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青い車に乗って・地上編 3
食後にキャロットケーキとミルクティーを出してもらった。
温かい紅茶を口に含むと、僕の涙は微笑みに変わり心も落ち着いてきた。
先ほど堪えきれずに「おかあさん」と思わず呼んで泣いてしまうと、宗吾さんと芽生くんがすぐに歩み寄ってくれ抱きしめてくれた。
そして暖かい言葉で包んでくれた。
その時、胸の奥に感じたよ。
お母さんの温もりが残っていることを。
宗吾さんと芽生くんと一緒に記憶に眠る母が、僕をふわりと抱きしめてくれているようだった。
僕は今日……ここに来て本当に良かった。
とても大切な事に気付かせてもらえた。
お母さんは『記憶の残る愛』を僕に植え付けてくれていた。
それほどまでに僕は愛してもらったのだ。
そこに想くんがやってきた。
少し照れ臭そうに立ち止まり、一度振り返って駿くんと視線を合わせた。
駿くんは大きく頷いて、想くんを後押ししているようにも見えた。
「あ、あのね……メイくん、よかったら僕たちと一緒に遊ばない?」
じっとしているのに飽きた芽生くんが、満面の笑みで想くんを見上げて答える。
「うん! あそぶー! あそびたい。お兄ちゃん、いってきてもいいかな?」
「もちろんだよ。仲良くね」
「うん!」
「じゃあ、ログハウスの横のお庭で遊んでいますので」
「はい、お願いします」
ぎこちない様子に、もしかして想くんも友だちを作るのが苦手だったのかなと思う。
僕も10歳で転校した函館の学校では、浮いていた。最初はろくに学校に通えなかったし、いつも暗く俯いてばかりで煙たがられていた。だから誰かに気軽に「遊ぼう」と誘われる事もなかった。
『あーそーぼ』
その一言のハードルは高く、放課後はいつも一人だった。
いつも孤独に空ばかり見上げていた。
「瑞樹、今のうちに気になっている事を聞いたらどうだ?」
「あ、そうですね」
「あの……」
僕は、駿くんのお母さんに話を切り出した。
「このログハウスについてお聞きしても?」
「えぇ、何か気になることでも?」
「実は……僕の知っているログハウスと外観がそっくりで驚いているんです」
「まぁそうなの? 私達は空き家になっていたのを2年ほど前に中古で購入したのよ」
「空き家ですか。あの……以前の持ち主をご存じですか」
不躾かもしれないが聞かずにはいられなかった。
「私は知らないわ。でも仲介してくれた不動産屋さんなら知っているかもしれないわよね。連絡先を探してくるので待っていてね」
「すみません。お手数ですがお願いします」
駿くんのお母さんが一旦ログハウスに戻ったので、原っぱには僕と宗吾さんだけになった。そよ風が吹く中、宗吾さんが優しく肩を組んでくれたので、僕は少しだけ宗吾さんにもたれた。
ここにも日溜まりが生まれる。
「なぁ見れば見るほど、大沼のログハウスと外観が似ているな」
「そうなんです。あの……熊のお父さんが言っていました。大沼のログハウスは、僕のお父さんと二人で建てた『ハンドカットログハウス』工法だと。原木の丸太を手で剥くピーリングから始め、ログ材の加工は全て手作業でやったそうなんです。だから時間も手間もかかったけれども世界に一つのログハウスが完成したと」
「なるほど、だから気になるんだな」
「はい……でも今日は焦らないことにします。今日は記憶の中のお母さんの思い出を大切にしたいので」
「そうだな。ゆっくり探っていこう。俺も手伝うよ」
森の向こうから楽しそうな声が聞こえてくる。
何をしているのかな?
芽生くんの笑い声に、僕と宗吾さんも自然と笑顔になる。
「芽生も気に入ったみたいだな。ここ、瑞樹はどう思う?」
「え?」
「俺は緑豊かな場所が好きだ。何しろ海より山派だからな」
「僕も同じですよ。ここは大沼のように、土をすぐ傍に感じられていいですね」
「じゃあ、さっき話に出た地元の不動産屋さんを紹介してもらわないか」
「え? そんな……急展開。そんなつもりでここに来たわけでは……」
僕の反応に宗吾さんがニカッと笑う。
「みーずき、善は急げだ! 良いと思ったことは躊躇しないで取りかかろうぜ! 好機は逃がすべきじゃないよ」
「それって……もしかして、以前話していた?」
「あぁ俺たちの家を建てる土地をそろそろ本格的に探そう!」
パーッと世界が明るくなった。
「瑞樹はもう前に進んでもいい時期だ。俺と人生を歩むのだから」
ポンっと背中を押される。
嬉しくてまた泣いてしまうよ。
宗吾さんといると……僕は自分がどんどん好きになる!
こんな風に生きたかった。
いや、生きていく。
宗吾さんと芽生くんと歩むべき道が、くっきりと見えてくる。
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