紅茶の色みたいだね。だからお兄ちゃんは、茶色と白をあわせたミルクティーみたいなお色なんだね」 「あ……うん。そうだよ」  芽生――  いいこというな。  俺たち一人一人は、それぞれの個性という色を持っている。  その色が混ざり合うと、優しい色が生まれる。  単色の時には感じなかった、深い色になる。  そうか……人の気持ちも混ざり合うと、優しさになるのか。   

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