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HAPPY SUMMER CAMP!㉗

いっくんの着替えに、どうして僕たちまで必要なのか。ピンと来なくて首を傾げてしまった。 「瑞樹、浴衣を脱ぐの名残惜しいな」  あぁそうか、もう浴衣を脱ぐ時間なのか。だから呼ばれたんだ。    この浴衣は、きっと翠さんと流さんの思い出の品だ。大事な品を汚したりしなかったか心配だな。  そんなことを考えながらテントに入ると、流さんがニヤッと笑った。 「君たちは、浴衣でヤルのは初めてか」 「へっ?」 (一瞬何を聞かれたのか分からずキョトンとしてしまった) 「あぁ浴衣でヤルのはな」(ええっ‼)  宗吾さんがニヤッと笑ったので、僕は真っ青になって叫んでいた。   「や……っ、やるー⁈ む、無理です……テントは声も何もかも筒抜けです!」    そして、その後ハッと我に返った。 「くくくっ、随分素っ頓狂な声を出すんだな。みーずき、君はまたヘンなこと考えて」 「あっ!」 「あううう……ヤルって、ヤルって……もしかして」 「彼シャツならぬ、彼浴衣をやってみるかってことさ」(そこー?) 「あっ……あぁぁ……もうっ」 「ははは、そうか瑞樹くんは案外スケベなんだなぁ、むっつり……」  す、スケベー!?  生まれて初めてだ! そんなこと言われたの! 「も、もう……二人して僕を揶揄っていますね」    僕は脱力してへなへなと座り込んでしまった。するとお尻にいっくんが持っていた、ブルーレンジャーの手が刺さってまた悲鳴をあげてしまった。 「わぁ~!」 「みーずき、どうどう……少し落ち着けって」 「は、はい……」  恥ずかしくて真っ赤になって顔を覆っていると、となりでいっくんが必死に洋服を脱いでいた。 「よいしょっ、よいしょっ」    そのたどたどしい仕草に出逢って間もない頃の芽生くんを思い出し、キュンとした。 「おー、上手だ。まずはいっくんから着付けような。その間に二人とも浴衣脱いでくれ」 「りょーかい!」 「は、はい」    宗吾さんが豪華にバサッと浴衣を脱ぎ捨て、僕の腰紐に手をかけた。まるで身包みを剥がされるように浴衣を脱がされていく。  あ……宗吾さんの手がさり気なく僕の腰を撫でて……あぁ……まずい。そこはまずい! 「瑞樹、浴衣の紐っていいよな」 「……し、知りません」 「ケチだな~」  まずはいっくん。その後、僕と宗吾さんの浴衣をチェンジして、お着替えは完成だ。  宗吾さんが着ていた浴衣は、まだ彼の温もりを感じ、ドキドキした。 「どうだ? 浴衣の交換は?」 「最高だ! 全身を瑞樹に包まれているようだ」 「だろっ!」 「でもこれって翠さんの大事な浴衣だろ? 瑞樹はともかく……俺が着るのはまずいんじゃ? 流は寛大だな」 「あぁ、これは直接は着てないから。安心しろ、むしろ悪いな」 「へ?」  なんだかゾクゾクしてくる……まさか……妄想の塊に袖を通してしまったのか! 「いっくんは? いっくんはどうかな?」  袖をグイグイ引っ張られたので見下ろすと、浴衣姿のいっくんが満面の笑みを浮かべていた。 「いっくん、すごく……」(えっと……かっこいいと可愛い……どっちがいいのかな?) 「かっこいい?」  あどけない顔で小首を傾げて聞いてくるので思わず、うんうんって頷いた。 「かっこいいよ」 「パパみたいに?」 「そうだね。パパみたいだ」 「よかったぁ~ いっくんとパパって、にてる? めーくんとパパみたいに」  いっくんのいじらしい言葉に、少し切なくも愛おしくなった。 「いっくんはね、パパとママのいいとことを沢山もらった子だよ。だから、もっと甘えていいんだよ。今までの分もね」 「みーくん、みーくん、それほんと?」 「そうだよ」 「うれちい……」  いっくんを抱っこしてBBQサイドに戻ると、甘い香りが漂っていた。  菅野がマシュマロを焼いて、それに小森くんが一心不乱にあんこを塗っている。  丈と洋くんは見つめ合って、ふわりと指先を絡ませて語らっていた。  薙くんと芽生くんが楽しそうに話しているのもいい。  そして全てを見渡すように包み込むように、翠さんが穏やかな視線を向けていた。 「いっくん、着替えたのか」 「パパぁ~」 「浴衣姿のいっくんは初めて見るよ。かっこいいな」 「わぁ、かっこいいでしゅか」 「いっくんが着ると、くまのポーが凜々しく見えるぞ」  潤ってば、もうすっかり父親の顔をして! もう本当に大丈夫なんだね。この先二人の間に赤ちゃんがやってきても、いっくんと潤の親子関係は絶対に揺らがないと確信した。 ****  BBQの片付けが終わると、もう夜も更けていた。 「そろそろ寝よう。いいか、独断と偏見で俺がテント割りをするぞ」  最後は流さんが仕切ってくれるようだ。宗吾さんは朝からリーダーシップを取ってきたので、流石にお疲れだ。(僕の浴衣がダメにしたのかも?)だからこんな風に後を任せられる友人がいるのは助かるな。 「一番左は丈と洋くんな」 「いいですね。兄さん感謝しますよ」  もう出来上がっている二人は、そのままテントに消えて行った。 「あいつら羽目を外しそうで怖いよな。ということで、グースカ寝そうな菅野くんと小森がその隣だ」 「菅野くん、あの可愛いテントですよ! 僕たち、今日はテントに泊まるんですね!」 「あぁ、こもりんと初テントだ」 「ラブラブしましょーね。ふわぁぁねむたいですが」  明るく爽やかな二人は、きっと横になった途端、眠ってしまうだろう。 「その横が宗吾さんと瑞樹くん、いっくんと芽生坊だ」 「いいんですか、一番広いところを」 「あぁ人数では一番多いからな。俺たちはその横にするよ」    テントは一夜限りの仮の家だが、僕には大切な場所だ。  僕たちのテントには天窓がついていて、寝ながら夜空を眺められる仕掛けになっていた。 「月も星も、見えますね」 「星降る夜だな」  今……見上げる夜空には、僕の大切な人たちが静かに眠っている。     彼等と僕を阻むものは、今日はこの薄いテントだけ。  だから、いつもより身近に感じられるのが嬉しくて。  今日は月光を浴びながら、この夜を越えよう!  サマーキャンプの楽しい思い出を詰めた気球で、夜空を旅する夢を見たいんだ。  この幸せ……満ち足りた幸せは、僕の心を膨らますのに充分だ。    

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