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憩いのダブルデート 5
「ドキドキしますね」
「そうだな」
ここまでは滝沢さんのお膳立てだったが、この先は俺の出番だ。
「管野くん、早く入りましょうよ」
「お、おう、そうだな」
部屋に入ると、こんなコンセプトのラブホテルが本当にあるなんて驚いた。
クッションはどら焼きと三色団子を模したものだし、布団にいたっては最中色で、シーツはあんこ色だった。これって密かに滝沢さんが準備してくれたのではと思うほど、こもりんが喜びそうな内装だった。
「わぁぁぁー!」
こもりんはまるで遊園地のジェットコースターに乗っている時のような歓声をあげていた。
はは、すごく喜んでいるな。
「すごい! すごいです!」
「美味しそうな部屋だな」
「そうだ! あのあの、そろそろ、アレ、食べましょうよ」
胸に大事そうに抱いていたあんみつを、頬を染めて見つめるこもりん。
「いいよ。せっかくだから食べさせてやるよ」
「あ、はい」
まずはリラックスさせないとな。
そのために甘味を持たせてくれたのだ。
「ほら、あーん」
「あーん♡」
「うはっ、可愛いな」
「そうでしょうか。僕は男ですが」
「男でも可愛くていいんだよ」
「あ……はい」
上目遣いに俺を見つめる表情も、本気で可愛らしかった。
「コホン、ところで、ここがどこだか分かるか」
「はい!」
真っ直ぐに手を上げて答える様子に、色気は皆無だった。
おかしいな。葉山に今日はたっぷり授けてもらったはずなのに。
「ここはですね……その、ラ……ブホテルですよね?」
お! よしよし、ちゃんと分かっていたのか。
「ここが何をする場所だか、分かるよな?」
「あ、はい……その好きな人と抱き合う場所ですよね」
「その通りだよ。風太、今日ここで君を抱いてもいいか」
「はっ、はい……えっと……でも……」
ここまで来たら、もう勢いで押し倒すしかないだろ! 俺も男だ! 潔く行かせてもらうぞ。
「風太‼」
「かんのくぅ……ん」
あずき色のシーツに細い身体を押し倒すと、風太は嬉しそうに手を横に伸ばしてシーツを撫で回した。
「あずき色で、美味しそうですねぇ」
「いやいや、こっちを見ろ、いいか、今日の風太は食べられる側だ」
「えっと、えっと……」
着ていたパーカーを脱がして、ズボンも脱がしていく。
もう止まらない。
風太を生まれたままの姿に剥いていく。
俺は明らかに風太に欲情していた。
風太の身体は、新雪のように清らかで無垢だった。
「裸になるなんて……恥ずかしいですよぅ」
「この先、もっと恥ずかしいことをするのに?」
「あのあの、じゃ、じゃあ……管野くんに僕、乗ります」
「え!」
いきなりそう来る?
あぁそうか、さっきの話をまだ引きずっていたのか。
股間を押さえながら俺に跨がろうとする足はカタカタと震えていた。
「風太、いいから、今日は俺に任せて」
あずき色のシーツにもう一度風太の身体を埋めて、ガバッと最中色の布団と一緒に覆い被さった。
「わぁ~ これが最中なんですね」
風太が感極まった表情で呟いた。
「ん? あぁ?」
「ふぅぅー 僕たち、ついに結ばれたんですね!」
「へ?」
おいおい、なんでそうなる?
まだ何もしていないぞ。全てはこれからだ。
一抹の不安が過る。
「あの、じゃあ今度はソフトクリームをしますか」
「ソフトクリーム??」
「これです」
「○△□~‼」
風太がためらいもせずに、いきなり俺の股間に顔を埋めたので、変な悲鳴を上げそうになった。
「実は今日、葉山さんから特別な色気を授かってしまいました♡」
赤い舌をちらつかせながら、こもりんが俺のパンツを脱がしてくるので、動揺する。超初心者マークのこもりんが、まさか、いきなりそれをしてくれるなんて。これは夢か幻か。あぁ、くぅぅ~ 気持ちいいなぁ。
「うわっ、よせっ!」
ペロペロ……
子猫に舐められているようで、くすぐったい。
「気持ちいいですか」
「風太にもやってやるよ」
「僕はもう合体したので、大丈夫です」
「さっきから……合体、合体って……まだ何もしてないぞ?」
「え? でも最中のように裸で抱き合ったじゃないですか」
「おいおい、あれはただハグしただけだぞ?」
こもりんがつぶらな目を大きく見開いていた。
どうやら本気で驚いているようだ。
「じゃあ合体って、他に一体何をするんですか」
嫌な予感はしていたが、この後に及んでそこ?
「こもりん、よく聞け! 男と男でも繋がれるんだ」
「……は、はい、繋がるとは……その一つになるであっていますか」
「そうだ。男同士では、ここを使うんだよ」
「え!!」
こもりんを抱きしめて、後ろの窄まりに指を這わずと、彼の身体がビクッと震えた。
「そ……そこに……何を?」
「俺のこれを挿れるんだ。もう、このままシテいいか」
「――〇△×□!!」
こもりんは真っ赤な顔をして、俯いてしまった。
「ご、ごめん。そんなに驚くとは……」
「知らなかったです。最中の次が……『お団子』だったなんて」
「団子ってなんだ?」
相変わらずこもりんの脳内は、甘味一色で出来ているようだ。
「僕……ついに串刺しの刑に遭うんですね」
「くっ、串刺し?」
こもりんはベッドに転がっていた三色団子のクッションをキュッと抱きしめて、俺を見上げた。ここは普通の男だったら即萎えるところだが、俺は長年あんこと戦い続けたお陰で妙な免疫がついていた。
つ・ま・り……あんこに勝ったと思ったら、新たな敵が現れたということだな。
「串刺しだなんて、物騒なこと言うな」
こもりんを怖がらせないように優しく諭すが、こもりんは首を横に振った。
「いえ、……僕、お団子の気持ちになってみたかったんです♡」
「えぇ?」
……前途多難。
俺の股間がこの台詞にどういう反応をするのか、自分でも分からない!
「菅野くん! どうぞ僕を串刺しにしてください」
「いや……いやいや……何だか言葉が変だぞ。色気……そうだ! 色気はどうした?」
「えへへ、それはそうですが、僕にはやっぱり色気より食い気の方が合ってませんか」
照れくさそうに笑うこもりん。
無邪気で可愛くて、ぐるっと回って、愛おしくなってしまった。
「こもりんの望み通りに抱くよ」
あんこ色のシーツ。
どら焼きと三色団子のクッション。
「こんな場所で結ばれるのなら、本望です」
キス、キス、キスで繋ぐ呼吸。
つぶらな胸の尖りを転がしながら、官能の海へ。
「甘い……甘い世界ですね。ここは……」
「風太、俺とひとつになろう」
「あ……んんっ、いいですよ。僕……かんのくんになら、食べられてもいいんです」
「くっ、煽るな」
「あ……んんっ」
もう言葉はいらなかった。
俺の愛撫に、こもりんは素直に身を委ね、過敏に反応してくれていた。
「きもち……いい……食べて、もっと……食べてください」
とろとろに入り口を解して……
それから……
俺たちは一つになっていく。
*****
「瑞樹、寝ちゃったのか」
「あ……」
プラネタリウムが終わったのに、一瞬気付かなかった。
居心地が良すぎて、うとうとしていたようだ。
「あ、あの……気持ち良くてつい」
「瑞樹の無防備な寝顔、可愛かったぞ。よほど寛げたんだな」
「はい、ありがとうございます」
「よし、じゃあそろそろ芽生を迎えに行くか」
「はい!」
正直、僕たちもホテルに入るのかと思ったが、宗吾さんが選んだのはプラネタリウムだった。
僕は宗吾さんのこういう所が、大好きだ。
「宗吾さん、僕……」
「どうした?」
「宗吾さんが本当に好きです」
「み……瑞樹、急にどうした?」
もう辺りは暗かったので、宗吾さんの手にそっと触れてみた。
「言葉に出して伝えたくなったんですよ。あまりに宗吾さんが素敵すぎて」
「よ、よせやい……照れる」
「……あのまま抱いても良かったのに、プラネタリウムだなんて反則です」
「それはさ、身も心も瑞樹を360度愛しているからだよ」
「も、もう――」
自ら聞いておきながら、妙に恥ずかしくなってしまった。
僕は、毎日毎日、宗吾さんから『愛』を惜しみなく受け取っている。
「管野たち、どうしたでしょうか」
「まぁ今頃、落ち着く所に落ち着いただろうな」
「だといいですね」
「またダブルデートしよう。今日は新鮮だったよ」
「僕もです。明るく楽しい時間でした」
「そうだ、芽生に土産でも買うか」
「いいですね」
有名なドーナッツショップの甘そうなドーナツを沢山買って帰った。
散々恋人同士の甘い時間を過ごし、最後は二人で芽生くんを想って帰路に就く。
こんな一日があってもいい。
僕と宗吾さんは家族であり、恋人でもあるのだから。
管野のお陰で、大切なことに気付かせてもらえたよ。
「宗吾さん、また僕とデートして下さい」
「それ、俺の台詞!」
「くすっ、宗吾さん大好きです」
「ふぅ、みーくんは最近素直になったな」
甘い、甘いダブルデートの余韻に揺られて、僕の心も軽くなっていた。
『憩いのダブルデート』 了
あとがき(不要な方はスルー)
****
ふぅ~ 道中どうなるか心配しました。
こもりんのパワーでハチャメチャな内容でしたが、5日間に渡りコメディタッチの物語にお付き合い、ありがとうございます。
こもりん、無事に菅野くんに串刺しにされました😂
私もこもりんの話しで息抜き出来たので、また明日から物語を展開させていきます。
目指すのは潤の結婚式ですが、その前に一度瑞樹が対面するかな。芽生の進級の話も書きたいし、いつもの滝沢ファミリーサイドに戻っていきます。
引き続きお楽しみいただけますように。
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