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ハートフルクリスマスⅡ・11

 洋くんが扉を開けると  そこには……    白銀の世界が広がっていた! 「え……どうして……雪が……」  ここは鎌倉だ。雪など欠片も降っていないのに、ホスピスの中庭だけが雪化粧していた。   「瑞樹くん、驚いたか。 実は旅行や混雑した場所に行けない患者さんの願いで、ホワイトクリスマスを企画したんだ。業者に五トンもの雪を用意してもらい雪景色を再現してみたが、どうかな? 北国育ちの瑞樹くんに最終的なアドバイスをしてもらいたくて」  アドバイスも何も……あまりに見事な雪原に、僕の胸は高鳴りっぱなしだよ。 「洋くん、すごいよ。本当にすごい……! 本当に雪国に来たみたいだよ」 「そう言ってもらえると嬉しいよ。流さん、翠さん良かったですね」  洋くんが呼ぶと背後から、寒いのに作務衣姿の流さんと、しっかりコートを着込んだ翠さんが登場した。 「やぁ瑞樹くん、キャンプ以来だね」 「翠さん! 流さんお久しぶりです」 「元気だった?」 「はい!」 「よかった。今日は僕たちも総出で手伝いに来たんだ」 「あの……お寺はいいんですか」 「クリスマスにお寺に来る人は少ないし、両親が昨日から泊まっているのでね」  翠さんと流さんも、相変わらず仲睦まじい様子で癒やされる。 「お二人にも会えるなんて、最高のクリスマスです」 「おぅ! 俺たちも瑞樹くんたちに会えて嬉しいよ。何より洋が喜んでいる。実はこれからちょっとしたセレモニーをやるんだ。瑞樹くんたちにもぜひ見て欲しくて」 「楽しみです!」 「よし! そこで待っていてくれ」  僕はそっと雪に触れてみた。  純白の雪だ。  僕の故郷の冬景色だ。  じわりと懐かしい気持ちが溢れてくる。 「わぁ、お兄ちゃんの大好きな雪だね」 「うん、クリスマスに雪景色を見られるなんて幸せだよ。二年前にもこんなことがあったね」 「ボクがサンタさんにおねがいしたときだね」 「あの日の雪も今日の雪も……綺麗だね」 「お兄ちゃんとまた雪をみれてうれしいな」 「僕もだよ」  サンタ姿の芽生くんを抱き寄せて、一緒に雪に触れてみた。 「やっぱり、雪ってつめたいけど、あたたかいね」 「うん」  やがて中庭に入院中の子供や大人が集まって来た。  皆……雪を見ては目を見開き歓声をあげていた。 「すごい! ほんもののゆきだぁ」 「雪なんて、懐かしいな」 「もう二度と触れられないと思っていたのに」  思い思いの感想が飛び交っている。  そこに緊張した面持ちで、洋くんが登場する。  グレーのコートに白いマフラーをした洋くんは、まるで美しい氷の王子様のようで、皆、目を擦っていた。  少し緊張した様子で、口を開いた。   「皆さんにホワイトクリスマスをお届けにきました。そしてもう一つ贈りものがあります」  流さんが台車で白い布にかけられた物体を運んで来た。  なんだろう?  僕たちもじっと一部始終を見つめていた。  白い布をはらりと取り払うと……そこに現れたのは! 「あっ!」  氷の白鳥とユニコーンが向き合う氷のオブジェだった。  氷の彫刻は流さんが作ったのだろうか。  精巧に出来ており、まるで今にも動き出しそうだ。 「すごい!」 「天国にいるみたいだわ」 「ユニコーンの迎えが来るなら、怖くないわ」  皆、それぞれの想いを重ねている。  僕には、あの日大沼まで迎えに来てくれた宗吾さんの姿が重なって見えた。 「瑞樹、迎えに来たよ!」  あの日の逞しい声が、目映い光景が蘇ってくる。 ……  焦げ茶のロングコートにマフラーを巻いて、黒髪がさらさらと北国の風に揺れている。大人っぽく艶めいた笑顔で、僕の心を一気に鷲掴みする! 「えっ!」  思わずカメラを落としそうになってしまった。  それ程までに、驚いた。 「な……んで、そ……宗吾さんが」 「瑞樹を迎えに来た」 「そんな……聞いていないです。今日だなんて」 「東京で、昨日桜が開花したんだ」  宗吾さんが、どんどん近づいてくる。  驚いて、呆然と立ち尽くす僕を、逞しい腕ですっぽりと抱きしめてくれた。  北の大地から、僕の足が浮くほど……強くしっかりと抱きしめてくれた。  「宗吾さん、会いたかったです!」  「瑞樹、会いたかった!」   ……(北の大地で 19-1より再掲)……  あの時の感激が蘇り、あたたかい涙が頬を伝った。  あの日の僕はまだ、傷ついた鳥だった。  羽をむしられ、心も身体も傷ついて縮こまっていた。  指もスムーズに動かなくなっていた。  指が動いた瞬間と、宗吾さんと現れたタイミングが見事に重なって驚いた。  まるで魔法のような時間だった。 「宗吾さん、あの日を思い出しますね」 「あぁ……俺たちあの頃はしんどかったな。だが乗り越えてきたんだな」 「はい、ユニコーンみたいに宗吾さんが僕の前に現れてくれたんですよ」  ユニコーンは古くから『癒やしの存在』と言われている。  また、人を幸せに導く象徴とも。 「ユニコーンか。そんな風に思ってくれて嬉しいよ。君を守るために駆けつけたんだ。『希望』と『未来』をたっぷり抱いて……」 「はい、本当に嬉しかったです。まさか……あの日の光景を今日、見られるなんて」 「これは最高のクリスマスプレゼントだな」   

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