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誓いの言葉 34
「めーくん!」
「いっくん!」
ボクは、いっくんが大好きなんだ!
だからまた会えてすごくうれしいよ。
あーちゃんもゆみちゃんもまだ赤ちゃんだから、まだいっしょにかけっこしたり、お絵かきしたりできないけど、いっくんはもう3さいだから、いろんなあそびができるんだよ。
それにボクと同じ、男の子なのもうれしいんだ!
「めーくん、あのね、あのね」
いっくんが大きな目をキラキラさせている。
「なぁに?」
「あのね、めーくん、いっくんのおにいちゃんになってくれる?」
「わぁ! もちろんだよ。ボク、いっくんみたいなおとうとが、ほしかったんだ」
「わぁぁ……いっくんも、めーくんみたいなおにいちゃん、ほしかったぁ」
いっくんがボクにギュッとくっついた。
「えへへ♡」
「えへへ♡」
いっくんのスベスベほっぺ、かわいいな。
「あらあら、いっくん、コアラさんみたいね」
「ママぁ、いっくんね、おにいちゃんもできたんだよ」
「よかったわね。芽生くん、おはよう! 私のこと覚えているかしら?」
「はい! いっくんのママ……それと……ジュンくんのおよめさん!」
「え? わ……わぁ、そうよ」
「えへへ、えっと……今日はおめでとうございましゅっ」
あーまただ、ドキドキすると舌かんじゃう!
「うふっ、どうもありがとう」
いっくんのママって、やさしそうだな。
ボクのお兄ちゃんと同じ位、やさしそうだな。
あ、潤くんだ。いっくんママがうれしそうに手をふっているよ。
「潤くん、おはよう! もう作業は終わったの?」
「あぁオレの役目はな。あとは兄さんたちに任せるよ」
「そうなのね。あ。あのね……潤くん、今日はよろしくね」
「菫さん、こちらこそ。今日からオレの嫁さんになってくれるんだな」
「うん、今、芽生くんにもそう言ってもらえって、感激しちゃった」
「芽生坊が?」
潤くんが、ボクの前にしゃがみこんで、髪をなでてくれたよ。
「やっぱり芽生坊はやさしいな。さすが兄さんの子だな。優しい所が似ているよな」
「うん!」
ボクはね、お兄ちゃんににているって言われるのが大好きだよ。
ポカポカするよ。
「パパぁ、あのね、めーくん、いっくんのおにいちゃんになってくれるって」
「そうか! よかったなぁ」
「うん! めーくん、やさしいから、だーいすき」
わぁ~ いっくんにまで、ほめられちゃった!
「芽生坊、兄さんのところに行きたいか」
「えっ、いいの?」
「ずっと、いい子に待ってたもんな。そろそろ会いたいんじゃないか」
「あいたい!」
「ははっ、おいで。連れていってやるよ」
「うん!」
「いっくん、すぐ戻って来るからな。いい子に待っていてくれるか」
「はぁい!」
ジュンくん、ボクがお兄ちゃんに会いたいっておもっていたのに気付いてくれて、うれしかった。
「ジュンくん、ありがとう」
「芽生坊、おいで。ワープしよう」
「うん」
僕を抱っこしてくれて、ありがとう。
「ここだぞ、待て待て。ノックしよう」
「のっく?」
「入ってもいいですかって聞くんだよ」
「わかった」
トントン――
****
「瑞樹、さっきの話だがなぁ、母さんや兄さんが聞いたら、ちょっと悲しむぞ」
「あ……すみません」
僕の悪い癖が出てしまった。またやってしまった。どうしてこんなにも幸せな日々なのに、宗吾さんのご家族から大切にしてもらっているのに……まだ自分を卑下してしまうのか。こんな僕では、いつか宗吾さんに愛想を尽かされてしまいそうだ。急に不安になり、作業していた手がぴたりと止まってしまった。
「おい、瑞樹、謝るな」
「ですが……」
「なっ、こうしよう。これから変わっていこう! 少し意識してさ!」
「……はい!」
「俺がいる! どんな時でも、君の傍には絶対に俺がいる。だからもう怖がらなくていい。一歩下がらなくていい。瑞樹はなぁ……もっともっと欲張っていいんだ。人生を欲していいんだよ」
宗吾さんが、僕を抱きしめてくれる。
宗吾さんの腕の中は心地良くて居心地がいい。
「宗吾さん……元気が出ます。いつも僕の元気の源なんです。宗吾さんと芽生くんと絶対に離れたくないです」
「そうそう、その調子だ。しっかり、しがみついていてくれよ」
僕は宗吾さんの背中に手を回して、背伸びした。
「宗吾さんが大好きです」
「瑞樹……愛してるよ」
目を閉じると、宗吾さんもその意図を察してくれて、僕に甘やかな囁きと、あたたかいキスをくれた。
トントン、トントン。
求め合うキスを重ねていると、可愛く扉をノックする音で、ハッと我に返った。
「あ……誰だろう? 出ますね」
「あぁ」
宗吾さんがそっと指で唇を拭ってくれる。
「あ、芽生くん! 潤も」
「ええっと、あのぅ~ おじゃまでしたか」
「え?」
「ははっ、芽生坊、お邪魔しますだよ」
「くすっ、お邪魔だなんて……芽生くんを待っていたよ。お兄ちゃんのお手伝いをしてくれるかな?」
「ボクにできることがあるの?」
「うん!」
ちらりと机の上の白薔薇を確認した。潤が薔薇の棘と葉を綺麗に取ってくれたので、これなら手伝ってもらえそうだ。
「このお花をお兄ちゃんに1本ずつ渡してくれるかな? この部分を持つんだよ。念のため、軍手をしようね」
「わかった!」
お母さんのブーケは、野原から摘んで来たばかりの花をふわりと束ねたような、ナチュラルなスタイルにしたかった。
そのようなラフな雰囲気が魅力のブーケは業界では『クラッチブーケ』と呼ばれている。茎はあえて揃えずに、切りっぱなしで長めに残すのが特徴だ。
「お兄ちゃん、はい、どうぞ」
「ありがとう」
芽生くんに渡してもらった白薔薇を、手早く感覚でざっくりと束ねていく。
「兄さん、すごく……いいな。摘み立ての花そのものだ」
「潤、よく見ていて。これは僕らの夢への第一歩だよ。潤が育てた花を僕がアレンジして、広樹兄さんが売る……まぁ今日の場合は、兄さんは手渡すんだけど」
「本当に……オレたちの母さんに贈るんだな。これを」
「そうだよ。あとはブートニアを広樹兄さんに作ってもらうだけだよ」
時計の針を見ると、到着予定時間より30分ほど経過していた。
「……まだ着いてないんだな」
「瑞樹、飛行機の到着が遅くなって、予定していた新幹線に乗れなかったそうだよ」
「あ……そうなんですね」
すぐに宗吾さんが理由を教えてくれたので、安堵した。
そうこうしているうちに、豪快にバーンっと扉が開いた。
「瑞樹、潤、待たせたな!」
「広樹兄さん!」
噂をすれば、広樹兄さんの登場だ。
「お母さんもくまさんも……みっちゃんも優美ちゃんも無事に?」
「あぁ、今、皆で菫さんと挨拶しているよ」
「良かった
これで勢揃いだ。
一人も欠けることなく集まった。
それが嬉しくて、兄さんの元に駆け寄ってしまった。
「兄さん! よかった」
「おー 瑞樹。この前は会えなくて残念だったよ。やっと会えたな。ん? 今日はえらく可愛いつなぎを着てるんだなぁ」
兄さんの目尻が下がるのが好きだ。
兄さんの髭がいつも通り擽ったいのにも安堵する。
「兄さん! 待っていたよ」
「よーし、早速作るぞ。このブーケに会わせたブートニアだな」
兄さんが腕まくりして、すぐに取りかかってくれる。
何もかも上手くいっている。
怖いくらいに……
「瑞樹、怖がるなよ。幸せに向かって皆、まっしぐらなだけだ」
「はい……」
宗吾さんがいてくれる。
ついマイナス思考に陥ってしまう僕だけど、支えてもらうことでバランスを崩さないでいられる。
「兄さん、潤、宗吾さん、芽生くん……今日はよろしくお願いします」
僕の考えたサプライズは、もう間もなく決行だ。
「サプライズが成功しますように!」
僕が手を差し出すと、皆、手を重ねてくれた。
「よーし! 頑張るぞ~!」
宗吾さんが盛り上げてくれる。士気を高めてくれる!
力強い援護射撃を受けて、僕も前進していく。
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