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(Valentine version)花びら雪舞う、北の故郷 19

今日は最初にご挨拶させて下さい。 HappyValentine!2月14日ですね。 『幸せな存在』もValentine versionです。 特に大きな事件も起きない、のんびりとした内容ですが、愛情はたっぷり込めました。今日は特に寒いので、ポカポカになっていただけたらいいなと心を込めました。 いつもリアクションで応援ありがとうございます。糧になっています。 おかげさまで連載2年7ヶ月目に突入です。これからも更新できるよう頑張ります。 それでは本文をどうぞ。 **** 「お兄ちゃん、あのね、あのね」  芽生が瑞樹の耳元で、何やら内緒話をしている。 「何かな?」 「あのね……」 「え?」 「だからいっしょにしよう」 「わわっ、ちょっと待って」  何やら芽生が積極的に瑞樹を誘い、瑞樹は少しだけ困っているようだった。   「パパは、すこーしだけ目をつぶっていてね。ヒロくんもだよ」 「なんだ、なんだ?」 「いいから、いいから」  耳を澄ますと、瑞樹の無邪気な笑い声もしてきた。  二人でキャッキャッと何かをしている声を聞くだけでも、心が和むよなぁ。  広樹と大人しく待っていると呼ばれた。 「もういいよ~ こっちきて、きて」 「おう!」  芽生の小さな手に引かれて雪原に佇む瑞樹の元に行くと、恥ずかしそうにニコッと微笑んでくれた。  白いスキーウェアに白い帽子を被った瑞樹は、まるで雪の妖精のように透明感がある。  あぁ、しみじみと可愛い男だと思うよ。    さっきは凜々しく見えたが、今は可憐で、つい俺の口元も緩む。 「どうした?」 「あ、あのですね、もうすぐバレンタインなので……これを……芽生くんと作りました」  瑞樹が横にサッとずれると、雪をキャンパスにした大きなハート型の足跡が現れた。 「おー! これはうれしいな」 「て、照れます」 「ヒロくんにもあるよー」 「嬉しいな! 俺にまであるのか」 「もちろんだよ~」  俺のハートの横には、同じようなハートが並んでいた。  広樹が快活に笑う! 「宗吾、俺のハートの方が大きいぜ」 「いや、俺の方が大きいぞ」 「ちょ、同じですよ」 「そうだよ。けんかはよくないよぅ~」 「広樹、俺たちハートの中にダイブしようぜ」 「おう!」  俺と広樹はハートの中で手足をバタバタ動かして、大きな天使を作った。 「わぁ~ 大きな羽だね」 「あぁ、二人を乗せて飛べるようにな」 「わぁぁ! つれていって~」  芽生が雪で作った天使の形にダイブする。  はらはらと舞い降りる雪の下で、俺たちはとても晴れやかな気分になった。 「さてと、そろそろスキーに戻るか」 「う……ついに二人の特訓が始まるんだな」 「二人? いや、今日は俺がマンツーマンでコーチをしてやるよ」 「え? 広樹が」 「イヤか」 「……厳しそうだ」(瑞樹がいい)  そんな気持ちがバレバレだったのか、広樹がオレの背中をバンバン叩く。 「早く上達したいんだろ? じゃあスパルタコーチを選べよ。瑞樹はお前に甘すぎるだろう」 「うう……そう来るか」  瑞樹が申し訳なさそうな顔をしている。 「僕は芽生くんのコーチをしますね。実は……兄さんの教え方の方が上手なんです。僕も兄さんのお陰で短期間ですごく上達したので」 「そうかぁ~ じゃあ頑張るかなぁ」 「宗吾さん……」    少しテンション暗く呟くと、瑞樹がそっと囁いてくれた。 「あの、僕からは……雪のチョコだけじゃないんです。だから頑張って下さい」 「お? 本当か」 「あ、あの……今日はダメですよ。明日渡します……本当に本当に特別ですよ。あ、あと、宗吾さんが上達してくれたら一緒に滑れるので、嬉しいです」  お? 今日はダメで明日渡してくれるものって何だ? エロいものしか浮かばん!  あれか、まさか……あれか‼(期待しすぎか)  いずれにせよ、俺は瑞樹に甘やかされているとしみじみと思った。 「頑張ってくるよ」 「はい! 応援しています」 「パパー ないちゃダメだよ」 「ははっ」  芽生は瑞樹を独占出来て嬉しそうだな。    だが俺は夜の約束をしてもらったんだ(勝手に解釈)    頑張ろう。  ****  宗吾さんを見送って、ポッと頬が火照ってしまった。  あれは絶対夜を期待している。  まぁ……そういう僕も同類だ。  チョコミルク味の練乳って美味しいのかな? よく分からないが、うっかりスーパーで練乳の姉妹品を見つけてしまったんだよなぁ。  はっ、僕は何を期待して? 「お兄ちゃん、すべりにいこうよ」 「う、うん!」  僕と芽生くん。宗吾さんと広樹兄さんと別れて行動することになった。  やはりマンツーマンで教えてもらうと、上達が早いからね。 「さぁ芽生くん、まずはここで去年習ったことを思い出してごらん」 「えっと、こうやってこうでしょ。ほらちゃんとすべれるよ!」 「わぁ! すごい!」    子供の吸収は早い。そして記憶力もあるので、すぐに去年教えたことを思い出したようで、スムーズに滑り出したので感動してしまった。  小さな芽生くんの頑張る姿に、僕の小さな頃を思い出した。  あの日、広樹兄さんが必死に呼び戻してくれたスキーの記憶を。  僕のスキーは10歳からは広樹兄さん仕込みだが、その前は亡くなった両親から熱心に教え込まれたものだった。  スキーシーズンは、山に入り浸っていた。そしてお父さんの記憶よりも、母親が熱心に僕と夏樹に教えてくれた記憶の方が色濃かった。  そう言えば……お父さんは、あの時どこにいたのかな?  芽生くんは緩やかな斜面を、ボーゲンで上手に降りることが出来た。 「すごく上手だね。芽生くんは去年教えたことを全部覚えていてくれたんだね。嬉しいよ」 「えへへ」 「じゃあ次はもっと長い距離を滑ってみようか。あのリフトに乗ってみる?」 「やったー お兄ちゃんと二人のりだ!」  木立をすり抜けていくペアリフトは、爽快だった。  低いリフトなので、地上が近い。  芽生くんはキョロキョロと辺りを見渡していた。 「また、あしあとみーつけた」 「このコースは自然の森に近いからね」    その後、リフトに乗っては揺るやかな初心者コースを滑るのを繰り返していると、芽生くんが突然叫んだ。 「あー! キタキツネさん!」 「本当だね、やっぱりさっきの足跡はそうだったんだね」 「すごいねぇ、すごいね。あ、あっちにはパパがいるー!」 「あっ、宗吾さん、頑張っているかな?」    リフトから、ゲレンデを滑る宗吾さんを見つけた。  赤いユニフォームはよく目立つね。  転んでは立ち上がっての繰り返しのようだ。  広樹兄さんの明るい笑い声と、宗吾さんの嘆く声(悲鳴)がする。でも、二人ともとっても楽しそうだ。 「くすっ、特訓中だね」 「パパ、きっと、みちがえるようにかっこよくなるよ」 「そうだね」 「そうしたら、いっぱいほめてあげてね」 「うん、そうするよ」 「お兄ちゃん、そうしたらもっともっとパパのこと、スキになってくれる?」 「うん、今も沢山好きだよ。そして、もっと好きになるよ」  自分で答えて恥ずかしくなり、耳が熱くなった。  小さな子供相手に、何を惚気て……?  同時に芽生くんにも伝えたくなった。  無邪気な芽生くんと過ごす時間が、僕には愛おしくて溜まらないんだ。   「芽生くんのことも大好きだよ。もっともっと好きになるよ」 「わぁ……お兄ちゃん、うれしいよ」  ペアリフトで僕らは身体を寄せ合って、優しさを分け合った。  ハッピー・バレンタイン。  それは大好きな人に、愛を伝える日。               

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