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花びら雪舞う、北の故郷 22

 軽井沢――  きっときっと、きてくれる。  そんなきもちになるんだよ。  パパがね、もうすぐ……おそらからぼくをむかえにきてくれるよ! 「おい、いつき。おまえ、だれもむかえに、こないじゃねーか」 「そ、そんなことないもん!」 「おれんちなんて、もうママがきてくれたんだぞ、いいだろう」 「もうすぐくるもん。パパもママも」 「まだいってる! やーい、おおうそつきのいつき!」 「ちがうもん! ほんとうにパパ……ぼくをだっこしてくれたもん。あそんでくれたもん」 「はー ゆめでもみたんじゃないか」 「ゆめじゃないよ」 「じゃあ、今すぐ、ここにつれてこいよ」 「ぐすっ」  どうして……みんなしんじてくれないの。  どうして……あっくんは、いつもぼくをいじめるの?  どうして……ぼくはいつも泣いちゃうの? 「ぐすっ、ぐすっ」  ぼくはおそらにむかって、おててを、いっぱいひろげたよ。 ****  瑞樹と広樹が上級者コースに行っている間、2kmものロングコースを滑った芽生は流石に疲れ果てて雪の上に座り込み、俺もスキー板を脱いで放心状態になっていた。  いやぁ……参ったな。  広樹のマンツーマンコーチは、すごいスパルタだったな。  だがお陰でかなりコツが掴めたぞ!  さっきのロングコースは殆ど転ばずに滑れた。  まぁ……体中痛いのは仕方が無い。  そうこうしているうちに、二人組がこちらに向かって一気に滑り降りてきた。  白い妖精のような優美な滑りは、瑞樹。  黒いスキーウェアに熟練した滑りは、広樹だ。  こうやって見ると君たちは血は繋がっていないが、本当に息の合った兄弟だな。 「芽生、瑞樹たちが戻ってくるぞ」 「ほんとう?」  芽生が途端に元気になりスクッと立ち上がり、ブンブンと手を振った。 「お兄ちゃん、ヒロくーん、こっち、こっち」  瑞樹も芽生に気付いたらしく、片手をサッとあげて合図してくれた。  うはぁ~! 男の俺でも惚れてしまうほど、ゲレンデの瑞樹が決まっているな。こんなにカッコイイ男が俺の恋人だなんて、幸せだなとつくづく思うよ。  シュッと綺麗な音を立てて、俺たちの前に舞い戻ってくれた天使! 「お兄ちゃん~ かっこいい~」 「わ! 芽生くんに褒められた! 嬉しいよ」    すぐに瑞樹がゴーグルを外して、芽生に微笑みかけてくれた。  おーい、芽生、パパといる時とテンション違い過ぎないか。 「芽生くんもかっこよかったよ。さっきはあんな長い距離を、よく滑れたね」 「うん! お兄ちゃんがかりてくれたスキーの板に、流れ星がついていたから、ボクね、スイスイすべれたんだよ~」 「そうなんだね、よかったね!」  延々とラブラブな会話が続きそうだぞ。(おいっ、俺も入れてくれよ)    「瑞樹、今の滑り決まっていたな。気持ち良かったか」 「宗吾さん、はい、最高でした! とても楽しかったです。滑らせて下さってありがとうございます」 「良かったよ。本当に君の滑りは綺麗だな」 「あ、あの……僕のスキーは、広樹兄さん仕込みなんです。ねっ、兄さん」  瑞樹が隣の広樹を見つめて、甘く微笑む。(うぉ~広樹も役得だな、いかんいかん。ここは大人になろう)   「君は、いいお兄さんを持ったな」 「ありがとうございます。あの……憲吾さんも、僕にとっていいお兄さんです」    ここで兄の名を出してくれるなんて!  瑞樹の優しさは、いつもこういう所に宿っている。  いつも周囲の幸せを願う君って、本当に素敵だよ。 「さぁ芽生くん、そろそろコテージに戻ろうか」 「うん!」 「疲れてない?」 「えっと、あと少しでしょう? ボク、がんばるよ!」  去年の芽生だったら、絶対にここで抱っこかおんぶと言っただろうな。  たった一年だが、この時期の子供にとっての一年は大きいんだな。  芽生、偉いぞ! 「よいしょ、よいしょ」 「もうすぐ車だよ。がんばって」 「うん!」    きっと今宵は早く眠ってしまうだろう。  元気なようで、かなり疲労困憊だ。  俺も結構身体に来ているが、それよりも雪山の雄大な景色や、普段しないスキーというシチュエーションへの興奮が大きいんだよな。 「宗吾さんも、お疲れでしょう」 「いやいや。夜も思いっきり楽しむぞー!」 「そ、宗吾さん、声が大きいです」  瑞樹は……何故か顔を赤く染めている。 「おいおい、あのさ、今のはそんなつもりで言ったんじゃないぞ?」 「し……知っています」  最近、すぐにソッチ方面に頭の中が飛んでしまうようだが、大丈夫か~でも可愛いよな。    こんな瑞樹に誰がしたって? 俺の影響大だよなぁ。  コテージに戻ると、もう18時近かった。  本当に、今日はフルで遊んだな。 「よし、この先は風呂に入る人と食事を作る人で別れるぞ」  広樹の提案に同意した。 「瑞樹、芽生がかなり疲れているから、先に風呂に入れてやってくれるか」 「はい。分かりました」 「広樹、俺たちは何を作る?」 「カレーをだいたい仕込んできたから、ご飯を炊こう」 「へぇ、すごいな」    広樹は、本当に頼りになるな。  引き取られた当初、瑞樹がどんなに広樹を頼りにしていたのか。  よく分かる。  今宵はもっと広樹とも語り合ってみたい。  瑞樹が大切な人は、俺にとっても大切な人だから。  

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