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ひと月、離れて(with ポケットこもりん)17

宗吾さんと芽生くんが再び家に戻ってから、一週間が過ぎていた。 この一週間は宗吾さんと芽生くんも、僕も落ち着いていた。 『心のお守り』が、存分に力を発揮してくれたようだ。  それにしても忙しい一週間だったな。    パビリオンは連日盛況で大勢の来場者に恵まれ、加々美花壇のブースも常に混雑していた。そんな中、僕と菅野は朝から晩まで裏方作業を明け暮れた。 「はぁ~ 瑞樹ちゃん、連日外は辛いな」 「うん、今日は真夏日だしね」 「また土が乾いているな」 「急いで補給しよう」  長袖長ズボンの作業服で休む間もなく働いていると、汗と一緒に疲労感が滲んでくるようだ。身体の熱はなかなか冷めてくれない。 「菅野、ゲートの薔薇アーチ、やっぱり心配だな」 「俺もそう思っていたんだ」  薔薇が上手く付かない部分があって、どんなに手をかけても駄目だった。  この前みたいにアーチから薔薇がドサッと外れてしまう前に、一度作り直した方がいい。 「思い切って、相談してみようか」 「そうだな! 植物は生きているから、想定外の成長もするし」 「うん」  僕はアーチを写真に撮って、パビリオンを抜け出して前任者が入院する病院を訪問した。   「これは、確かに君が言うとおりだ。すぐに作り直そう」 「いいのですか」 「ここまで二週間、君が俺の花を守ってくれた。その君が言うんだから、間違いないだろう」 「では、デザインを描いていただけますか」 「ん? 君の好きにしていいよ」 「いえ、僕はサポートに徹したいので」 「君って随分ストイックなんだな。名を売るチャンスなのに?」 「……あなたのデザインを再現させて下さい」 「ありがとう。俺を立ててくれて嬉しいよ」  彼は利き手ではない手で、懸命にアーチのデザインをしてくれた。  僕のこの後ろ向きにも見える考えは、時に理解してもらえないことも多い。  欲がなさ過ぎると言われることもある。  でもね……僕には……誰かの夢を奪うことは出来ない。  誰かの夢を膨らます手伝いをする方が嬉しいよ。  パビリオンに戻ると、菅野が壁にもたれておにぎりを頬張っていた。 「瑞樹ちゃん、お帰り~」 「うん、これ」 「やっぱり、作り直すアーチのデザインもらってきたのか」 「うん」 「瑞樹ちゃんらしいな」 「あ……うん。菅野は何も言わないんだな」 「当たり前だろ。瑞樹ちゃんは、誰かの夢を奪うのいやだもんな」 「ん……」  こんな会話にホッとする。  誰か一人でも、僕を理解してくれているのって、安心するよ。   「菅野の存在は、僕の『心のお守り』だよ」 「よせやい、照れるぜ」 「ありがとう、菅野」  僕の方から、菅野の肩に手を回してみた。 「お! 積極的だな」 「ふふ、一度やってみたかったんだ」 「いい感じだな。瑞樹ちゃんはさ……もう少し欲張れよ」 「でも……」 「仕事では無理そうなら、宗吾さんを欲張ってみろ。あの人、喜ぶよ」  不思議なアドバイスだった。     その晩、宗吾さんからのラブコールを待たずに、僕からかけてみた。  もう宗吾さんに三週間も触れていないし、触れてもらっていない。  あと一週間。  ここからが長い。     ゴールが見えているのに、僕、どうしたのだろう?  菅野のアドバイスを意識したせいか、湯上がりの身体の火照りが、なかなか冷めなかった。   「どうした? 君から電話をくれるなんて」 「ごめんなさい。待ちきれなくて……あの……芽生くんは?」 「あぁ眠そうだったので、今日は子供部屋で先に寝かせたよ」 「そうなんですね。もしかして運動会の練習がハードなんですか」 「そうだ。朝練で早起きしているしな」 「なるほど……」  そんな会話をしていると、宗吾さんが意味ありげに咳払いをした。 「あのさ……瑞樹……」 「はい……」 「今日の瑞樹の声、色っぽいな」 「え?」 「俺、そろそろ限界なんだ」  切羽詰まった宗吾さんの絞り出すような低い声に、ドキっする。 「あ、あの……」 「瑞樹は? 瑞樹はどうだ?」 「え……」   何を問われているのかは、すぐに理解出来た。  だから壁に背を預けて、もぞっと膝を立てた。 「君に触れてもいいか……目を閉じて……俺の手を思い出して」  それはいきなり始まった。  抗えない引力と共に、僕は快楽の波にもまれていく。 「ん……駄目です、そんな所に触れては」  押し殺した声で身を捩るが、宗吾さんの声に絡め取られていく。 「あっ……んっ」 「ん、もうこんなに乳首がコリコリになっているな。そうだ……そのまま手で摘まんで」 「あぁっ……」  まさか自分で自分を愛撫して感じるとは思っていなかったので、どうしていいか分からない。 「あっ……こわい」 「大丈夫だよ、怖くない……君からも強請ってくれ。もっと欲張ってくれよ」 「あ……う……んっ」  自分でも信じられない艶めかしい声が溢れ、辺りを見渡してしまった。  押し殺した声は、隣室には聞こえていないだろうか。  電気の消えた暗闇で、出口のない熱の高まりに泣きそうになった。 「宗吾さん……も、くるしい……です」 「パジャマのズボンを少しずらせ……もう勃っているんだろう? 俺と同じで」 「い……言わないでください」  耳元に届く魅力的な声に、僕のものは緩やかに勃起していた。 「あ……どうしよう」 「触れてみろ。どうなっている」 「……んっ……濡れて」  先端から透明な液体がにじみ出し、ぬるついていた。 「気持ちいいか」 「気持ち……いい……です」 「よし、俺がいつもするように指を輪っかにして扱いてくれ」 「宗吾さんも……宗吾さんも一緒ですか」 「あぁ、一緒だ」  こんなこと、したことない。  電話を介して、するなんて。 「瑞樹、だいぶ感じているな」 「言わないで……ください」  記憶の中の宗吾さんが僕を抱く。  僕の身体を押し倒し、乳首を吸い上げ舐め回し……僕をとろとろに溶かす宗吾さんの姿が闇に浮かんでいた。 「宗吾さん……」  自分を自分で慰めるのは、一体、いつぶりだろう。  宗吾さんに抱かれるようになってからは、していない。  それくらい僕は心も身体もすっぽり愛されていた。 「まだイクな、君に挿れたい」 「あ……」  僕はずるずるとシーツに沈み込み、おそるおそる足を開いた。  宗吾さんが出入りする部分が疼いて疼いて……辛い。 「どうしたら。ぐすっ……つらいです」 「瑞樹、指を使え」 「え……」 「俺だと思って」 「そんな」  指を舐めて固く閉じた部分にそっと潜らすと、つぷりと沈み込んでいった。 「あ……」 「そうだ。上手だ。瑞樹……一緒にいこう」 「宗吾さん」  目を閉じて宗吾さんを想った。  僕をこの地上につなぎ止めてくれる逞しい身体を…… 「あ……っ、ん、ん……」 「くっ」  宗吾さんの押し殺した声に煽られて……  僕は自分の口を自分で塞いで、縋るように宗吾さんに身を任せた。  やがて身体が弛緩し……その後、下半身に……ポタポタと腹を濡らす生温かいものが広がった。   「瑞樹、欲張ってくれてありがとう。すごく興奮したよ。もっと、もっと欲しいが……この続きは一週間後だ」 「ハァハァ……宗吾さん……僕、恋しいです」 「俺もだよ。瑞樹、頑張れ。俺も頑張るから」 「はい……はい……頑張ります」 「応援しているよ。君の傍にいつも俺の心が寄り添っている。今日は心で君を抱いた」  宗吾さんの言う通りだ。  僕たちは、今は離れ離れだが、心で抱いたり抱かれたり出来るほど、しっかり繋がっているんだ。 「宗吾さん、待っていて……下さいね」 「あぁ、瑞樹が戻る場所はここだ!」    夜は更けて、明けていくものだ。  だから待とう。  時が通過してくのを――          

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