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光の庭にて 4

宅配便の箱にはアルバムだけでなく、色々入っていた。 「わぁ!」  あぁ……これは僕のお父さんとお母さんからの共同の愛情便だ。  宗吾さんが嬉しそうに取り出したのは、黄金色の蜂蜜だ。 「お? やった! ハチミツ! しかも小瓶は助かるよな~」 「森のくまさん印のハチミツは、味が濃くて美味しいですよね」 「使い切りサイズなんて気が利くな」 「えぇ……と?」  宗吾さんがニヤッと笑うので、僕はなんだか急に……胸の尖りが切なくなってしまった。もう宗吾さんがいつも夜に……あんなことばかりするからだ。  芽生くんもいるのに僕は何を考えて! カッと頬が火照ったので手で扇いで、クールダウンした。 「くくっ、瑞樹はいちいち可愛い反応だよな」 「あー! 見てみて! おばあちゃんがまたパンツをいれてくれているよ」 「お……お母さんってば」  芽生くんが白いパンツを抱えて笑っている。  蜂蜜の次はパンツだなんて……くまさん、どう思ったかな?  でも、ちゃんと宗吾さんと芽生くんの分も入れてくれている。恥ずかしいけれど、こういう気遣いが嬉しい。僕が一緒が大好きなこと……お母さんは気付いてくれているんだ。 「ほぅほぅ。これで下着は当分買わなくてもいいな」 「……あの……でも宗吾さんのが一番少なくなっていますよ」 「そうかぁ?」 「先週も1枚消えたし……さてはベッドの下にまた!」 「ドキッ!」 「くすっ」  よしっ今週末の予定に、ベッドの下の大掃除を加えよう!  最後に厳重に梱包材で包まれた大きなアルバムを取り出した。 「わぁ……すごい」  久しぶりにこんなにちゃんとしたアルバムを見た。  真っ白なアルバムは、ズシッと重たかった。  「一緒に見よう」 「はい。先月のことなのに、もう懐かしい気分ですね」  僕の両脇に宗吾さんと芽生くんが座って、アルバムを覗いた。 「あ……僕だ……」  いきなりお父さんのつなぎを着て、ブーケを作っているシーンから始まった。  僕は、いつもこんな表情で仕事をしているのか。自分の横顔はお母さんにもお父さんにも似ている気がして、不思議な心地だった。  最初はモノクロで仕上げられており、頁を捲る度にブーケーが完成していき、同時に写真も色づいていく仕掛けになっていた。 「すごいな。こんなアルバム見たことがないよ。まるで写真集のようだな」 「くまさんの本領発揮ですね」 「これはぜひ仕事もご一緒したいな」 「宗吾さんにそう言ってもらえるのって、嬉しいです」 「瑞樹のお父さんはすごいな」  宗吾さんにポンポンと肩を叩かれると、心がポカポカと弾んだ。  くすぐったいな。お父さんのこと褒めてもらえるの嬉しい。   「うわぁ~ ボクのおじいちゃんはすごいんだね」 「うん」  芽生くんも褒めてくれるんだね。ありがとう。  次の頁では親族控え室に集まっていくゲスト一人一人に、スポットライトを当ててくれていた。 「お母さん……広樹兄さん、みっちゃん……優美ちゃん……そして菫さんのご両親」  皆、青空のように晴れやかな笑顔だ  僕の大切な家族に、このアルバムを開けば、いつでも会えるんだね。まるで花束をもらったような心地で、アルバムごと抱きしめてしまった。 「瑞樹、独り占めしてないで、俺たちにも見せてくれよ」 「あぁ、すみません」 「あ、ボクだー! パパもお兄ちゃんもいるよ」  礼服を着た僕たちが並んでいる。  家族の写真だ、これは僕の家族だ―― 「芽生くん、カッコイイね」 「えへへ」 「瑞樹、俺は? 俺はどうだった?」  宗吾さんが前のめりになっている。 「宗吾さんの式服、桜色のタイもベストも粋でした。かっこいいです」 「サンキュ! 瑞樹に褒められると、いい気分になるなぁ」 「あの……僕はどうでした?」  いつもなら聞かないことを、また聞いてしまった。 「あ……やっぱりいいです。何でもないです」 「お兄ちゃんもカッコよかったよ」 「瑞樹もカッコよかったぞ」  親子の声がぴたりとそろう! 二人が似た者親子なのが嬉しくて溜まらない。 「嬉しいです」  その次の頁からは、暫くカメラマン交代だ。  その先のサプライズの結婚式は、僕が写真を撮ったから。  薔薇の花を1本1本集めるくまさん。  それをお母さんに手渡すくまさん。  お母さんから返事を貰うくまさん。  男泣きをするくまさん。  手作りのベールを被るお母さん。  誓いのキス。  あの日の感動が胸に蘇り、涙がうっすら滲んでしまった。 「幸せそうです。くまさんも……お母さんも……」 「サプライズは大成功だったな。瑞樹の発案が冴えていた」 「宗吾さんの用意して下さったスーパークリングワインも、風船も、最高でした」 「瑞樹」 「宗吾さん」  導かれるように手と手を重ね合うと、芽生くんもその上に重ねてくれた。 「あちちさんたちとボクは『チームたきざわ』だもんね。大せいこうだったね」 「ははっ。だな」 「そうだね!」  その後は、潤と菫さんといっくんの結婚式の写真のオンパレード!弾けるスパークリングの泡も、空に飛び立つ風船の光も、一瞬一瞬が写真として鮮明に 残されていた。 「あぁ……すごいアルバムです。これは……」    アルバムをもう一度胸に抱えると、くまさんの真心が伝わってきた。 「お兄ちゃん、またいっくんにあいたいなぁ」 「そうだね。芽生くんにとって弟だもんね」 「夏休みが来たらあいたいなぁ」 「伝えておくね」  芽生くんが満足そうな笑顔を浮かべて、両手を天井に伸ばした。  わぁ……大きな欠伸をしている。 「偉かったね。さぁ、もう寝ないと」 「うん……あ、明日のじかんわりしないと」 「頑張って! お兄ちゃん、応援しているよ」 「うん! よーし、お兄ちゃんが見ていてくれたらがんばれるから、そこにいてね」  芽生くんが僕の手を握って、子供部屋へと引っ張っていく。 「うんうん」  子供って誰かに見てもらえると、頑張れるんだよね。  芽生くんの親しみやすさや人懐っこさに、僕がどんなに救われたか。思えば、最初に声をかけてくれたのも芽生くんだったな。 「えっと、さんすうと国語と……たいいくと……あ、ずこうもあるよ」 「芽生くんが好きな授業ばかりだね」 「うん! ボク、がんばるよ」 「さぁ寝ようね」 「お兄ちゃん……ボク、今日ね……がんばったの、だから……だめ?」    芽生くんが、僕をじっと見上げてくる。どうやら今日は一緒にいたい気分のようだ。 「いいよ、でも、お兄ちゃん、今日はお風呂にまだ入っていないんだ。だから眠るまでになるけど、いいかな?」 「それでもいい!」  ネクタイを外して襟元を緩めて、ベッドで添い寝してあげると、うれしそうに くっついてくれた。 「くんくん、あー やっぱり、お花のにおいがするよ~」 「そうかな?」 「お兄ちゃん、やさしくって、だーいすき」 「ありがとう、芽生くん、僕も大好きだよ」  甘えているのは僕の方かもしれない。僕のお母さんもこうやってたまに僕と眠ってくれたんだよ。そんな甘い思い出を思い出せるのも、芽生くんのおかげだ。  芽生くんの寝息が、すぐに聞こえてきた。  ぐっすり眠ったのを確かめてから、そっと抜け出して居間に戻ると、宗吾さんがPCに向かって考え事をしていた。 「宗吾さん? 何をしているんですか」 「あぁ瑞樹、風呂に入ってこいよ」 「あ、そうですね。あの……まだ起きています?」 「当たり前だろ」 「よかった」 「瑞樹は、いちいち可愛いよな、言動が」 「そ、そうですか」  宗吾さんが立ち上がって、すっぽりと抱きしめてくれる。   僕も彼の腕に手を重ねて、体重を預けるようにもたれた。 「宗吾さんが愛おしいです」  潤の結婚式のアルバムを見たせいか、あの日の感動と初心……初夜のように抱かれた夜を思い出してしまった。 「どうした?」 「宗吾さんに、こうやって触れてもらえることが……嬉しいんです」 「やっぱり君は可愛いよ。毎日可愛さが進化して、メロメロだよ」 「大好きです。あの……お風呂……入ってきますね」 「うーむ、残念だ。明日が平日じゃなかったら、一緒に入るのにな」 「あ、あの……僕は……週末の楽しみが出来ました」 「えっ、いいのか」 「はい……」  今までは……照れ臭くて言えなかったことも多かった。  でもこれからは、もっともっと素直に伝えていきたい。  あなたに近づくために。  宗吾さんと歩み寄る恋をするために。 

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