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花びら雪舞う、北の故郷 45

「みーくん、ありがとう」 「くまさん! 僕と前に進みましょう!」 「そうだな!」  みーくん。  君は強くなったな。  しかも、ただ鋼のように強くなったのではない。  どんな嵐にも折れない、しなやかな樹のように成長したんだな。  大樹さん。  あなたの息子は、外見は澄子さんに似ていますが、芯の強さは大樹さんに似ているのかもしれませんね。  きっと、ここまで成長する上で数々の困難と向き合ってきたに違いない。その経験が、君をしっかりと大地に根付くように成長させたのだろう。  そう思うと泣けてくるが、俺はもう泣かない。 「芽生くん、そうだよ。上手だよ!」 「やったー!」 「宗吾さんもとても上手です。その調子ですよ」 「そうか、瑞樹に褒められると嬉しいな」  俺が先頭、みーくんが一番後ろについて滑走していく。  俺たちの心は、今ぴったり揃っているので、コースに綺麗なシュプールを描けるのだ。  みーくんの綺麗な滑りに、大樹さんの姿を彷彿した。 「くまさん、気持ちいいですね」 「あぁ爽快だな」  本当に何年ぶりだろう。  こんな風に風を斬って走るのは。  いつぶりだろう、山を眼前に見下ろすのは。  鎮魂の思いで見上げてばかりだった世界が、一変する。 「大樹さーん、澄子さーん、なっくん、聞こえるかー。俺、生きて生きて……前に進みますから、空から見ていて下さい!」  気が付けば、空に向かって吠えていた。  空に近い場所にいるから、出来ることだ。 「くまさん……くまさんの声はきっと両親や夏樹に届いていますよ」  みーくんが優しく微笑んでくれるので、そうだと思えた。  俺たちが日が暮れるまで、スキーに明け暮れた。  何度も心を揃えて、綺麗なシュプールを描いた。  やがて別れの時間がやってきた。  名残惜しいが、また会える。  そんな希望に満ちていた。 「くまさん、今日はありがとうございました」 「みーくん、またいつでも遊びに来てくれ」 「くまさん、くまさん……くまさんも東京に遊びに来て下さい」 「そうだな、冬眠はもう終わりだ。大樹さんの真似をするのではなく、大樹さんから受け継いだものを生かして、俺らしい写真を撮るよ。いつか大樹さんの遺作と合同展をしたい。そんな夢が出来たよ」  突然閃いたことだが、腑に落ちる夢が生まれた。 「いいですね! これからも父のカメラを使って下さい」 「ありがとう、大切に使わせてもらうよ。みーくんは、澄子さんのカメラを使って写真を撮ってくれ」 「はい、僕は僕のアレンジした花を撮りたいです」 「いいな。いつか俺とコラボしよう!」 「わぁ……いいですね。夢が膨らみます。東京に戻ったら写真の勉強も頑張ります」 「応援しているよ」    みーくんが微笑めば、ふわっと陽だまりのような空気が生まれていく。 「宗吾さん、みーくんのこと、どうか頼みます」 「はい! 俺、これからもずっと瑞樹と芽生と過ごし、幸せを積み重ねていこうと思っています」 「ありがとう。芽生くん、またおいで」 「くまさーん、森のくまさん。ボクのおじいちゃんになってくれてありがとう」  無邪気な笑顔に、癒やされる。 「あぁ、君のおじいちゃんになれて、嬉しいよ」  最後に芽生くんを抱っこしてやった。  温もりが心地良く、子供の少し高めの体温が懐かしかった。  みーくんのことも、なっくんのことも、こんな風に抱っこした俺だから、思うこと。 ****  熊田さんと別れて、コテージに戻ってきた。  スキーで疲れた芽生は車中で転た寝してしまったので、俺が抱えて、ベッドに寝かした。  改めて部屋を見渡すと、リビングには荷物が散乱していた。 「随分、散らかってんな……片付けるか」 「はい」    床に転がっているものを拾うと、焦って出掛けた時の気持ちが燻って残っているようだった。  瑞樹……本当に無事で良かった。  君に何かあったら、俺、耐えられないよ。  改めて思うこと。  改めて願うこと。 「宗吾さん、今日はすみませんでした。僕、心配をかけましたよね」  瑞樹も俺の気持ちが分かっているから、部屋の散乱を見て申し訳なさそうな顔を浮かべていた。   「謝るな、君は何も悪くない」 「ですが……」  瑞樹もホッとしたのか、俺の胸にコトンともたれてくる。  だから、俺は包み込むように抱きしめてやる。 「瑞樹、無事で良かった」 「はい」 「瑞樹……生きていてくれてありがとう」 「はい……宗吾さん」 「瑞樹、好きだ」 「僕も……大好きです」  瑞樹も俺の背に手を回し、抱きついてくれる。  俺の温もりに、素直に包まれてくれる。 「瑞樹の場所はここだ」 「はい、ここが僕のホームです」  温もりを分かち合う口づけを交わした。  無事を確かめるように、何度も、何度も――  

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