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青い車に乗って・地上編 4
突然の提案に瑞樹は目を見開いて驚いていたが、俺の方は今日ここに来る前から漠然と考えていた。
『横浜市 新緑区 しろつめ草三丁目』
瑞樹から幸せなイメージが膨らむ住所を聞いた途端、心が走り出していた。
そして今日森の中に佇むログハウスを見て、確信したのさ。
ここだ! ここがいい!
更地から始めたい。
俺たちの家づくりは、時間をかけてじっくりと練っていきたい。
そのためにもまずは俺たちらしい土地を探していた。
今の住まいは玲子との結婚を機に買った分譲マンションで、当時まだ若かったこともあり、玲子の親にも一部出資してもらい共有名義で購入したという経緯がある。離婚時に俺が買い取り名義変更したが、不動産登記簿謄本には玲子の親の名前が今でも出てしまう。そんなの書類上のことだと言えば、それまでだが、俺の気持ちはそうはいかない。
あの家は『仮住まい』のようなもので、瑞樹と生涯を過ごす終の住み処ではないという思いがこの2年をかけて強くなった。
それに……熊田さんから指摘された通り、玲子の名残が随所にあるのも気になって仕方がない。
「宗吾さん……あの、僕も夢を見ていいのでしょうか」
「当たり前だ。俺と同じ夢を見よう」
「……あまりに突然で……でもあまりに自然で……あまりに嬉しくて」
瑞樹は日溜まりの中で、泣き笑いのような表情を見せていた。
謙虚で控えめないじらしさ。
包んで暖めてやりたい切なく震える心を持つ瑞樹が、俺は大好きだ。
色々な表情を見せてくれるようになった愛しい恋人の肩を抱き寄せて、そのままごろんと仰向けになった。
あぁ、今日はまるであの日のようだ。
季節は違うが、クローバー畑で君に告白した日を思い出すよ。
三人でシロツメグサの花咲く原っぱに寝そべると緑の匂いが溢れて、青空が視界一杯に開けたよな。
あの日も今日も……俺たちが見上げる空は、どこまでも澄んでいる。
……
「今日は青空だな。でも明日の天気は分からない。雨かもしれないし曇りかもしれない」
「はい……そうですね」
「どんな天気でも俺たちは寄り添って生きて行こう。いい時も悪い時も、互いが互いの傘となって……過ごしていこう」
「はい」
「瑞樹……俺とずっと一緒に暮らしてくれないか」
「……あっ喜んで」
……
(恋の行方 5より引用)
「瑞樹と俺の夢の実現に向けて、踏み出してくれるか」
「……はい……喜んで」
風が吹くように花が咲くように、瑞樹は自然に返事をしてくれる。
君の視界はじわじわ濡れて、透明感を増していた。
あの日聞こえた幸せな音は、今も聞こえるよ。
今日は寝息ではなく、成長した息子の楽しそうな声が森の向こうから聞こえてくる。
あの日のように瑞樹の柔らかい髪に優しく触れ、それから額をコツンと合わせて、約束をする。
今もあの瞬間と同じだ。
胸がドキドキと高鳴っているよ。
「じゃあ、よろしくな!」
「僕の方こそ」
さぁ進もう!
俺たちの未来に向かって。
成長した芽生が見える。
俺たちの建てたログハウスに帰って来る映像が浮かぶよ。
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