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花びら雪舞う、北の故郷 43
「おかわりー!」
「おう!」
「あの……僕もおかわりしていいですか」
「もちろんだ」
「俺も!」
「ははっ、腹ぺこか」
「なんだかホッとして……」
「あっという間に完売になりそうで、嬉しいよ」
あぁ……泣けてくる。
大輝さん、澄子さん、夏樹くんの誕生日に作ったシチューは、ひとりでは食べきれる量ではなく、いつも、もてあましていた。
彼らの写真の前に置いて、冷めていくシチュー、食べてもらえないシチューを見ては、気分が落ち込み泣いた。
そんな孤独な日々を、17年間も送ってしまったのか。
今、俺の目の前に広がる世界はなんだ?
明るく爽やかで、幸せな色で覆われた家族がいる。
その中に、みーくんがいてくれる。
こんな嬉しいことがあるか。
こんな幸せなことがあるのか。
「さぁ沢山食べてくれ」
「はい」
昼食の後、俺たちはすぐに墓参りに行くことにした。
みーくんの運転で、案内してもらった墓地は、ログハウスから車で20分ほどの場所だった。
「お墓……こんな近くにあったのか……長年調べようともせずに悪かった」
「いいえ、僕も同じです。僕も最近知ったのです」
「そうだったのか」
俺は自分の我が儘で、大輝さん一家を雨の中寄り道させてしまった後悔から葬式すら行けなかった。
今考えると、現実を直視するのが怖くて……逃げていたのだと思う。
ひとり残された、みーくんのことを思いやる余裕がなかったのだ。
「みーくん、本当に、本当にごめんな」
「くまさん、もう謝らないで下さい。くまさんだって辛かったのです。大変だったのですから」
「17年間、ずっと眠っていたような気分だ。みーくんに会えて目が覚めたよ」
そう呟くと、芽生くんが手をギュッと繋いでくれた。
「ねぇねぇ、くまさんって、ずっとねむっていたの?」
「あぁ……そうさ」
生きているようで死んでいたような日々だった。
「じゃあトウミンしていたんだね」
「冬眠か……」
「うん! 今はまだ冬だけど、心がポカポカになったから、目がさめたんじゃないかな? よかったね」
この子は、なんと優しい心を持っているのだ!
誰もが幸せになる言葉を、先ほどから放ってくれる。
俺を「おじいちゃん」と呼んでくれる。
この小さな存在が、とてもとても愛おしい。
「わぁ、芽生くん、今の素敵な言葉だね。芽生くんはいつも本当に優しい心を持っていて素敵だよ!」
みーくんが、芽生くんを抱きしめて頬ずりしている。
「えへへ、お兄ちゃん、くまさんと会えてニコニコだね。だから、ボクもうれしいんだよ」
優しい言葉と心を持っているんだな、君は。
俺の孫のような可愛い存在だ。
「よし、墓地に入ってみよう」
駐車場に車を停めて、移動した。
みーくんが先頭を切って案内してくれる。
「あの、ここです、ここが青木家のお墓です」
雪に埋もれそうな墓の前に立つと、いよいよ胸が締め付けられ、キリリと軋んだ。頭の中ではとっくに理解していたことだが、改めてあの人達がもうこの世にいないことを痛感した。
「大樹さん、澄子さん、なっくん……俺です、熊田です! 来るのが遅くなって本当にすみませんでした」
俺は感極まって、墓石に縋り付いて泣いてしまった。
すると、みーくんがすっと横に立って労ってくれた。
「お父さん、お母さん、夏樹……僕、熊田さんと再会出来ましたよ。この世に……森のくまさんを残してくれて、ありがとうございます。僕の父親のような人です。これから沢山、お父さんとお母さんの話を聞くつもりですよ」
「うっ……みーくん、君はなんて寛大なんだ。大樹さんのように広く、澄子さんのようにきめ細やかな心を持っている。両親のいいところを沢山受け継いでいるんだな」
「そうでしょうか。そう言ってもらえるの、嬉しいです」
「あぁそうだ、仏花を持ってくればよかった。お供えしたかったよ」
「あぁそれなら、大丈夫です。僕が持ってきました」
みーくんの手には、花などない。
「え? どこに?」
「ここにありますよ。見えますか」
みーくんが空に向かって手をかざすと……
ひらり、ふわりと雪が舞い降りてきた。
「くまさん……『花びら雪』ですよ」
大粒のはらはらと舞い落ちる雪は、まさに花びらのようだ。
「冷たい雪ですが、まるで空から幸福の花が降ってくるようではありませんか」
「みーくん」
冷たい墓石に降り積もるのは、確かに冷たい雪なのに……
ここは、まるで春の楽園のようだった。
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