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花びら雪舞う、北の故郷 49

 夢は現実となる。 「くまさん!」 「みーくん」  車から降りてきたのは、みーくんだった。  すぐに俺に駆け寄ってくれる。  みーくんも同じことを思っていたのか、感極まって、幼い頃のように俺に抱きついてくれた。 「夢じゃなかった!」 「夢ではなかったのですね!」  確かめ合う、互いの温もり。  あの事故で生き残ってくれた小さな身体は大きく成長したが、清らかな野花のような香りは変わっていない。 「どうした?」 「あの……蜂蜜をもう食べちゃったので……お代わりにきました」 「お代わり? ははっ、俺も同じ事考えていたのさ!」  みーくんの手には空っぽの小瓶。  俺の手には、たっぷり詰まった大瓶。  いつも満たしていけばいい。  これからは、もう……空っぽには、ならないのだから。 「くまさーん。あのね、本当はパパが全部たべちゃったんだよ~ パパは食いしんぼうだよ」 「め、芽生」 「めっ、芽生くん」  宗吾さんとみーくんが同時に照れる。  どうして蜂蜜で赤くなる? 「ははっ、この蜂蜜は、芽生くんが管理しろ。お父さんに渡しちゃ駄目だぞ」 「うん! けいかくてきにたべるよ」 「難しい言葉を知っているんだな」 「えへへ、おばあちゃんのウリウリ~♫」 『芽生、『受け売り』だろう」 「そうだけど、ウリウリの方が、かわいいんだもん」  芽生くんが可愛いお尻を愉快そうに揺らしたので、吹いてしまった。 「ウリウリ? はははっ! 芽生くんはパパ似だな」 「え? いやだよぅ。お鼻の下がびよーんってなったら、いやだぁ。お兄ちゃんにがいいよう!」  笑いの渦。    こんなに笑ったのは、いつぶりか。  特に朝は、一番キライだった。    あの日、朝一番に大樹さんに電話してしまったから。 『大樹さん、おはようございます。俺、今日は暇を持て余してるんですよ。だから何か仕事を下さいませんか。職場に来て欲しいんです』    そんな自分勝手な用事で、一方的に呼びつけてしまった。  だから朝起きる度に、あの電話をする前に時を戻したいと後悔して泣いたさ。   「くまさんが、わらってる! うん! いっぱいにニコニコしているほうがいいよ! わらうかどには『くふっ』がくるんだよ」 「くふっ?」 「えっと……くふふって笑う神さまのことだったかな?」 「ああ、福のことか」 「そう、ふくさん」 「ははっ、君はものしりでたのしいな」  純粋な少年に、俺の心は更に癒やされる。 「そうだ、みーくんにこれ」 「何ですか」 「君の分だ。あの日の写真を焼き増ししたんだ。持っていってくれ」 「え……いいのですか」  きっと一時期は、思い出すのも辛かったろう。  幸せな家族の最期の団欒となった時間だから。  でも、今の君ならもう大丈夫そうだ。 「嬉しいです! 僕……とても嬉しいです」  みーくんがアルバムを抱きしめて、空を仰ぐ。 「お父さん、お母さん、夏樹……ありがとう! 僕にあの日の幸せな気持ちを返してくれて……」  不思議なことを言うのだなと思うと、同時に泣けた。  俺が奪い取った幸せが、戻って来たと言ってくれるのか。 「くまさんとの写真も欲しいですね」 「瑞樹、君のカメラで撮ったらどうだ?」 「宗吾さん、それ、ナイスアイデアですね。でももうフィルムが」 「ん? あと1枚あるぞ」 「本当ですか。あの……宗吾さん……僕、くまさんとツーショットを撮っても?」 「瑞樹、遠慮はいらない。俺は充分今は満ちている」 「も、もう――」  二人の会話の含みが、こそばゆいぞ。  しかし……これはまさかの展開だ。  大樹さんとのツーショットの写真は、みーくんに見せていなかった。 「くまさん、一緒に撮りましょう!」 「あぁ」 「もっと寄ってください」  カシャッ  みーくんの白い一眼レフは、澄子さんの瞳だった。  そのカメラを使って、写真を撮った。  あの日の再現のようだ。  夢のような時間は、覚めない。  隣に感じる温もりに感謝した。 「写真、送りますね。手紙も書くし、電話もします! また遊びにも来ます」 「俺も写真を送るよ。手紙も書こう。電話もしよう。東京に遊びにも行くよ」  自分から交流し、歩み寄っていく。  これが俺の新しい世界だ。 「気をつけて帰るんだぞ」 「はい! くまさん……」  みーくんが名残惜しそうな目で、俺を見る。  俺もきっと同じ目をしている。 「そんな顔すんな。宗吾さんと芽生くんと仲良く楽しく暮らしてくれ。笑って、笑って……顔をあげて」 「はい……はい、そうします。くまさんも、僕たちと仲良くしてくださいね」 「そうですよ。熊田さん、東京にも出てきて下さいよ。企画展なら俺も手伝いますから」 「くまさーん、またあそぼうね」  出会いと別れは表裏一体だった。  あの日、大樹さんが消えてしまったが、みーくんを残してくれた意味。  それを噛みしめる。 「あ……また雪が」 「瑞花だ」 「僕も同じことを思っていました」 「豊作の兆しのみでたい雪……みーくんとの再会とこれからの未来を暗示しているようだ。また会おう!」  **** 「瑞樹、シートベルトをしたか」 「はい」 「そろそろ帰ろう」 「宗吾さん、この旅行……とても意味がありましたね」 「あぁ、君にとって本当に大切なものに出会う旅になったな」  花びら雪舞う、北の故郷。  生まれ故郷には、もう思い出だけではない。  僕のお父さんのような人が住んでいる。  そこで生活をしている。  だから、また来よう。  行き来しよう。  生きているからこそ、出来ること。  それが交流だ。  人と人が心を重ね、幸せを分かち合う。  くまさんの幸せをは、僕の幸せ。  両親と弟を心から思慕してくれるくまさんとの出会いは、僕の心に響いた。 「宗吾さんが傍にずっといてくれたので、僕、パニックにならずに対処できました」 「そう言ってくれると嬉しいよ」 「宗吾さんと芽生くんが僕を幸せにしてくれるので、僕は揺らがないでいられえるのです」 「うれしいことを」  ブランケットの下で、ギュッと手を握り合う。  僕らは空を駆けて、僕らのホームに戻る。                 花びら雪舞う、北の故郷 了 あとがき(不要な方は飛ばしてください) **** 今日は久しぶりに、早い時間に更新出来ました。 現在娘二人が春休み中で、卒業と進学準備に追われているので、更新時間が遅くなることが多いです。 本日で、ようやく『花びら雪舞う、北の故郷』の段が終わりました。 瑞樹にとっても、深い意味がある旅となりましたね。 くまさんが東京に出てくる話も、いずれ書こうと思います。そして潤と菫さん、いっくんの話もBLからは脱しますが、書いてもよろしいですか。 次は芽生の春休み、そして進級に絡めて書いてみたいです。 瑞樹と宗吾さんの仕事シーンや、こもりん菅野カップル……まだまだいろいろ書きたいと思っていますので、この先も応援していただけたら嬉しいです。いつもリアクションをありがとうございます。 同人誌のお迎えもありがとうございます。 ホワイトデーに追加したダウンロード特典もぜひ一緒に読んでいただければ……瑞樹と芽生の関係性が変わっていないことを、噛みしめていただける内容になっています。                                                                                               

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