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降り積もるのは愛 16

「そうだ、瑞樹、せっかくだからスキーウェアもどうだ?」 「え?」  ダウンコートを買ってお店を出ようとしたら、宗吾さんに呼び止められた。   「去年は一式レンタルしたが、これから毎年行くのなら、俺のは買った方がいいんじゃないか」 「それはそうですね」 「これなんて、どうだ?」 「レッドですか」  今流行のスタイルのスキーウェアだった。  確かに白銀の世界で、赤いスキーウェア姿の宗吾さんを見たいかも。 「どう思う?」 「それは……その」 「似合わないか」 「う……とても……」 「ん? 聞こえないぞ」 「あの……カッコイイと思います」 「ははっ、よしこれを買うぞ」 「あ、はい!」  本当にスキーにまた行けるんだ。  楽しかった思い出は、もう消えたりしない。  楽しい思い出を、こうやって積み重ねていけるのか。  そう思うと本当に嬉しい気持ちで一杯になった。 「いいなぁ~」  隣で芽生くんがキラキラな瞳でスキーウェアを見つめていた。芽生くんのスキーウェアは去年、潤の先輩のお子さんの物を借りたが、今年は軽井沢にいくわけではないしどうしようかな。   「瑞樹、芽生にも買わないか」 「でも……すぐにサイズアウトしてしまうから勿体ないですよ」 「そうかぁ? 君の姪っ子ちゃんと俺の姪っ子が着るかもしれないし、そう無駄にはならないと思うが」 「あ……確かに、そうですね」  そうか、お古って節約するだけではないのか。僕たちが芽生くんと作る楽しい思い出は、彩芽ちゃんや優美ちゃんにも引き継がれていくのかも。そう考えると、とても嬉しいな。  あ……もしかして……函館のお母さんもそんな気持ちで、いつも広樹兄さんの服を僕に着せていたのかな? 広樹兄さんの匂いが染み付いた服を着ると、血の繋がらない僕なのに、家族の一員になれた気持ちがして嬉しかったよ。   「あの、そうなると……この黄色いのなら性別に関係なく可愛いのでは?」 「だな。パンツはブルーだし。芽生、どうだ?」 「いいねぇ~  イエロ-&ブルーレンジャーになれるね!」 「よし、芽生、一緒に試着しようぜ」 「うん!」  試着室から出てきた二人はとても決まっていて、僕は思わずパチパチと拍手してしまった。 「すごい! 二人とも格好よすぎです!」  スキーウェアまで買ったので、いよいよ大荷物だ。モコモコのダウン二着にスキーウェア二着。これは電車で帰るのが、大変そうだな。 「瑞樹、心配するな。ここはアウトレットモールだ。まとめて送ればいい」 「送るんですか」  宗吾さんの頭の中は、いつだって柔軟で感心してしまうよ。   「そうだよ。そうだ。送るついでに、特売のショートパスタも買っていこう」 「あ、はい」  宗吾さんがアウトドアショップの白い大きな手提げに、パスタの5kgの大袋を軽々と持って、スタスタと歩いて行く。 「僕も持ちます」 「いいから、いいから、君は芽生と手を」 「はい」 「お兄ちゃん、ボクのパパは力もちなんだよ。朝顔だってひょいってね。ほら、お兄ちゃんのことだって、ヒョイって」 「めめ……芽生くん、それはちょっと……」 ****    一緒に歩いている瑞樹が、真っ赤になってしまった。    確かに瑞樹だってれっきとした男だ。人前でそれは恥ずかしいよな、すまん! 「イテテ……パパ、さっき転んだからかな、尻が痛くなってきた」 「ええ? 大丈夫ですか」 「あぁ瑞樹、ダウンの袋は君が持ってくれるか」  ウインクして渡すと、瑞樹が心から嬉しそうに笑ってくれた。   「はい! もちろんお持ちします」 「ボクもおてつだいする~」 「じゃあ小さい方を持ってね」 「うん!」    アウトドアショップの白い大袋を抱えた俺たちは、まるでサンタのようだ。  なんでもない買い物も、三人で体験すればワクワクな出来事に生まれ変わる。  結局、日々起きる出来事をどう感じるかは、俺たちの感情次第なのだな。   「そうだ、せっかくだ。お揃いのダウンを着て帰るか!」 「わぁ~ たきざわチームだもんね!」 「そうだな」  宅配の配送受付で、俺たちはコートを着替えた。  紅茶色のダウンの俺と白色の芽生、そしてミルクティー色の瑞樹。  ダウンは似たようなデザインが多いから、お揃いでも目立たない。 「瑞樹、俺たちペアルックみたいだな」 「あ……そ、そうですね」  瑞樹が恥じらいながら甘く微笑む。  耳を赤くする。  控えめな君に大胆なことをさせるのに萌えるんだよ!  それにしても、せっかくお揃いのコートに着替えたことだし。このまま真っ直ぐ帰るのが勿体なくなってきた。 「宗吾さん、あの、帰りもシャトルバスにしますか」 「いや、電車にしよう! マリンサイドラインというモノレールに似た電車が走っているんだ」 「わぁ、電車?」  電車好きの芽生がワクワクと目を輝かす。 「ついでに、寄り道をしていかないか」 「え? どこへですか」 「右に行けば帰る駅だが、左に七駅乗ると『七景島マリンパラダイス』というレジャー施設に行けるんだ。君は行ったことあるか」 「いえ……ないです」 「よし! 君の初めてを、またもらえたな! 新年早々幸先のよいスタートだな。じゃあ行こう!」  俺と芽生と瑞樹は、マリンサイドラインに飛び乗った。  決められたレールを走るのだけでなく、たまには寄り道や引き返してもいいのではないか。  休む間もなく、前へ前へ進むことばかり考えているのでは、息切れしてしまうだろう。 「大人の寄り道だな」 「宗吾さん……あの……寄り道って、いいですね。ワクワクしてきます」 「あぁ、思い出が転がっているからな」    

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