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賑やかな日々 20
ママとおしゃべりしていると、お店の人に声をかけられたよ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか」
「えっと……このカーネーションを一本ください!」
「はい、畏まりました。ラッピングしますか」
ラッピング? えっと……リボンをつけることかな?
「これ、ママに……ボクのママにあげるんです!」
ママをチラッとみると、ニコってしてくれた。
うれしそうなお顔、よかったぁ。
ひとりでおかいもするのって、ドキドキするね。
これはね、今日ママにあうって聞いて、どうしてもしたかったことだよ。
お兄ちゃんが、ボクにこっそり教えてくれたんだ。
もうすぐお母さんにカーネーションをおくる日だよって。
「じゃあラッピング料金を含めて300円です」
「……1・2・3……まい、これでいいのかなぁ」
「はい、大丈夫です。それにしてもお母さん、優しい息子さんですね」
「はい! 大切な息子なので、とっても嬉しいです」
わぁ! やった! やった!
ママ、うれしそうだ!
ボクもポカポカだよ~
お兄ちゃんが言ってくれた通りだったよ。
お花は人をニコニコにするって、本当だね!
「私はスズランのブーケを作って下さい」
「畏まりました」
ボクとママは、お花を持って、また手をつないだよ。
この手はね、いつもつないでももらえるものじゃないんだよ。
ママは、ボクのママだけど、少しみんなとは、ちがうんだよ。
でもね、ボクはだいじょうぶ。
こうやってあえるし、わらってくれるし、お兄ちゃんとパパがボクを大事に大事にしてくれるからね。
「ママ、いつもニコニコがいいよ」
いっしょにくらしていたときは、ママあんまり笑ってなかったし、おけしょうのにおいが、いっぱいしたよ。
「芽生……芽生……そうするね」
ママがびよういんの前で、しゃがんでボクを抱きしめてくれた。
ほっぺたをくっつけてくれた。
ママからはやさしいお花のにおいがしたよ。
「ママもいいにおいだね。お兄ちゃんといっしょでお花のにおいがするね」
「スズランのお陰よ」
****
芽生に思わず頬ずりしちゃったわ。
可愛いほっぺが懐かしくて。
どんどん成長していくのよね。
たまにしか会えないけれども、芽生の幸せを祈っているわ。
さぁ、そろそろお互いの場所に戻ろうね。
私達は今を生きているのだから、今を大切にしないとね。
「ただいま!」
美容院の扉を開けると、何故か瑞樹クンがお腹を抱えて笑っていた。
彼の底抜けに明るい笑い声は初めてなので、驚いたわ。
どういうこと?
個室を指さして、涙ぐんでいるわ。
経くんも熊田さんも大笑い。
「瑞樹クン、一体どうしたの?」
「あ……玲子さんは……見ない方がいいかもしれません」
「何、何?」
個室を覗くと、腰に手をあてて自撮りしているモヒカン頭の男がいた。
な、何者!?
「おぉ、玲子、帰ったのか。どーだ?」
「宗吾さん!?」
「これ、結構似合うと思わないか」
クールでかっこつけていた、あなたはどこに?
「くすっ、あはっ、くすくす」
私も可笑しくなって抱腹してしまったわ。
芽生も見て、大笑い。
笑いの渦に包まれていく。
「玲子のそんな笑顔、初めて見たよ」
「宗吾さんこそ。それ……カツラよね?」
「当たり前だ。本当にしたら瑞樹が泣く」
「経くんがやっちゃったかと思った」
「いっそ、リアルでしようか」
少し前まではこんな風に、笑い合える関係ではなかった。
心が解れたからなのよね。
「あ……そうだ、瑞樹クン、これお土産よ」
「え……僕に」
うん、やっぱり瑞樹クンにはスズランが似合うわね。
可憐な君に、芽生を託すわ。
「芽生のこと、これからもよろしくお願いします。それから瑞樹くん、お誕生日おめでとう!」
「玲子さん……ありがとうございます。任せていただけるの、嬉しいです」
「あなただから……瑞樹クンでよかった。何度でも言うわ」
瑞樹クンが頬を染めて涙ぐむ。
「さーてと、そろそろ帰るか」
「あ……宗吾さん、それは取って下さいよ」
「パパ、おさむらいさんみたいだね。ボクの刀かしてあげようか」
芽生にプレゼントを渡して、五月の面会はお開きとなった。
****
芽生くんがもらってきた包みを開くと、色とりどりの靴下が入っていた。
今年はグリーン系のグラデーションを描いていて、素敵だ。
「おっ、また靴下か。最近玲子からのプレゼントは靴下ばかりだな~」
僕には玲子さんの心遣いが、伝わってきた。
子供の足の成長は早いし、泥んこになって消耗も早い。
靴下は正直、何足あっても困らない。
それに足の大きさで成長を感じられるから、玲子さんにとって芽生くんの成長を見守るアイテムなのだろう。
あ……そうか、函館の母が何かにつけて新しいパンツを送ってくれるのと、同じなのかな?
「お? 瑞樹、この宅配便は函館のお母さんからだったよ」
靴下を手に取って眺めていると、宅配ボックスから取ってきた箱を手渡された。
芽生くんは、いつの間にか、くまさんと遊びだしていた。
「きっと中には芽生くんへのプレゼントも入っていますよ」
「またパンツかな」
「はい、きっとパンツでしょうね」
「じゃあ瑞樹のも入っているぞ。瑞樹も数がいるもんな」
宗吾さんが腕組みをしてニヤニヤしている。
ん? 嫌な予感だな。
「あの……僕はもう成長しませんよ?」
「いやいや消耗はするだろう」
「ちょっ! 何を言って」
ううう、まずいな。いつものパターンだ。
「宗吾さんが……いつも僕のパンツを脱がして隠すから……だから消耗ではなく紛失です!」
「ははは、怖いな」
「パンツの怨みは、怖いですよ」(そんな怨みでいいの?)
嫌な予感がして寝室のベッドの下を覗くと、灰色の綿埃が飛び込んできた。
ううう、視界悪い。
「うわっ、またこんなにして。どうして、ここは僕に掃除をさせないんですか」
「それは俺の聖地だからさ~」
相変わらず、悪びれない宗吾さん。
困った人だけれど、楽しくって明るくって大好きだ。(僕はますます宗吾さんに甘くなってきている)
くまさんと遊んでいた芽生くんが、僕たちの大人げない会話を聞いて、笑っていた。もちろんくまさんも大笑い。
は……恥ずかしい!
「お兄ちゃんもパパも落ちついて~ どうどう」
「芽生くん、僕は違うから!」
「ううん、お兄ちゃんもさいきん、あぶないよぅ」
「みーくん、そうなのか!」
「だ……だから、違いますって~!」
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