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にこにこ、にっこり 1

「ふぅ、芽生の好きな映画はドキドキしたわ」 「でもブルーレンジャー、かっこよかったでしょう?」 「そうねぇ、おばあちゃまは大人な雰囲気のブラックレンジャーに痺れたわ」 「しびれるって?」 映画のあと、おばあちゃんといっしょにシブヤを、おさんぽしたよ。 「そうねぇ、興奮してドキドキすることよ」 「あぁ、パパがおにいちゃんにしていること?」 「まぁ……宗吾は瑞樹くんに相変わらずなのね」 「そうなの。たまに『フオン』になるよ」 「ふふっ、今度おばあちゃまからもまた注意しておくわね」 「うん!」  あれ? なんだかいいにおいがするよ。    くんくん! くんくん! 「おばあちゃん、なんだか、とってもこんがり、おいしそうなにおいがするね」 「この先にアメリカのドーナッツ屋さんがあるそうよ。お腹が空いたの?」 「うん!」 「いらっしゃい」  おばあちゃんがボクの手をひいて、ドーナッツやさんの前につれてきてくれたよ。   白いおさとうのボウシをかぶったドーナッツは、とてもおいしそう。 「芽生、おやつに食べて行く?」 「あ、あのね、おみやげにしてもいい?」 「もちろんよ」 「あとね、パパとお兄ちゃんの分もいいかなぁ?」  ボクはせのびして、ドーナツがならぶガラスの中をみたよ。    お兄ちゃん、こういうかわいいモノ、好きそうだもん。   「芽生は優しいわね。パパと瑞樹くんと三人で仲良く暮らしているのね」 「うん!」  もちろんだよ!  お兄ちゃんが来てくれてから、パパはすごくイキイキしているし、おもしろいよ。  お兄ちゃんは、いつもやさしくて、きれいだしね。 「幸せそうな顔をしっちゃって」  おばあちゃんにほっぺたをツンツンされたよ。 「しあわせがつまってるんだよ。ボクのほっぺには」 「まぁ、芽生はいいことを言うわね」 「だってね、毎日ほんとうに楽しんだもん! きっとボクのほっぺが丸くなったのは 、しあわせがつまっているからだよ」 「芽生は、可愛いことを言うのね。皆の分を買っていきましょう。何個買おうかしら?  えっとね、ボクは頭のなかで数えたよ。  パパとおにいちゃん  けんごおじさんとみちおねーさん  ボクとおばあちゃん  あとは…… 「あーちゃんはたべられるかなぁ」 「彩芽ちゃんはまだかしらね」 「そうなんだね。あーちゃんはちいさいんだね。あとでいっぱいあそびたいなぁ」 「じゃあお夕食も食べていく?」 「パパとお兄ちゃん、おそくなってもむかえにきてくれるかな?」 「あたりまえでしょう」 「えへへ、うん! じゃあおばあちゃんちでゆうごはんもたべたいな。おばあちゃんダイスキだよ~」  おばあちゃんは、もの知りで、やさしいんだよ。  パパとお兄ちゃんを大切にしてくれるから、ダイスキ! ****  芽生を連れて帰宅すると、彩芽ちゃんを抱っこした美智さんが出迎えてくれた。 「お義母さん、お帰りなさい。芽生くん、こんばんは」 「こんばんは!」 「まぁいいお返事ね。お腹空いたでしょう」 「うん!」 「おやつにホットケーキを作ったのよ」 「え?」  まぁおやつが被ってしまったのね。困ったわ…… 「私達もおやつを……渋谷でドーナッツを買ってきたのよ」 「え、そうだったんですか。ごめんなさい」  私達の会話を聞いていた芽生が首を傾げる。 「謝ることじゃないわ……でも、おやつだらけね」 「ボク、ドーナッツもホットケーキもだいすき! いっぱい食べられるなんて、うれしいな」 「まぁ、そうね、そうよね!」  そうね! 多い分にはいいのね!  うれしい思いやりが、ただ被っただけ。  駄目ね、大人って……ついマイナス思考で考えてしまうわ。  芽生を見習いたいわ。 「あーちゃん。芽生だよ~ 覚えている?」 「めぇーめぇー」 「わ! あーちゃんがヒツジさんになっちゃった!」 「ふふ、芽生くんと呼んでいるのよ」 「え? うれしいなぁ」  そこから芽生はあーちゃんにつきっきりで遊んでいたわ。  積み木に、絵本の読み聞かせ。  あらあら、もう小さなお兄ちゃんなのね。  赤ちゃんだった芽生がもう――  ホットケーキのおやつの後は、夕食。  芽生も作り置きしておいたカレーライスを美味しそうに頬張っていたわ。  そしてお待ちかねのパパと瑞樹くんのお迎え。 「芽生、お迎えにきたぞ」 「パパ~ お兄ちゃん」  芽生はたたっと廊下を走って、瑞樹くんに抱きついた。  瑞樹くんが、芽生にとって無条件に甘えられる存在になっている様子に、頬が自然と緩むわ。  あなたたちは、お互いに求め合っている関係なのね。 「ただいま、芽生くん」 「お兄ちゃん。楽しかった?」 「今度は芽生くんも一緒に行こう! 今日はお土産を買って来たよ」  あら? あらあら……?   お店のパッケージにはよく見覚えがあったわ。 「あれぇ、おなじマークだよ」 「え?」 「ちょっとまってね。ボクからもね、おみやげがあるんだよ」    食後のデザートに食べようと取っておいたドーナッツの箱を、芽生が嬉しそうに見せたの。 「わ、もしかして……同じお店の?」 「参ったな、お土産が被っちゃったのか」  二人が少し残念そうな顔をすると、芽生がすかさず二人の手を繋いで輪を作った。 「うれしいね。ドーナッツがどんどんふえて、まほうみたいだね。だいすきがいっぱいだねぇ」 「芽生くん、そんな風に考えるのは、とても素敵だね」 「芽生、いいこというな。いいことが重なると、縁起がいいんだぞ」 「えへへ」  なんて平和で幸せな光景なのかしら。  小さい子供は、本当に無邪気な天使!  暖かい光景を見せてもらい、私の胸の奥も優しさで満ちていく。  その様子を見ていた憲吾夫婦も、にこにこの連鎖ね。 「母さん、宗吾たちは、もう安心して見ていられますね」 「本当に仲良し親子ね」 「あーコホン、美智、私達もそうなりたいな」 「憲吾さんってば、はい、よろしくね」 「ぱー、ぱぁ」    息子たちが巣立ってから、お父さんと二人の時間ももちろん穏やかで楽しかったですよ。  ねぇ、今の私……どう?   とっても幸せなおばあちゃまだと思わない?  仏壇の前に飾ってある写真と目が合った気がしたので、思わずウィンクしちゃったわ。 「さぁドーナッツを皆で食べましょう! ドーナッツの輪って、縁起がいいのよ」    私のドーナッツは、あなたと半分こ。

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