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花びら雪舞う、北の故郷 41

「ところで、なんだかいい匂いがしますね」 「あぁ、忘れていた。朝からシチューを煮ていたんだ」 ストーブの上にのせられていたのは、外国製の重たそうな黒い鍋だった。   「へぇ、クリームシチューですか。美味そうですね」 「実は、もうすぐ大樹さんの誕生日で……それ何だか今日は無性に好物だったシチューを作りたくなって、朝から煮込んでいたんだ。あとでお供えするつもりだった。だから、いつもの倍の量を作っていたのだが、まさか大樹さんの息子さんの家族に振る舞うことになるとはな」  お供えとは……  瑞樹の両親の墓参りをしてくれていたのか。  そんな気配はなかったが。 「もしかして墓の場所を知っているのですか」 「いや……怖くて調べていないんだ。だからお供えと言っても、俺が撮った二人の写真に」 「よかったら、墓の場所を瑞樹に聞いてやって下さい」 「聞いてもいいのだろうか。俺なんかが」 「喜びますよ」  そんな話をしみじみとしていると、瑞樹と芽生が一緒に部屋に入ってきた。  さてはこのシチューの匂いに釣られたな。 「みーくん、メイくん、腹減っただろう。シチューを食べるか。大樹さんの好物は、君の好物でもあったよな」 「あ……くまさんの森のシチューだ」  なんだか童話の世界にいるみたいだ。  寝起きの瑞樹と芽生が天使のように見えて、目を擦ってしまった。 「なんだか、この光景……みーくんとなっくんを思い出すな」 「夏樹くんは丁度今の芽生くらいでしたからね」 「君はよく知っているんだな。みーくんと知り合って長いのか」 「……時間より深さですかね? しっくり来る相手なんですよ。お互いに」  自信を持って答えられた。  俺が瑞樹を愛する気持ちは揺らがない。  むしろ強くなる一方だ。  だから…… 「深さか……いい関係を築いてくれてありがとう。みーくんは息子みたいな存在だったから嬉しいよ。みーくんは幼い頃よりずっと強くなったようだ。それはきっと君のお陰なんだな」 熊田さんと話すと瑞樹の父親と話している気分になり、いささか緊張気味だ。 「ところで、ちょっと口調が余所余所しいな。俺とはタメでいいよ。君もいい歳だろう?」 「えぇ? 熊田さんって、いくつですか」 「もうすぐ50歳さ」 「そうなんですね。ちなみに俺はまだ33歳ですよ?」 「え? てっきり40は越えてるかと」 「それって……瑞樹と出会った時にも言われましたよ。とほほ……参ったな」  そんな話をしていると、瑞樹に笑われてしまった。 「宗吾さん、元気出して下さい。あの頃よりずっと若返っていますよ。あれ? ちょっと日本語ヘンですよね」 「パパー、ふけちゃいやだよ。わかわかしくいてね」 「おう!」  昨日、広樹と飲み過ぎたせいか。  顔に覇気がないのか。  慌てて洗面所を借りて、顔を冷水で洗い引き締めた。 「みーくん、君の彼氏は面白いな」 「宗吾さんはカッコイイです」  瑞樹……天使! 「そうだな、愛嬌があってかっこいいな。よかったな。いい人に巡りあって」 「はい……くまさん。僕たちは……深く……その」  瑞樹がそこまで言いかけて、耳を真っ赤にした。 「瑞樹。ふかーく、愛し合っているだろ?」 「はははっ、宗吾さん、いや、宗吾と呼ばせてもらおう。宗吾は大きなヤツだな。大樹さんもそういう所があったよ。大きな心を持っていた」  嬉しい言葉だ。   最高の言葉だ。  幸せな言葉だ。 あとがき(不要な方は飛ばして下さいね) **** 今日は短い更新、遅い更新になりました。 終日……同人誌の発送作業をしており、バタバタでした。 ご予約分すべて発送済みです。 『幸せな贈りもの2 ランドマーク』予約分100冊は完売しまして、本日より部数限定で一般販売スタートしました。ご興味あれば遊びにいらして下さい。 https://shiawaseyasan.booth.pm/ 芽生が幼稚園の時に見た夢の話(英国旅行しにいく)と、高校生になった芽生が英国に留学する書き下ろしを収録しています。宗吾さんと瑞樹も出てきますよ。彼らの10年後を知ることが出来ます。  

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