1255 / 1740

ハートフルクリスマスⅡ・13

 東京、軽井沢間は新幹線が通っているので、本当に便利だ。  わずか1時間で移動出来るなんて。  北海道内を電車で移動するのを考えたら、夢のようだ。  お陰で、暗くなる前に戻って来られた。  菫さんが一人留守番をしているので、早く家に帰りたいんだ。  今日はクリスマス。  結婚して初めてのクリスマスだ。  いっくんの夢を叶えてきたから、今度は菫さんの夢を叶えてやりたい。  ずっと誰かにしてもらうのが当たり前だったオレは、もういない。  今度はオレが動く番だ!   「間もなく軽井沢に到着します」  車内アナウンスを合図に、オレはいっくんの肩を揺らした。    「いっくん、着いたよ」 「むにゃ……むにゃ……サンタしゃん」 「参ったな」  くたっとしたままのいっくんを担いで、降車口に向かう。  新幹線がホームに滑り込みドアが開いた途端、ハッとした。 「すっ、菫さん‼」 「潤くん、迎えに来ちゃった」 「菫さん、今日はつわりは大丈夫なのか」 「もう大丈夫よ。家でお留守番していたら退屈で迎えに来ちゃった」 「嬉しいよ」  オレの奥さんの優しい花のような笑顔に、ほっとする。 「あらあら、いっくんってば、寝ちゃったの?」 「もう起きると思うが」 「いっくん、ママよ」 「……え? ママぁ?」  いっくんは菫さんが言った通り、ママの声に反応してパッと目覚めた。 「お帰り、いっくん」 「ママぁ、ただいま。あのね、いっくんこれもらった!」 「プレゼント?」 「うん!」 「よかったわね」  沢山働いたので、いっくんのエルフの衣装はくたびれていた。  それもそうか。子供たちと混ざって雪遊びもしたしドロドロだ。 「いっくん早く着替えさせないとな」 「それならアウトレットモールにいかない? 洋服を見たり、ご飯を食べたり、その……」 「クリスマスデートか」 「そう!」  菫さんがポッと頬を染める。 「その……私たちにとって初めてのクリスマスだから」 「そうだよな! オレもデートしたかった」  俺たちはアウトレットモールを気ままに巡り、いっくんに新しいトレーナーを買ってやり着替えさせ、洋食屋さんに入った。 「いっくん、好きなもの食べていいぞ」 「わぁ、ハンバーグさんある!」 「ふふ、お子様ランチにする?」 「いっくん、しんかんせんがいい」 「さっき乗ったばかりだもんね」  和やかな会話、穏やかな時間。  お腹の大きな菫さんと可愛い息子に囲まれて、オレ、今日も最高に幸せだ。 「菫さんがしたい事は他にないのか。クリスマスだし叶えてやりたい」 「あ……じゃあ観覧車に乗りたいな、家族で」 「いっくんものりたい」  アウトレットモールにある遊園地の大きな観覧車はローズガーデンからもいつも見えて一度乗ってみたいと憧れていた。 「オレも乗りたい」 「じゃあ、決まりね」 「パパぁ、これあけちゃだめ?」  いっくんは丈さんと洋くんからもらったご褒美が気になっているようだ。 「いいよ、見てみよう」 「わーい!」  大きな白い袋からは沢山のプレゼントが出て来た。  お手伝いのご褒美とのことだが、嬉しい贈りものだ。 「わぁ、わぁ! わー」  綺麗な色鉛筆、絵本、チョコレート  そして、なんとキッズサンタの衣装まで入っていた。 「おぉ? すごいな」 「これ、ぜんぶ、いっくんの?」 「そうだよ」 「サンタさんからのごほうび? いっくんおてつだいしたから?」 「来年はサンタの弟子にステップアップだな」 「わぁ、じゃあ、めーくんとまたあいたい」 「あぁ、また会おう!」  早速いっくんはサンタの衣装に着替えた。 「可愛い~」 「いっくんよかったわね」 「いっくん、サンタしゃんになっちゃった」  それから家族で観覧車に乗った。  ゴンドラが地上をゆっくり離れていく。  まるで宇宙船のようだ。  すっかり夜も更け、空には幾千もの星が瞬いていた。 「冬は星が綺麗ね」 「そうだな」 「あ、おそらのパパだ」 「……いっくん、手を振ってごらん」 「潤くん……ありがとう!」  俺たちは肩を寄せ合って、観覧車のてっぺんで空に向かって手を振った。  いっくんの活躍を見てくれましたか。  あなたの息子さんは、エルフになってがんばりましたよ。  オレは地上の父として、来年も再来年もずっと頑張ります。 「おそらのパパー おともだちできた? いっくんサンタさんになったよ。あとエルフしゃんにもなったよ」  いっくんの無邪気な声が、ゴンドラから夜空に飛び散っていく。  流星のように高く、高く!

ともだちにシェアしよう!