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花びら雪舞う、北の故郷 8

 僕は潤と2階に上がった。  宗吾さんから「瑞樹~、兄としてしっかり聞いてやれよ」と言ってもらえたので、 どんな話でも受け止めようと誓うよ。  チラッと来る時に、聞いたことかな?  いい人が出来たんだね。きっと―― 「潤、話って?」 「あ、あのさ……」  潤は照れ臭そうに、鼻の頭を何度も擦っていた。 「実はさ……お付き合いしている人がいるんだ」  これも想定内だ。そして、もしも相手が男の人でも、僕には理解がある。  だから真っ先に僕に告げるのでは?  頭の中では勝手にそう思っていた。  ところが、話は想定外な方向へすっ飛んでいった。 「父親になる」 「え?」 「正確には、なりたいかな」 「は?」  んんん? 頭が着いていかない。  何故……付き合うが、いきなり父親に? 「じゅ、潤……最初から話して」 「あ、ごめん。端折りすぎた」 「あの……誰と付き合っているの?」  緊張が高まる。 「実はさ、軽井沢のアウトレット店の店員さん」 「えっと、女性だよね」 「そうだよ。三歳の男の子のお母さん。旦那さんと死別して一人で頑張っているんだ」 「……そうなのか」  じゃあ……潤の子ではないのか。  心臓がバクバクしてくる。    その環境は、僕たちと、とても似ているから。 「実はさ……5歳年上なんだ」 「年は関係ないよ。どうやって出会ったんだ?」 「ありがとう。彼女は、あのダウンを買ったアウトレットの店員さんで、俺と母さんのこと『仲良し親子ですね』なんて褒めてくれて好印象だった。で、その後、偶然ローズガーデンに来たんだ、お子さん連れで」 「それが出会いなんだね」 潤らしい破天荒さが、憎めなかった。 「まだ付き合い出したばかりだが、浮ついた気持ちじゃないんだ。いずれは……ちゃんとって思っているんだ」  そう言い切る潤は、男らしかった。 「潤、兄さんに話してくれてありがとう。潤なら……絶対に潤なら、いいお父さんになれるよ」 「兄さん、兄さんにそう言ってもらえると、嬉しいよ。正直、いきなり母さんや兄さんに話す勇気がなくてさ」 「皆、潤を信じているよ。あ……だから芽生くんの相手、あんなに上手になっていたんだね」 「へへ。休みの度に、彼女が子連れで冬のローズガーデンに遊びに来てくれるんだよ。で、仕事の合間に遊んでやった。兄さん、子供って可愛いなぁ」  冬のローズガーデンは閉鎖中だと思ったけれど、やっているんだね。 「花が咲いたんだね。潤の心が華やいでる」 「兄さん、驚かしてごめんな。その子、可愛いんだ、彼女はとても心が綺麗な人で……」  まだ始まったばかりの恋のようだが、真摯な心があれば、きっと上手くいくと思う。潤なら、いつか自分の子を持っても、分け隔て無く接することが出来るだろう。 「名前は何て言うの? 聞いてもいい?」 「聞いてくれるのか!」 「彼女は菫《すみれ》さんだよ」 「素敵な名前だね。あの、お子さんは?」 「樹《いつき》くんだよ。瑞樹の樹、広樹兄さんの樹がつくんだよ」 「親しみがある漢字だね」  植物にちなんだ名前に、僕との縁も感じた。 「じゅーん、頑張れよ」 「兄さん……ありがとう。絶対に……真っ先に伝えたかった」  僕は潤をそっと抱きしめてあげた。 「潤……小さかったお前が本物の恋をして、父親になろうとしている。兄さんは応援するよ」  もしかしたら、最初はお母さんは少し反対するかもしれない。広樹兄さんは、驚いて心配するかも……  しかし皆、最後には分かってくれると思うよ。  それが僕たちの家族だから。 「おーい、そろそろ行くぞ。予約の時間だ」  階下から宗吾さんの声がする。 「行こう」 「うん!」  なんだか僕たち兄弟の距離が、この数時間で一気に縮まった気がするよ。  歩み寄れば、歩み寄ってくれる。  心が近づくと、相手の気持ちもとてもよく分かるね。  大切に思えば、相手も大切にしてくれる。 「兄さんのお陰だ」 「僕は何もしていないよ?」 「以前の俺だったら、彼女の良さに気付けなかった」 「じゃあ、潤のお陰だ」 「はは、兄さん、兄さんも幸せになってくれよ。兄さん、やっぱり笑った方が可愛いもんな」 「ふふっ。いい歳の兄さんに可愛いはないよ」 「いや、俺の兄さんは永遠に可愛い人だぜー」  っと潤が叫ぶと、宗吾さんがヌッと現れて、フフフと笑って潤を引っ張っていった。 「潤くん、今日はオニイサンとたっぷり飲もうぜ」 「は、はい!」  そして入れ替わりに芽生くんが僕の元にやってくる。 「お兄ちゃん、今度はたのしいお話だったんだね」 「え? なんでわかるの?」  「だって、とってもかわいいお顔になってるんだもん!」 「え、かわいい?」 「うん! かわいいよー パパもジュンくんもひろきくんも言ってるよ」 「はは。僕には芽生くんの方が、かわいいけど?」 「ほんと?」  芽生くんがきらりんと目を輝かせる。  お寿司やさんに向かう途中、慣れない雪道に足を取られる芽生くんに、そっと声をかけた。 「抱っこしようか」 「うん!」  その光景にお母さんが目を細める。 「瑞樹は見かけによらず力もちね」 「あ、仕事で生け込みするとき、結構体力を使うので」 「細いままなのに不思議。でも逞しい瑞樹もいいわね」 「お母さん、あの……このダウンコート、暖かいです」 「まぁ、あなたは何度もお礼を言ってくれるのね」 「嬉しいから」   感謝の言葉って、一度きりでは勿体ない。  着る度に感謝している。  僕を引き取り、僕にこんなにも暖かい家族を作ってくれたお母さん。  あなたがいなかったら、今、僕はここにいない。  だから、ありがとう! あとがき(不要な方は飛ばして下さい) **** 潤のお相手いかがでしたか。 いろんなパターンを考えたのですが、一番腑に落ちるのが 今回の内容でした。受け入れていただけるといいなとドキドキ…… 今の潤だから出会った人なんだと、しみじみ思いました。

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